1990年4月15日。
米国中西部。
イースターの復活祭で人と街が活気に満ち満ちていたこの日、橘華純は30時間もの難産を日本人の母親と共に耐え抜き産まれてきた。
13歳でアメリカから日本へ渡り、16歳で高専へ入学。
その後、ニヶ月で2階級特進を果たす。
女呪術師としては目覚ましい活躍を見せた純の存在は瞬く間にこの界隈で取り沙汰されるようになり、本人の意思とは関係なしにその名がしばらくの間一人歩きしていた。
良い意味でも、悪い意味でも、だ。

「悟は居るか!」
「…あ?なに?」
「敬語使いなよ」
「はぁ?母ちゃんかお前は」

午前中の任務を片付け束の間の休息を取っていた高専トップ2のもとに、彼らの担任である夜蛾正道が強面の顔をさらに歪めながら机の上に突っ放している五条の名を呼んだ。

「お前、俺が言ったことを忘れてるだろ」
「あー?なんだっけ」
「例の一年生、橘華のことだ」

胸の前で腕を組みながらそう言った夜蛾の一言に、夏油が軽蔑するかのような視線を五条に送る。

「悟まさか…」
「なんだよ」
「もう後輩に手を出したの…?」
「んなわけあるか!顔も見たことねーよ!」

机を叩いて勢いよく起き上がった五条に対してそれならよかったと安堵のため息を吐く。続けていい子だから変に絡むなと忠告を加えると、少しズレたサングラスの隙間から覗く六眼が驚いたようにわずかな丸みを帯びた。

「え、なに傑。会ったことあんの?」
「あるよ。任務終わりに校門でばったり」
「マジか。可愛い?美人?つーかなんで教えてくんないの」
「…そうゆうところがあるからだよ」
「おい、俺の存在を無視するなお前ら」

自身の存在をアピールするため机に大きな拳を下ろすと、二人の視線が集中する。

「お前、早く橘華に挨拶してこい」
「え〜?あっちに来させろよ。俺先輩」
「ならこの件は傑に任せる方がよさそうだな」
「あ?」
「私は構いませんよ?"可愛い"後輩の世話ならいくらでも」

ニッコリと胡散臭い笑顔を貼り付けた夏油に「なんだお前その顔!」と内心ツッコミを入れながら立ち上がった五条。

「分かった!分かったって!行けばいいんだろ行けばっ」
「橘華は校庭で自主トレ中だ」
「へ〜い」

気怠そうに後ろ髪を掻き、片手を上げて返事を返した五条が教室から出ていくのを二人で見届ける。今のは完全に可愛いというワードに反応したなと、同時に小さな溜息を吐いた。

「悟に任せるなんて、先生も人が悪い」
「なんだ、知っていたのか」
「純から直接聞きました」
「…橘華は大丈夫そうか?」
「さぁ?彼女はまだ悟を知りませんからね」
「…傑、あまりいきすぎないようフォローを頼む」
「分かってますよ」

机に頬杖をついてそう言った夏油の携帯に純からのクレームメールが届くのは、20分後のことである。


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