「え、もう一回頼む。今なんつった?」
「だからさ、オレの弟子だって言ったの」
「…あの子が?」
「そう」
「…………え、わりぃ。…もう一回言ってくんない?」
「お前、信じる気ないでしょ?」

唖然とした表情を浮かべているオビトに対し、カカシはもううんざりだと言いたげな視線を向けた。
非番の今日。カカシに話があると言われ待ち合わせである公園に来てみれば、そこに居たのはカカシだけではなくリンとパックン。そして見知らぬ少女だった。

「いやだって………え…まじで??」
「マジだから。嘘つく必要がどこにあるの」
「あの子がお前の……弟子??」
「うん。つーかその確認5回目だから。しつこい」

空色の長い髪に同色の大きな瞳。少女のことは知らないが、その特徴を持つ一族のことはよく知っている…どころではなかった。他者には会得不可能とされている高度な医療忍術を扱い、過去の戦いにおいては「うちはの懐刀」とも称されたうちはと最も関わりの深い一族。仙波一族。
少女の容姿は紛れも無くその一族のもので、オビトはなぜ分野違いのカカシが師匠として任命されたかが分からず、先程から同じ質問を繰り返しているのだ。あの少女に師匠を付けるとしたら同じ一族の上忍か、医療忍術のエキスパートである綱手だろうと思いながら。

「会ったことあると思ってた」
「ねぇよ…。オレ仙波に知り合いいねぇもん」
「ふぅん。ま、確かに友達少なそーだもんな」
「テメーにだけは言われたくねぇ!!」

ビシ!と勢いよくカカシを指差し怒りをあらわにするオビト。しかしいつものように軽々とスルーされ視線を反らされた。カカシが見つめる先にはブランコに乗り楽しそうにはしゃいでいる幼い少女とリン、そしてパックンがいる。オビトはいつもの気さくな性格を発揮して二人と一匹に近づいていき、声をかけた。

「リン、パックン」
『…ん?』
「あ、オビト!来てたんだねっ」
「またいつも通りの遅刻だな」
「あははは…わりぃ」
『…お姉ちゃん?この人だれ?』

ブランコをこぐのをやめて背中を押してくれていたリンに振り向きオビトを指差す。近くで見れば見る程「かわいい子だなあ」と幼いながらにして整ったその容姿に感心していると、いつの間にか空色の双眼が自分をじぃっと見つめているのに気づいて少し驚いた。

『お兄ちゃん、"うちは"一族の人だ』

まだ自己紹介もしていないのに自分がうちはの人間であることをピタリと言い当てられ目を丸くするオビト。すると自らの目元を指差しながら『キレイな目だからすぐ分かった』と言った少女はふわりと嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「へぇ。大したもんだな、お前っ」
「ほら、自己紹介してオビトッ」
「あ、ああ、そっか!」

リンに小声で促されたオビトはニッと人懐こっい笑顔を浮かべながら膝に両手をつき目線を合わせる。自分のよく知るうちはの二人と同じ漆黒の瞳はとてもキレイで安心感があった。

「オレはオビト!うちはオビトだっ!よろしく!」
『オビトお兄ちゃんっ』
「(お兄っ……か、かわいいっ…)」

同じように白い歯を見せニッと笑いながらそう言った少女。その幼い子供特有の可愛さに胸を打たれたオビトはへらへらと緩んだ笑みを浮かべて頬を赤く染める。近くでそんなオビトを見ていたリンとパックンが顔を見合わせて笑い、わかるわかると頷いた。

『私は仙波リクハですっ』
「リクハか〜、かわいいヤツだな〜お前」
「すっごく素直でいい子なんだよ〜」
「オビト、鼻の下が伸び切っとるぞ」
『あはははっ、お兄ちゃんの顔おもしろいっ』
「はっ…!ついっ」

