木ノ葉の里の、うちはイタチ。
名誉あるうちは一族に生まれ、若干四歳にして第三次忍大戦を経験したこの少年は、後にその名を世に轟かせることになる。しかしその道のりは決して平坦なものではなく、イタチのいく先にはいつも広大な闇が広がっていた。
イタチという少年は幼い頃から寡黙で、他人と余計な関わりを持たない物静かな少年だった。口を開けばその見た目からは想像もつかないほど大人びた言葉が返ってくるし、簡潔、明解な口ぶりは周囲の人間を子供から大人まで遠ざけた。

「リクハ、一緒に帰ろう」
『うんっ』

アカデミー。
入学してから二ヶ月あまりが経つが、未だイタチには友人と呼べる存在が居ない。と言うよりかは必要がないとすら思っている。妙に大人びたイタチの思考についてこれる子供などいるはずも無く、日常会話を楽しそうにしているだけの同級生にはどうしても馴染みが持てないのだ。そんな側から見れば子供らしくない子供のイタチには、唯一無二の例外がいる。
それが今声をかけた仙波リクハだ。
賑やかな放課後の教室で、関わりすら持とうとしない同級生たちの群れを避けながらイタチは一人の少女の隣に立ち穏やかな表情を浮かべた。生まれた時から苦楽を共にし同じような価値観を抱きながら修行に明け暮れてきたこの少女は、イタチの幼馴染である。

『今日の授業も退屈そうだったね』

カバンに教科書をしまいながら自分に笑顔を向けてくるリクハに、遠慮がちに「そんなことないさ」と苦笑いを浮かべた。正直なところ図星だった。二人にとって、アカデミーでの学びは少ない。
イタチもリクハもこの過程で学ぶ知識はほとんど独学で網羅しているし、毎日の授業内容は正直いって退屈だった。けれどそう思っているのは自分だけではない。シスイと修行していた方がよっぽど実になることを幼い二人は知っている。
アカデミーに入学して良かったと思える事はあまりないが、せめてもの救いはリクハと同じクラスになれたこと。常に学年のトップを走り続ける天才と肩を並べる幼馴染、それだけで大分クラスの中では浮いていたが、互いに孤独ではなかった。

「ほら見ろよ、イタチがまたリクハと帰るぜ」
「あの二人いつもいっしょにいるわ」
「"おさななじみ"なんだってな」

入学して二ヶ月しか経っていないが、イタチの他とは異なる群を抜いた力をクラスメイトたちはよく知っていた。重ねてあの大人びた、悪く言えば可愛げもなく愛想のない性格が少しずつイタチへの妬みを増幅させているのを本人も自覚している。
当然ながらそんなイタチと肩を並べるリクハへの評価もそれぞれだ。

「なんでリクハがあんなヤツと」
「あの子がいっつもイタチ君といるから、声かけられないよ」
「そもそもオレたちのことなんて眼中にないって」
「やだね〜お高くとまっちゃってさ〜」

群の中から聞こえてくる数名のヒソヒソ声。視線は二人に向けられていて、男子はイタチへ、女子はリクハへの嫉妬の念を抱いているようだった。イタチはそんな黒い感情を小さな背中で感じながらも、目の前で気にも留めていない楽観的な幼馴染を追って歩き出した。



「イタチ、アカデミーはどう?」

リクハとの修行を終え帰宅したイタチはアカデミーの宿題をものの数分で終わらせると、食卓の机に新たなノートを開き頭を悩ませていた。隣で幼児用の椅子に座っているサスケが真剣な表情で思考を巡らせている兄の姿を不思議そうに見つめている。
そんなイタチは夕食の用意をしているミコトの問いにすぐには答えない。鍋が煮える音だけがその場に響き、会話をするにしては長過ぎる間が生まれた後、なぜ息子は返答しないのだろうと不思議に思ったミコトが手を止め振り向いたのと、イタチが声を発したのはほぼ同時のことだった。

「できた」
「え?」
「あぅぁあ〜」

満足そうに呟いた兄に続いてサスケまでもが声を発する。イタチが「よしよし」と穏やかな表情を浮かべて頭を撫でると、サスケは甲高い声を上げながら喜んだ。

「ごめん母さん。アカデミーなら普通だよ」

聞こえていなかったわけではないらしい。イタチはその質問に全く興味がないと言った感じで答えると、サスケから再びノートに視線を移しさらに何かを書き加えていった。

「それも宿題?」
「違う」
「随分と真剣に考えていたわね」

濡れた手をタオルで拭きながら、イタチの視線が注がれている一冊のノートを見つめるミコト。そこにはびっしりと文字やら絵やらが書き込まれている。少し目を通しただけで分かるのは、それが全て忍術に関する内容だということ。大人のミコトでも読めと言われたら嫌気が差してしまいそうな物だった。
一体息子は何をやっているんだろうと率直な疑問が生まれそれを口にすると、珍しく口角をあげて微笑んだイタチが視界に映り込んだ。

「うん。リクハが考えた問題だから」
「え、リクハちゃんが?」

ああ、どうりで…。そんな言葉がミコトの頭に浮かぶ。

「こんなに難しい内容…リクハちゃん分かるの?」

苦笑いを浮かべながら問いかけて来た母を前に、イタチはなぜそんな分かりきっていることを聞いてくるのか疑問に思った。

「解るよ。リクハなら」
「そ、そう…」

淡々と言ってのけた我が子を前に、ミコトは若干心配していた。昔から妙に大人びていて年相応ではない難しいことばかりを学び、どこか同年代の子供たちとは波長の合わないイタチ。そんなイタチはアカデミーで友人と呼べる相手をつくることができているのだろうか?さらには生まれた時から成長を見守り続けてきたリクハがイタチと一緒にいることで、周りから近寄りがたく思われてはいないだろうか?
と一度生まれた不安は膨らむばかりだ。

「リクハちゃん、お友達できたの?」
「…なんで?」
「なんでって…それは…」

言葉を詰まらせたミコトがイタチの顔を見つめると、すでに表情を歪めていた。
質問の裏にある「あなた以外のお友達も必要よ」というミコトの心理を理解できてしまうイタチにとってはあまりいい問いかけではなかったのだろう。不機嫌なままノートを鞄にしまい立ち上がると、「明日の準備をしてくる」と言って茶の間から出て行ってしまった。

「ちょ、イタチッ…」

母の呼び止めは虚しく響くだけで、イタチが振り返ることはなかった。


の幼馴染
(リクハには、つり合わない連中ばかりなんだ…)


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