「なあリクハ」
『ん?』
「お前この前演習場で…オビトさんと何話してたんだ?」
『え?』

任務の報告を終えた帰り道。疲れた、なんて柄にもないことを考え歩いていたら偶然にも甘味処から出てきたリクハと鉢合わせした。なんだ今日はツイてると内心呟きながら、小さく手を振り笑顔で歩み寄って来てくれた幼馴染に癒される。時間があるなら今しがた買ったばかりの三色団子を一緒に食べようと誘ってきてくれたものだから、断る理由なんか無く即答で「YES」の返事を返した。
立ち話も何だからと近くの河川敷に腰を下ろし、夕陽を眺めながら束の間の時間を過ごす。そんな最中ふと先日リクハとオビトが仲睦まじく会話していたのを思い出し、若干モヤモヤした気持ちを抱きながら問いかけてみた。すると…。

『やっぱり、イタチも気になるよねっ』
「え?」
『オビトさんとリンさんの恋の行方』
「…その事を話してたのか?」
『うん。相談に乗ってた』
「相談?…お前が?」
『…あ、今…超鈍感のお前がって思った?』
「くすっ。…ああ、少しだけ思った」
『え〜っ、イタチまでそう思ってるの?』

渋い表情を浮かべながら団子をもぐもぐと食べるリクハに自然と笑みがこぼれる。こうして自分だけに向けられる言葉や表情一つ一つが嬉しくて幸せだと感じる。先程のモヤモヤなんてすでにどこかへ消えてしまっていて、自分の単純さにも何だか笑えた。

「で、いい助言はできたのか?」
『…ううん』
「はは。何だそれ」
『だって、考えてみたら私恋愛経験0だし…』

団子の無くなった串を見つめながら落ち込むリクハ。この十数年間忍術ばかりに打ち込みすぎていたせいか、恋愛のなんたるかなんて自分にはよく分からないのが正直なところで。人に助言するどころではなく逆に助言してもらわなければならない立場だったと今になって気づかされた。

『オビトさんには恋愛対象外って言われるし…』

こんな勇ましい女を好きになってくれる人いるのかな?と肩を落としたところで、イタチの眉間にシワが寄る。

「お前、まさかオビトさんのこと…」
『え?』
「…好きなのか?」

言い方が悪かったのかイタチには、リクハがオビトに気があって自分は果たして恋愛対象になるのかと問いただした結果…対象外だと言われたと聞こえたようでリクハは口元に手を当てクスクスと笑みを浮かべた。

『ふふっ、私オビトさんを応援してるんだよ?』
「…そ、そうだったな。悪い」
『逆に私なんて願い下げだよ』
「何か言われたのか?」
『料理で人を殺すからって。酷いよね?』
「……」
『えっ、そこ納得した!?』

目を細めて遠くを見つめるイタチの反応に、あなたは味方じゃなかったの!?と言わんばかりに肩を揺らすリクハ。シスイと共に手料理を食べて体調を崩した苦い思い出は確かにあるが、それもなんと言うか…今では愛情が上回ってどうでもいいとさえ思えてしまう自分はとことん拗ねた表情を浮かべているこの幼馴染に惚れ込んでいるようだ。

『ふん…どーせモテない女ですよ私は…』
「何だ拗ねたのか?」
『拗ねてません』
「その顔は…拗ねてるな」

片方の頬だけ膨らませて不機嫌そうにしているリクハの顔を覗き込みながらそう言ったイタチは、人差し指でその頬をつつき笑いをこぼす。このやり取りだって今に始まったことじゃない。もう何百回と繰り返してきているし、表情一つで何を考えているかとか、思っていることが大体分かるようになった。自分はこんなにもリクハのことを理解し想っているのだから、少しくらいこの気持ちに気付いてくれたっていいじゃないかと思う。が、その反面この関係が崩れてしまうのを恐れている臆病な自分もいて、いつまで経っても幼馴染のまま大きな一歩が踏み出せない。

「ほら、機嫌直せ」

言いながら目の前で新しい団子をチラつかせると、それを渋い表情のまま受け取りもぐもぐと食べ始めたものだから思わず笑いが溢れた。

『…もぐもぐ』
「リクハ」
『…ん?』

名前を呼べば、まるでリスのように頬を膨らませて食べているリクハと視線が重なり小動物のような可愛さに思わず本音が口からこぼれ落ちる。

「くすっ。…可愛い」
『えっ…?』

目を細め、愛おしげな眼差しで自分を見つめてくるイタチにドキッと心臓が高鳴り思わず視線を反らす。いつもと変わらず接しているだけなのに、何かがいつもと違って見えて気恥ずかしい感じがした。

「お前は自分が思ってるよりずっと魅力がある」
『…へ?』
「幼馴染のオレがそう感じるんだから間違いないさ」
『そ、そうかな?そうだといいんだけど…』

急にそんなことを言われて恥ずかしそうに髪を撫でるリクハ。気づけばイタチの前でもぐもぐと団子を食べている自分の品のなさに頬が熱くなる。今までこんな風に思ったことはなかったが、今ふと感じてしまった。

「なんだ、照れてるのか?」
『て、照れないよっ。…まさか、からかったの?』
「そんなわけ無いだろ。本心だよ」
『……あ、ありがと』

恥ずかしさを誤魔化そうと残りの団子を結局頬張り食べてしまう。なんだが今日は調子が狂うなぁなんて考えながら夕日を眺めていると、ある疑問が浮かび上がりイタチの名を呼んだ。

『ねぇ、イタチ』
「ん?」
『今、ふと思ったんだけどさ…』
「ああ」
『そう言えばイタチって、好きな子いるの?』
「………え?」


動き出したらの時間
(ずっと幼馴染だったから、触れられずにいた)


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