けらけらとオビトの顔を指差し笑っているリクハ。カカシの弟子になった子だから一体どんな子かと思っていたけれど、予想以上にいい子というやつで驚いた。それと同時に本当にカカシでいいのか?と思い直し離れたベンチへ視線を向けると、なぜか親指を下向きに突きつけられあり得ないくらい不機嫌な視線で睨まれてしまった。

「なんかすげー殺気向けられてんだけど…何あいつ」
「リクハ〜、言っとくけどオビトはうちはの落ちこぼれだからー」
『え?』
「な"っ!!てめーっ、ふざけんなよカカシ!!」



数年前、カカシを介して出会うことができたリクハという存在。のちに分かったことと言えば、彼女がイタチの幼馴染で、シスイの妹分だと言うこと。そして自分とは違い、とても優秀で天才だということ。最近まで深い付き合いはなかったけれど、今になって思うことは…。

「だから!今の豪火球は避けるんじゃなくて相殺できる術で返して来いって言っただろ!」
『言ってないから!今聞きました!』
「言ったぞオレは!」
『言ってない!』
「言った!」
『言ってない!』
「言った!!」

思うことは、やっぱりカカシの弟子とは…ソリが合わないと言うことだ。

『うるさいなあーもーっ!』
「おまっ、先輩に対してその口の利き方はなんだ!」
『はぁーもう!カカシさんと同じこと言うー!』
「あいつと一緒にすんな!」
『言っときますけど似た者同士ですからね、あなた達!』
「やめろ!やだ!」
『カカシ2号!』
「やだ!」
『カカシ2号〜っ』
「あー、うるさい!」

バシッとリクハの頭を服の裾で叩くオビト。口を開けばカカシのように自分を煽ってくるこの態度が本当にあの男の弟子だなと思い知らされ対応に困る。おっとりとした可愛らしい女の子という見た目とは裏腹に、口を開けばよくまあ喋る。
そんな二人の揉め合いを少し離れた場所から眺めているカカシとリンは、また始まったと顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

「リクハって、オビトにはああやって食ってかかるんだよね」
「ああ〜、なんでだろーね」
「ふふっ。カカシに似たんじゃない?」
「え〜?オレあんなに凶暴じゃないよ」

ずどーん!という音と衝撃が伝わり視線を送ると、リクハが拳で地面を叩き割っていてオビトが「ふざけんなー!」と叫んでいるのが見えた。昔は二人が仲良くしているのを見るとイライラしたもんだけれど、今となってはもう好きにしてくれとさえ思う。ただ…。

「イタチだけは、イヤなんだよねぇ…」
「え?なんか言ったカカシ?」
「あー、いや。すごい馬鹿力だと思って」
「…綱手様直伝だからね」

ボソッと本当に小さく呟いた言葉がリンに届くことはなくて、ただカカシに視線を向け苦笑いを浮かべていた。

『万年片想いのくせにーっ』
「お前だってこないだイタチに好きな子ができたとか言ってビービー騒いでたじゃねぇか!」
『あ、ちょっ!!黙れオビト!』
「はぁ!?黙れオビトだと!?」
『って、カカシさんが言っていいって前に』
「師弟揃ってうんざりだもう!」

ギャーギャー騒ぐ二人を仲良いな〜と呑気に見つめる二人。わりと喜怒哀楽のハッキリしている両者だから感情的になるスピードが似ていてすぐ揉め合いになるのは日常茶飯事。そして…、すぐに仲良くなるのもお決まりのパターンになっている。

『あ、オビトさん!リンさんがこっち見てるっ』
「え、マジで!?」
『手でも振ったらどうですか?チャンスです』
「カカシが邪魔なんだよなぁ〜」
『目を合わせれば大丈夫。ほら早くっ』
「お、おう…」

リクハに促されるまま背後にいるであろうリンに笑顔で振り返ると、そこには…。

『「あ、あの野郎〜〜っっ!」』

リンと楽しそうに談笑しているカカシがいた。


いのきっかけは
(ムカつくあいつの弟子だったから)


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