「ったく…リンが見えないっての」

不謹慎だが修行の休憩中、医療班として派遣されて来ているリンを眺めているとちらちら視界にリクハが入り込んでくる。仕事をしているからあっちこっち移動するのは良いのだが、時々にやにやしながらこちらに視線を送ってくるものだからその度に邪魔だと手で合図しジト目で睨んでやった。

「オレの可愛い愛弟子を邪険に扱うなよオビト」

するとその直後、背後から聞き慣れたやる気のない声が近づいて来たものだからオビトはあからさまに嫌な顔を浮かべる。なんで今ここに居るんだ帰れ帰れと内心呟くが、見事にその逆の行動を取られてしまい「よいしょ」と言いながら隣に腰を下ろしたいけ好かないカカシに舌打ちをした。なにが可愛い愛弟子だ、お前なんかが師匠じゃ逆にリクハが可哀想だと心の中で悪態をつきながら。

「なんでお前がここに居るんだよ…」
「え?リクハの様子見に来た」
「…修行でもないのにか?」
「だって"愛弟子"だもん。オレのね」

自分にはあんなに可愛い"弟子"が居ますよアピールは今に始まった事ではないが、やはり毎回やられると流石にうざい。確かにカカシは昔から優秀で指導者の素質も十分にあるのだが、リクハを弟子にした頃からはそれに拍車がかかり修行がない日常生活でも一緒にいるところを見かけるようになった。気持ちは分からないでもないが、もう少しセーブしろよとは正直思う。

「お前カカシ…そうゆうのをなんて言うか知ってるか?」
「は?」
「ストーカーってんだ…最悪だな、お前」
「いや。それお前だけには言われたくないから」

スパッと無表情で返された言葉のせいで、オビトの額に青筋がピキッと現れカカシへのイラ立ちを募らせた。

「しつこい男は嫌われるよ」
「リクハはやめとけ。望みはない」
「別に好きだなんて誰も言ってないでしょ?」
「嘘つくな。何年の付き合いだと思ってんだ」

視線はリンに向けたまま、言わなくても分かるカカシの気持ちを口にするオビト。イタチもカカシも普段から何を考えているか読みにくいところはあるが、リクハを想う気持ちだけは二人とも隠しきれず言動に現れてしまうらしい。自分も例外ではないが。

「…だから、別に好きじゃないってば」
「見苦しいぞ。態度でわかる」
「お前に言われたくはないんだよ。万年片想いのくせに」
「な"っ…!」
「それこそ見苦しいぞ」
「…オレやっぱお前嫌いだ。…どっか行け」

どちらともあー言えばこー言うで話の決着がつかないのはいつものこと。シッシッとカカシを手で払うと「酷いなぁ」と間の抜けた返事を返して来るだけでこの場から動こうとはしなかった。

「あ、カカシが来てる。珍しい」
『え?…あ、ホントだ』
「リクハ、少し外してもいい?」
『もちろんっ…あと私やっとくので』
「ごめんねっ。ありがとう!」

そう言いながら顔の前で手を合わせて謝罪と感謝の言葉を口にし、小走りで二人の元へ駆け寄っていくリンを見送る。アカデミー時代からスリーマンセルを組み仲が良いのは知っているが、あそこまで嬉しそうなリンの姿を目の当たりにしてしまうと正直心中複雑で、リクハは渋い表情を浮かべた。その理由は…。

「カカシさんが居ると向こうに行くよな、あの人」
『うん、そうなの…私としてはオビトさんに…ん?』

背後から聞き慣れた低い声が聞こえて来て振り向くと、そこにはカカシたちに視線を向けているイタチが立っていて少しだけ驚いた。

「手伝うよ、リクハ」
『…えっ?ああ、いいのいいの!私運ぶからっ』

優しい笑みを浮かべて医療道具の入った箱を軽々持ち上げたイタチの手からそれを奪おうと試みるが、逆に「いいから」と言われ遠ざけられてしまった。申し訳ないと思いつつ、ありがとうと感謝の言葉を伝えてから他の荷物を手に持ち救護用テントに向かう二人。

『リンさんはやっぱり、カカシさんが好きなのかな』
「まあそう見えるが…どうだろうな」
『カカシさんは多分、リンさんの気持ちも、オビトさんの気持ちも、両方わかってると思うんだ』
「なら、あえて気づかない素振りをしてるってことか」
『多分…。私は個人的にオビトさんを応援してるから、ああやってリンさんがカカシさんに対してニコニコしてると…正直ちょっと複雑な気持ちになる』

と言っても、自分がどうこう出来るわけじゃないんだけどと言いながら苦笑いを浮かべるリクハ。仲が良いからこそ、近すぎる存在だからこそ踏み切れない想いがあの三人の中にもあるのだろう。自分も似た様な立場にいるなと思いながら、イタチはリクハに視線を向け同じように苦笑いを浮かべた。

「そう言えばカカシさん…うちはの演習場に何しに来たんだろうな」
『そうだね。言われてみれば…珍しいよね』

リクハと顔を見合わせ首を傾げてからもう一度カカシたちの方へ視線を移すと、真剣な眼差しで自分を見つめてくるカカシと一瞬目が合ったがすぐに反らされてしまう。イタチは少しだけ表情を歪めてから視線を外し、自分を睨みつけてきていたようなあの目に嫌な予感を抱いていた。

「なあリクハ」
『ん?』
「お前そう言えば、カカシさんに弟子入りしたんだよな?」
『うん。なんで?』
「ああ、いや。なんでもないよ。ふと思っただけだ」
『そうなの?』
「気にするな」

そう言いながら荷物を片手で持ち直し、空いた手でリクハの頭にポンポンと手を下ろすイタチ。横目でもう一度カカシを盗み見ると、思った通り不機嫌そうな眼差しでこちらを見ている。ああ、なんて最悪な方向へ進んでしまったんだとイタチは小さく溜息をついた。

「リクハ…」
『なに?』
「次のカカシさんとの修行の予定は?」
『えっと、確か…明後日だったかな。どうして?』
「シスイと見学に行ってもいいか?どんな修行なのか見てみたいと、前々から話していたんだ」

穏やかな表情を浮かべてそう言ったイタチに、リクハはなんの疑問も抱かずにふわりと柔らかな笑顔を浮かべた。

『うんっ、もちろん!二人が居てくれると私も嬉しい』
「それはよかった」


その戦状、受けて立つ
(奪わせやしない。誰にも)


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