"純へ。今悟と硝子と自販機の前。"

『ラジャーッ。夏油先輩っ』

橘華純の師にあたる人物、九十九由基は常々彼女にこう言っていた。

『やられっぱなしは女の恥!やり返すのが女の花道!』

だと。

「朝から極道映画でも観たんですか?」
『師匠の受け売りっ』
「いいね!熱いね、純!応援するよっ」
『この私がやられっぱなしでいるわけがない!』

五条たちとの距離は数メートル。死角になっている物陰に身を潜め、怖いからついて来てと道連れにした同期二人の両肩に手を乗せ意気込んだ純。ここに来る前なにをする気なんだと七海が問えば、昨日徹夜で覚えたプロレス技、スリーパーホールドを五条に喰らわせてやるんだと真顔で言われた。

「命知らずとは貴女のような方を指すんでしょうね」
「純は勇敢だよ!相手はあの五条先輩だもん」
『フッ。油断してるぜあのグラサン。今に見てろよ』

どこからともなく出した安っぽいサングラスをかけ、今日の私はゴル◯13のようにワイルドだぜ。とスカしている純の視線が五条を完全にロックオンしている。その横では灰原が「それ100円ショ◯プでこないだ買ってたヤツ!」とケラケラと笑顔を浮かべていた。

「…身長の差的に無理でしょう…190ですよ?」
『しゃがみ込んだ瞬間を狙うんだぜ』
「それならいけるんだぜ」
「二人でボケるのやめて下さい。疲れる」
『ナナミー大佐の分もあるぜ』
「要りません」

どんな無駄遣いをしているんだと内心ツッコミ同じ100円のサングラスを拒絶したその瞬間、純が素早く息を吸い込み『来た!』と自販機の前でしゃがみ込んでいる五条目がけて一目散に駆け出した。

「おーっ!行ったよ七海!」
「足速っ」

まさに韋駄天走りいだてんばしで五条に近づいていく純の勇姿に刮目する二人。

「ったく。なんでコーラ売り切れてんだよ」
「フッ…」
「…?…傑なに笑ってん…のっ…!?」

刹那、背中に強い衝撃が走り、そして…!

『うおりゃーー!!喰らえ渾身のスリーパーホールドォォ!』

しゃがみ込んでいた体が前のめりに傾きすぐに首元を腕で固定された後、そのまま勢いよく後ろに倒れ尻もちをついた。

「うぐっ…おまっ…!純てめぇっ…!!」
「ヤバい超ウケるっ。写メ撮ろっ」
「フフッ…硝子、私にも後で送っておいて」
『油断したなマヌケ!日頃の恨み思い知れバーカッ』
「(ブチッ)…このっ…ふざけんなっ…!!」

グググッ!と出せる力の全てを出し切り五条の首を締めつけると、そろそろ反撃されそうだなというところで素早く離れ背を向けダッシュ。猛ダッシュ。咳き込む五条が額に青筋を浮かべながら「待てクソ純!」と声を荒げているが無視。
協力してくれた夏油にグッ!と親指を突き立て感謝の意を示すと、同期二人の手を掴み『逃げろー!』と笑顔を浮かべて走り去ってしまった。

「プッ、アハハハハハッ!純最高っ!」
「フフッ。可愛い後輩にしてやられたね悟」
「ああっ!?!?」
「今年の一年さー、いいね。元気で」
「どこがだよ!…ったく、あいつマジ覚えとけよっ…」
「…(本当に気に入ってるんだろうな、彼女のこと)」

避けようと思えば避けれていたし、すぐに反撃しようと思えばできていた。加えて彼女の気配に気づけないほど、五条悟は弱くない。クチグチと不平不満を口にしている五条を見つめながら、夏油は小さく穏やかな笑みを浮かべた。


*師匠受け売り




*前  次#


○Top