「リクハ包帯取ってくれない?」
『はいっ』
「あ、ごめんここにあった!」
『リンさんそれ今日で2回目っ』
「え、そうだっけ??」

ここはうちはの演習場。広い敷地内には腕の立つ強者たちが集まり本番さながらの忍術や体術をぶつけ合い日々切磋琢磨している。そんな演習では当たり前だがケガ人が後を絶たず、医療忍術を扱える人間が必要不可欠。そこで派遣されやって来たのがリンを中心に構成された医療班だった。

「…やっぱりリンは最高だ」
「…」
「ほーら始まったぞイタチ…」
「はは…」

少し離れた場所にいるリンをぼ〜っと見つめながらぽつりとそう呟いたオビトに、そばで休憩していたシスイとイタチが苦笑いを浮かべた。ここ数日リンが医療班として出入りするようになってから、ずーーっとこの調子なのだ。もちろん手合わせとなれば真剣になり若手の育成にも進んで取り組んでくれてはいるのだが、いざリンを前にするとほっこりと幸せそうな笑みを浮かべてひたすら「リンはかわいいな〜」とか「やっぱり最高だ」と独り言を呟いているのだ。同じうちは一族の先輩として尊敬できるところは沢山あるのだが、さすがにそろそろ想いを伝えたらどうかとは正直思うところがある。

「なあ、イタチもそう思うだろ?」
「え、なんです?」
「リンの事をさ、可愛い奴だなって思うだろ?」

視線をリンに向けたまま、同意を求めるかのような問いかけにイタチは表情を変えることなく口を開いた。

「すいません。思ったことはないです」
「プッ…!」
「なんだよシスイ…」
「いや、真面目に答えるお前が可笑しくてついなっ」

目の前でケラケラと笑うシスイを怪訝な表情を浮かべ見つめるイタチ。自分はただ質問に対して素直な気持ちを言っただけで、面白い要素などこれっぽちもないというのに何故笑っているのだろうと。

「リンの魅力に気づかないなんて、お前は本物の堅物って奴だな」
「違いますよオビトさん」
「あ?」
「イタチにはリクハしか見えてないだけです」

笑顔を浮かべたシスイがさらりとそう言えば、イタチは「おいっ…」と少しだけ頬を染めながら表情を歪めて期待通りの反応をしてくれた。すでにイタチがリクハを想っていることは知っていたし驚くことではないのだが、やはりあの真面目なイタチが恋をしているという点にオビトまでにやにやと不敵な笑みを浮かべる。そんな二人を前にイタチがイラッとしたのは言うまでもない。

「オレたちは片想い同士、同じ穴の狢だな」
「…一緒にしないで下さい」
「お前のそのリクハしか見えないって気持ちはよく分かる。オレももうリンしか見えてないからな」
「半ストーカー化してるって、リクハが言ってたよな。イタチ」
「ああ」
「またカカシが吹き込んだな!してるわけないだろ!」

ぷんすかとストーカー疑惑を否定するオビトに、シスイは声を出して笑う。師匠がカカシという事もあってかオビトの話はよく耳にすると言っていたリクハ。どこまでが本当かは分からないが、この様子を見る限りではあながち間違っていないんじゃないかと思えてくる。

「想いは伝えたのか?」
「いえ、まだです」
「駄目だ!男なら当たって砕けるくらいの覚悟でだなっ」
「凄いな。自分を棚に上げてよく言えますね」

シスイの的確すぎる冷静なツッコミにはイタチも内心「よく言ってくれた」と賞賛する。

「甘いなシスイ」
「え?」
「オレとリンの間にはいちいち気持ちなんか確認しなくても切れない深い繋がりが…絆があるんだよ」
「「…………」」

フッと似合わないスカした笑みを浮かべそう言ったオビトに、無言の反応を返す後輩二人。さすがにここまで自分に酔っていると見るに耐えないなと感じながらも、人のいいシスイは「じゃあ…」とオビトとある提案をしてみた。

「ここからリンさんがオビトさんに気付いて手を振ってくれたら、二人の絆がしっかりあるってことでどうです?」
「なっ…ああ?」
「面白そうだからイタチ。お前もやってみろ」
「おい、オレまで巻き込むな」
「ただ気配に気づいてもらえばいいだけなんだぞ?」
「だからって…」
「よし、やるぞイタチ。オレは負けねぇからな」

