仙波一族は、うちはと最も交流の深い一族である。故に「写輪眼」開眼の背景をよく理解している。その過程には個人差があるが、決して容易に手にできる力ではない。もちろんイタチも例外ではなかった。優秀で秀才と期待を受ける彼もまた、大切だと認識した繋がりの喪失が、写輪眼の開眼へと繋がった。

『え…?母さん、今なんて言ったの…』
「…イタチ君が写輪眼を開眼したって言ったの」
『……!』
「リクハならこの意味…理解できるわよね?」

リクハがそれを知ったのは、イタチが写輪眼を開眼してすぐのことだった。様子を見に行った母から告げられた衝撃的な一言が、やけに胸の奥深くまで突き刺さったのを覚えている。優秀な医療忍者であったリクハの母親は、少しばかり切なげな表情を浮かべて不安そうにしている我が子の肩に両手を置いてて口を開いた。

「イタチ君が抱えた闇から、視線を逸らしては駄目よ。リクハ」



母のハスナの言葉に、少しばかりプレッシャーを感じている。

『なんて声かけていいか分からなくて…』
「それで今日一日上の空だったのか」

上忍の中でも手練れのシスイは、多忙で忙しい。
数年前のように数日置きに修行を付けてもらえることもなくなり、こうして時々会えればいい方だ。それこそ一ヶ月顔を合わせないなんてことはザラになった。そんな彼と過ごす貴重な休日。今日は珍しく非番だからと声をかけてくれたのだ。いつもならイタチも一緒にいるはずなのに、ここに彼の姿はない。シスイは気を落としているリクハの髪をくしゃりと撫でながら隣に腰を下ろした。

『私、上の空だった?』
「珍しくな。だが、理由を知って納得したよ」
『…私が悩む事じゃなのかな…』
「なんでそう思う」
『だって…』

普段は明るいリクハが珍しくため息をついて肩を落とす。そしてシスイの問いかけには『私はうちは一族じゃないし…』と呟くようにそう言った。

『素直におめでとうって言うのは違う気がして…』
「…写輪眼の開眼をどう受け止めるかは人それぞれだ」
『シスイも…』
「ん?」
『シスイもその眼を持った時…辛かった?』

空色に澄んだ大きな瞳が、シスイの漆黒の瞳を見つめる。幼馴染であるイタチには到底問うことのできない疑問を、兄同然のシスイに投げかけ答えを得ようとするその姿勢に、シスイは小さく笑みを浮かべて写輪眼を開眼した時のことを記憶の中から呼び起こす。

「辛くなかったと言えば嘘になるな」
『………』
「だがそれ以上に、自分の無力さを痛感したよ」
『シスイが…?』

うちはの手練れ、瞬身のシスイと他里の忍びからも恐れられているシスイですら感じた無力感。初めて聞いた過去の話に、リクハは居た堪れず彼の腕に手を添えて『ごめんね』と申し訳なさそうに謝った。

「おいおい、何で謝るんだよ」
『だってその時私、シスイのそばに居られなかったから…』
「………」
『辛い時に一緒に居られなくてごめんね』
「お前が気にすることじゃないだろ」
『そうかもしれないけど…なんて言うか…』
「はははっ。ありがとな、リクハ」

軽快に笑ったシスイがリクハの頭を撫で、その気持ちだけで十分だよと言った。

「イタチの気持ちを完全に理解することは難しいが…」
『が…?』
「いつものお前で居ればいいと、オレは思う」
『いつもの、私…』

シスイの言葉に瞳を伏せて考え込む。今回イタチの写輪眼開眼に繋がったきっかけ…それは彼と同じ班に所属していたテンマの死だ。リクハも彼とは面識があり、何度か話をした事もあった。意地っ張りだが明るく気さくな性格で、真面目なイタチとは真逆な人物だったがそこがよかったのだろう。それなりに楽しく、上手くやっているという話は聞いていた。だから余計にイタチの心中を思うと胸のあたりが酷く苦しくなり、他人事とは思えなくなる。

『どう接したらいいんだろ…』
「特別な言葉なんてのはいらないんだよ」
『え…?』

シスイの言葉に首を傾げると、穏やかな表情で再び頭をわしゃわしゃと撫でられ「お前はそのままが良いんだよ」と言われた。まだ幼い二人だが大切な何かを失う悲しさは戦争を通して痛いくらいに感じることができる。全てというわけではないが互いの気持ちを理解する事もできるだろう。多くを語らずとも分かり合うことのできる二人だからこそ、シスイはそこに特別な言葉は要らないと考えていた。

「お前はいつものお前のまま、イタチに接すればそれで十分だ」
『…あえて明るく振る舞えってこと?』
「いや、そうじゃない」
『…?』
「自然体で居ろって事だ。お前がかけたい言葉、したい行動を取ればそれが正解だとオレは思う。イタチが悲しんでるからってリクハまで落ち込む必要はないってことだ」

イタチだってお前の悲しむ顔は見たくない筈だしなと付け足したシスイに、リクハは何かに気付かされたような表情を浮かべたがそれはすぐに笑顔へと変わっていった。

『やっぱりシスイはスゴイねっ。ありがとう!』

ふわりと笑うこの笑顔を見る度に、リクハが居ればイタチは大丈夫だと思わされる。そしてそんな二人の事を見守っていられる自分を幸せだと感じた。

「大事な妹の悩みだからな」
『へへへ。シスイが居てくれてよかった』
「ははっ。可愛いやつだなお前は」


にできること
(大事なことは、シスイが教えてくれるんだ)


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