『オビトさんっ』
「…!?」
『またこっそり覗いてるんですか?』
今日は朝から快晴で清々しい天気。うちはの演習場で救護班の手伝いをしているリクハが自分の持ち場である救護用テントに向かうと、その前で中をかなり怪しげに覗いてみたり、見なかったりを繰り返している見知った姿を見つけ背後から不思議そうに声をかけた。
「うわっ、リクハ!?脅かすなって」
『脅かしてません、何してるんですか?』
「…いや、べ、別に何も…」
言いながらワザとらしく視線を逸らすオビト。
『……はは〜ん。目当てはリンさんだ』
こんな怪しげな行動を繰り返しているくせに何もありませんはないだろうと内心ツッコミを入れながら中を覗くと、案の定そこにはリンの姿がありオビトの目的がすぐに明白になった。ニヒルな笑みを浮かべ『オビトさんってば』と茶化してくる後輩に少しだけ苛立った。
『呼んできましょうか?』
「いや、やめろ!お前が関わるとロクなことにならん」
『何ですかその言い方っ。いつもリンさんとの間取り持ってるの私じゃないですか!』
「ばっ!静かにしろって。ちょっとこっち来い!」
『いてっ…、首根っこ掴むな馬鹿オビト!』
「馬鹿!?」
『って言っていいってカカシさんが』
「あの野郎今に見てろよ…」
テントの前からリクハの首根っこを掴みずるずると引きずって行くオビト。近くにあった椅子に腰を下ろし、演習場で修行をしている同志達を見つめ溜息を吐いた。
『恋愛相談なら乗りますけど…』
「…お前が?」
『何ですかその目は』
「シスイから聞いたぞ。お前超鈍感だって」
『…まさか。デタラメですよ』
「あいつはいつも正しいことしか言わん」
そう言いながらもまた意味深な溜息を吐いたオビト。彼が幼い頃からリンに特別な想いを抱いていることを知っているリクハ。まあ、分かりやすい態度を見ていれば一目瞭然なのだが何せ鈍感なリクハはカカシの曝露によってその想いを知った。自分からみてもリンは優しくて優秀で、まさにその姿は絵に描いたような女性像と言える。オビトがリンを好きになるのも納得ができ、放っておくことも出来ないので隣に腰を下ろし肩をポンと叩いた。
『そろそろ告白したらどうですか?』
「…フラれたらどうすんだ」
『うわっ…意外と小心者なんですね』
「うるさい」
戦いとなれば先陣切って進んでいくオビトが拗ねた表情を浮かべたものだから、何だか可愛く見えてしまった。オビトとはそこまで深い付き合いではないからまだまだ知らない一面がたくさんあるのだろうと感じる。真面目で冷静なイタチや気さくなシスイとはまた違ったタイプの人柄で、うちは一族にしてはかなり砕けている方だと思う。冗談もかなり通じるし、近寄りがたい雰囲気もない。正直一番接しやすいんじゃないかとリクハは初対面の時からそう思っていた。
『他の男性はともかく、うじうじしてたらカカシさんに取られちゃいますよ』
「なあ、それってさ」
『ん?』
「リンはやっぱり、カカシの方が良いってことなのか?」
人としての魅力もユーモアもあるオビト。ちょっとバカだなと感じる事もあるけれど、それは愛嬌というやつで…恋人になれば毎日楽しいんじゃないかと思うのだが…。毎度毎度カカシの存在がそんな魅力を見事に消し去り邪魔をしてしまう。オビトにとっては最大のライバルであるカカシ。その愛弟子に当たるリクハはどうしてかカカシを応援せずに、自分の背中をいつも押してくれているのだ。
『オビトさん!決めつけるのはまだ早いっ』
「じゃあ、お前ならどっちを選ぶ?」
『え?』
「目の前にオレとカカシが居たとして、どっちを自分の恋人にしたいって思う」
『…え、それは…えっと…』
オビトの真剣な眼差しに、たじろぎながら考えるリクハ。頭の中で二人が自分に手を差し伸べているとして、果たしてどっちの手を取るかと妄想してみる。カカシはいつも覇気がなくてイチャイチャパラダイスばかり読んでいるけれど、実力はかなりの物で正直なんだってこなせる。頭もいい。かたやオビトはユーモアのセンスが抜群によく、たぶん一緒にいて楽しいだろう。不器用だがここまでリンのことを想ってきた一途さはかなりポイントが高い。
リクハが何度も何度も首を捻りながら考えやっと答えが出たのかゆっくりとオビトに顔を向けると、少しだけ緊張した面持ちで「どっちだ?」と聞いてきた。
『私なら…』
「…おう(ゴクリッ)」
くノ一の中でもダントツに人気があるリクハからの意見はかなり参考にはなるが、その分リアルで恐怖も感じる。
『………』
「(なんだこの間…!)」
『オビトさん』
「おう…」
『私なら……』
「おう…」
『…どっちも選びません』
「(ガーーンッ!!!)なんだよそれ!!」
真顔でそう言ったリクハは悪びれる様子もなく『なんか二人を恋愛対象にして見るのは無理です』と断言した。これを聞いたらカカシのやつきっと本気で落ち込むだろうなと感じたが、黙っておくことにした。
『カカシさんは私の師匠だし、オビトさんは先輩って感じが強くて。悪い意味ではないです』
「まあ…オレもお前を恋愛対象に見れないしな」
『なんでですか』
「だってお前料理下手だし」
『うわっ!…あのお喋りシスイめっ!バラしたな!』
「鈍感だから面倒くさいし」
『…鈍感じゃないです』
「ライバル多そうだし」
『ライバル?』
「…何よりイタチの視線がさっきからめちゃくちゃ怖い」
『え?』
そう言いながらオビトがリクハにしか分からないように後ろを指差し見てみろと合図を送ると、リクハは体を反転させて振り向く。すると少し離れた場所からドス黒いオーラを放出させたいそう不機嫌な表情を浮かべたイタチが視界に入り冷やっとした。隣ではシスイが苦笑いを浮かべ、小さく「こっち来い」と手招きしている。
『わっ…誰ですかねイタチ怒らせたの』
「…は?」
『あんな不機嫌な顔してるの久しぶりに見ました』
「お前…気づいてないのか?」
『何をですか?』
「………シスイの言った通りだな」
『???』
リクハの表情を見る限り、本当に何も分かっていない状態でオビトは引きつった笑顔を浮かべた。
「イタチはオレより苦労してんだな…」
『…暗部ですからね』
「…いや…。もういいから、イタチの機嫌直して来い」
『…?またいつでも相談に乗ります、オビトさん』
「頼りにならないのにか?」
『ひ、ひどいっ!』
「ははっ、冗談だよ。サンキューな、リクハ」
うちはオビト
(その人は私の師匠の大親友)
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