簡易な丸太小屋の壁に寄りかかり、ゆっくりと目を閉じるムスビ。
センリについての話を聞いたのは、アキトが不可解な死を遂げる半年前のことだった。大切な話があるからと南賀ノ川の上流に呼び出され時、彼はなんの前置きもなしに「オレの親父について話す」と言った。しばらくの間、その意図の理解に苦しんだ記憶が蘇る。

「アキトが話してくれたうちはセンリという人はね…」
『………』
「忍として生まれてくるべきじゃなかった人だと…僕は思った」
『え…?』

実際に面識のない相手の姿を聞いた情報を頼りに繋ぎ合わせ、想像しながらムスビは言った。その感想じみた言葉に二人は顔を見合わせ疑問符を浮かべる。

「千手とうちはが休戦協定を結び木ノ葉の里を作った頃、彼はうちは一族として生を受けた。初代柱間が尾獣という強大な力を五つの国に振り分け誕生した五大国。その建国ののちもこの世から争いが消えることはなく、幼い頃より戦いに身を投じていたセンリはわずか4歳で写輪眼を開眼したんだ」

1000年に一度の逸材といわれるイタチですら、写輪眼の開眼には時間を有した。時代が時代であっただけに理解はできるが、その脅威的な早さに二人の表情が驚きで歪む。

「優秀な忍だったと聞いたよ。君ほどではないと思うけどね」

嫌味なく言ったムスビがイタチを見つめる。

「そんなセンリは僕ら"うちは"の外れ者だった」
『外れ者…?』
「そう。センリはとにかく争い事が嫌いな平和主義者だった。彼は"特別''な眼を有していたにも関わらず、自分がうちはであること、忍であることにさえ劣等感を抱いていたような人だったんだよ。力があるのに戦場では常に後方支援ばかりに回る彼のことを、みんなが口を揃えてこう呼んだ…」

"うちはの恥晒し"

と。

『………』
「彼の思想は一族という枠を超え、人同士が手を取り支え合い、慈しむ世を望んでいた。むやみに命を奪い合うだけの戦いの行く末は…君たちも知っているだろ?」
『「………」』

二人の記憶の片隅には、幼い頃目にした第三次忍界大戦の地獄が常にある。虚しくて、悲しい、言い表しようがない狂気に満ちた世界。

「センリは人の愛を見たかった。大切な仲間が笑顔であること。彼を辛うじて戦に向かわせていた原動力はそれだと、アキトは言っていたよ」

うちは一族に限ったことではないが、忍であっても争いを好まない者はいる。戦争という無意味な地獄を通して人の命の尊さを学び、平和を望み力を欲したイタチ。この世に蔓延る争い全てを消し去ってしまえるほどの力をつけると、自分に誓った。平和への歩み方は人それぞれで、センリのそれは自分とは対極的であると感じたが、"うちは"という一族の枠組みを超えてシスイやリクハ、自分と近い思想を持って戦乱の世を生きていた同胞がいたことに、イタチはわずかに胸を熱くさせた。

「そして時が経ち、第二次忍界大戦の終結へと繋がる最後の戦いの最中…センリはある"未来"を見た」

家族、友、多くの仲間の死。
赤い血の海を幾度も幾度も歩いたセンリ。
無残な姿となった大切な亡骸から何度も目を逸らし、親友であったうちはカガミの死をきっかけに、彼の心は常闇に沈んだ。
やがて正気を保てなくなり、これが忍としての最後の戦いになるだろうと悟り赴いた戦地で…センリは自分の眼に映った未来を目の当たりにし、それと同時に未だかつて感じたことのない「愛」に触れた。

「センリさんが見た未来。それは、"リクハちゃんとイタチ君の二人の誕生"」
『「…!」』
「そして、"君らの行く末に広がる深い闇だ"」
『(闇…)』

その言葉が、リクハの不安を煽る。

「平和を信じ望み続けたセンリさんの想いとは逆に、世界は争いばかりを繰り返す。人より多くのモノが見えてしまう彼にとって、そんな世界で生きることは死ぬよりも辛かっただろうね…」

うちは一族として生きるというだけで、業が付き纏う。
誇りある一族であることに違いはないが、その名に、力に縛り付けられている同胞たちの思想はまるで呪いのようだ。故に平和を愛し、一族の枠に囚われることのなかったセンリを苦しめていたのだろう。

「君が、センリさんを救ったんだよ。リクハちゃん」
『えっ…?』
「君が彼に、生きる希望を与えたんだ」
『………』

センリは自身の家族、友、同胞、そして息子であるアキト以上に、孫娘となるリクハを愛した。

「彼にとって、リクハちゃんの命は何物にも代え難いほど重いんだよ」
『………』

死を望んでいたうちはセンリ。
最後の戦い。
自身を終わらせたいと、心から願っていた。
けれどそれが現実になることはなく、愛に触れたセンリが自らに誓った決断は…。

「生きて、君たちの未来を守ることだ」


Mission.9


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