時々こうしてふざけたことを言い出すシスイに呆れ顔を浮かべながらも、やる気0でとりあえずリクハたちのいる場所へと視線を向ける。一方のオビトはこれを勝負だと思っているらしく、写輪眼でも出すのかとツッコミたくなるほどの視線を送り始めた。

『…!(ぞくっ)』
「どうしたのリクハ」
『な、なんか視線が…誰かに見られているような』
「えぇ?どこから?」
『…後ろから?』
「……うん。なんかオビトがすごい形相で睨んできてる…。目を合わせない方がいいかも」

逆効果だった。ケガ人の治療に当たっていたリクハはいち早くオビトの異様なまでの気配に気づき身を縮こませる。若干恐怖を感じ振り向かないでおこうと意を決した時だった。下を向いていた顔を上げた瞬間、視界の片隅でこちらを見ているイタチと目が合ったような気がしたのは。

「……リクハ」

それはイタチも同じだったようで小さく名前を呟くと、完全にこちらに振り向いてくれたリクハがふわりと可愛らしい笑顔で手を振って来てくれた。これはさすがに嬉しくて、今の今まで無表情だったイタチの顔に笑顔が浮ぶ。

「お。さすがだなーイタチ、圧勝だ」
「いーやまだだぞ!今のはシスイに振ったんだろ」
「オレはリクハを見てませんでしたよ」

往生際が悪いというかなんというか。すでにリクハがイタチに気づいたというのにそれでもなお負けじと視線を送り続けるオビト。そんなこんなで5分程経過した時だった。リクハが表情を歪めながらこちらに歩み寄ってきたのは。

『ちょっとオビトさん!』
「うわっ、リンじゃなくリクハが来た!」
『うわって何ですか!それより…』

リンならよかったのにと呟いたオビトにジト目で睨むリクハ。イタチがどうした?と問いかけると今度は呆れ顔を浮かべ口を開いた。

『さっきからオビトさんがずっと睨んでくるから、リンさん怖がってますよ』
「な"っ…」
「プッ…!あはははははっ」
「おい、笑い過ぎだぞシスイ」
『?』

あまりにもリンが引いていたからこのままではオビトの印象に関わると思い、わざわざ伝えに来てくれたらしいリクハ。ただ気づいて欲しくて視線を送っていただけなのに逆に怖がらせていたなんてつゆ知らず、がっくりと肩を落とすオビトの横でシスイは腹を抱えて大笑いしイタチは渋い表情を浮かべていた。

『なんなの?』
「あはははっ…いや、実はなリクハ」

目尻に溜まった涙を拭きながら先ほどまでのことをシスイが説明すると、リクハまで盛大にあはははと大爆笑しだしたものだから流石のオビトもキレ気味に「笑うな!」と立ち上がった。

『あ〜可笑しいっ。私とイタチの絆以下ですね』
「うるさい。お前らにオレたちの絆が分かってたまるか」
『それ負け惜しみって言うんですよ』
「負けてない!リンを想う気持ちならイタチに勝ってる」
「オレがリンさんを想ってるみたいな言い方はやめて下さい」

ぴしゃりとそう言ったイタチにけらけらと笑うシスイ。なんだか後輩たちに小馬鹿にされているような気分になり「はぁぁ」と深いため息をついた、その時だった。

「ごめんリクハ〜!包帯貸して〜っ」
『あ、今行きまーす!』

今度こそ包帯を切らしてしまったのだろう、手を上げてリクハを呼ぶリンの声が響きオビトの視線がリンに向けられる。こうも簡単に名前を呼んでもらえて羨ましい、なんて拗ねた表情を浮かべていると突然手首を掴まれ手のひらに重みが加わった。

『はい、オビトさん』
「え??」

目の前にいるリクハに視線を戻すと自分の手の上に包帯の入ったポーチを乗せて来たものだから、その行動に首を傾げた。

『リンさんと話すチャンスです』
「…!リクハ、お前…っ」
『私は二人の手当てをしてるって言って、それリンさんに渡して来て下さい』

オビトから手を離しふわりと微笑むリクハを前に、最近カカシの影響なのか自分を馬鹿にしているような気がしていたが時々こうして背中を押してくれる行動には感謝するばかりだ。そして不覚にも、その笑顔は悪くない…なんて感じていると顔に出ていたのかイタチに「早く行って下さい」と本当に背中を押されてしまった。

「あ、ありがとなっ!リクハ!」
『がんばって!オビトさんっ』


君が背中をしてくれるなら
(どんな困難も、乗り越えられそうな気がするんだ)


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