「シスイ、お前大丈夫か?」

フガクからの命を受けたシスイとオビトは、少女の遺体の収容を手伝い、明日朝一番の情報収集に備え帰路に着いていた。互いに複雑な思いを抱えていることを理解しつつ、オビトはいたって冷静な声色で隣を歩くシスイに問いかける。親友の弟子である彼女との関係性はイタチやシスイほど深くはないが、それでもここまで不安なのだ。リクハを本当の妹のように思っているシスイの心中を考えると、少しばかり胸が痛くなった。

「…自分よりも、イタチとリクハが心配です」
「お前らしいな…。あいつらには?」
「しばらく里に戻って来るなと忠告をしました」
「上は所在を把握してるのか?」
「いえ。任務地はイタチしか周知していないはずです。今回のリクハ護衛の件、全てイタチに一任されているとカカシさんから聞きました。三代目も承知していると」
「そうか…。さすがは暗部の部隊長だな」
「ええ。安心して任せられますよ」

オビトに対して嘘をついた。今回リクハたちの任務地が銀鏡村であることを、シスイは既に知っている。だがイタチとの約束でそれを口外することは絶対にない。例え同胞のオビトであってもだ。それほどまでに三人の絆は硬い。

「三代目は兎も角として、問題はダンゾウとあの二人だな…」
「ホムラ様とコハル様、ですか…」
「ああ。どんな処遇を言い渡してくるか…」

腕を組み顎に右手を添えたオビトに一瞬だけ視線を移す。

「上はリクハというより、アイツの持つ"神手"を手中に収めて置きたいはずですからね…」
「あの力が敵国に渡ったら、それこそ大惨事だろうな」

ダンゾウと等しく、御意見番であるあの二人がうちはに対して不平不満を抱いているのは自分たちに対する態度を見ていれば一目瞭然だ。その証拠に、何度嫌味や皮肉を浴びせられたことだろう。里の中枢から離れた立場である自分たちがこうなのだから、暗部であるイタチの苦労は計り知れない。

「シスイお前…本当は二人のそばに居たいんじゃないか?」
「え?」

オビトの穏やかな問いかけに、シスイが意外そうな表情を浮かべて視線を向けた。

「お前ら三人を見てると、オレやカカシやリンと重なるんだよ…。だからなんつーか、お前の気持ちは痛いくらい解る」
「オビトさん…」

彼の言葉はいつも真っ直ぐで、嘘偽りがない。自分にはイタチとリクハという存在がどれほど特別でかけがえのないものなのかということを、彼の言葉を聞き改めて実感した。だがそんな自分よりも、イタチの心中を考えると少しばかり心配になるのだ…。不器用ながらも一途に幼馴染を想い続ける親友が、己を犠牲にし過ぎないかということが。

「一応言っておくが、一人で抱え込むなよ?」
「ええ…大丈夫です」
「まあこの言葉は、お前よりもイタチに言うべきか」

月明かりに照らされながら小さな笑みを浮かべたオビトを横目に、確かにそうだとシスイは少しばかり瞳を伏せた。



「話しの続きをしようか」
『はい』
「これから僕が話す内容は、絶対に他言しないで欲しい」
『あの…シスイには?』

勿論そのつもりでいたが、できることならある程度の事情を知っているシスイには全てを話しておきたいと、リクハは様子を伺うような視線をムスビに向けた。その表情に、小さな笑みが溢れる。

「君は本当にシスイ君とイタチ君が大好きなんだね」
『えっ…?大…っ、し、信頼してるんですっ』
「クスッ…」
『何で笑うのイタチッ…』
「いや、悪い。特別深い意味はない」
「フフッ。勿論、シスイ君になら話していいよ」
『あ…良かった。ありがとうございます』

ホッと胸を撫で下ろし、微笑み合う二人の姿を視界におさめるとムスビは自身の中にある不安要素が薄れていくのを感じた。父アキトの死の起因を作ったのは、イタチの父親フガクだ。直接的に関係がないとしても、まだ成長途中の子供の感情がどう揺れ動くのかが。だが、リクハからはフガク対する怒りや不信感は全く伝わって来ない。むしろただ、物事の真髄を見極めようとしているように伺えた。無理矢理に感情を抑えているようにも見えない。その冷静さには違和感を感じるが、イタチやシスイと肩を並べ、あの二人の娘であることを考えると納得がいく。平凡な自分の感覚値では、彼らの思考を測るどころか理解すらできないのだと改めさせられる。

「それとイタチ君、君には先に謝っておくよ」
「…?」
「僕はうちはの人間でありながら、君のお父さんを全く信用していない。アキトが二重スパイとなり里の闇に殺されたことを知っていてもなお、息子の君の暗部入りを認めた」
『「………」』
「僕はそれが正しい選択だとは思えなくてね」
「別に構わない。父をどう思うかはアンタの自由だ」
「……そうか。助かるよ」

イタチはその年齢に不釣り合いなほど物事の理解が速く、感情が読みづらいとあのアキトですら言っていた。一族の長と言う立場上、賛否両論ある事は理解できてもいざ面と向かって自分の父親を否定されれば良い気はしない。イタチでなくても怒りの一つを感じてもいいところだが、彼の様子からは言葉通り関心のなさが伝わってきた。

「じゃあ、本題に入るね」

漆黒の左目が、親友が賭けた希望を見つめる。

「さっきイタチ君に、里という闇に飲まれては駄目だと言った時、君はこう言ったね。"まるでオレの行く末を知っているような口ぶりだな。アキトさんがそう言ったのか?"って」
「ああ」
「そこで僕は何故そう思うのかって問うたけど、周りくどい会話は好きじゃないから伝えるね。…その答えはイエスだ。アキトは君の将来を危惧してた」
「……」
『それってイタチが…父と同じ道を辿ってるってことですか?』

月明かりに照らされた、リクハの瞳が僅かに不安の色を宿し揺れる。

「その通りだ」
『!!』
「アキトが未来を危惧する中で、君たちのことを強く意識するようになったのは第三次忍界対戦直後のことだったよ。とは言っても、彼は未来を透視できたわけでも無いし、予言なんてことのできる力を持ち合わせていたわけでもない。ただ…それができる人物が、彼の近くにはいたんだよ」

自分たちの立てた憶測は、あながち間違いではなかった。アキト当人ではないにしろ、未来を見据えることのできる力を持った人間が、彼の近くで協力していた。それが誰なのかは勿論検討も付かないが、過去から未来を見据え行動していたそのスケールの大きさに、現実味が湧かない。

「写輪眼は、戦いの最中相手の技や行動の先読みをすることができるけど、その人物の眼はその次元を遥かに超越していたと聞く。…彼の眼は、物事の本質を見抜き、人の感情、腑までをも見透かしそして…一度見た未来は100%現実になり、やって来る」

話しているムスビ自身も、その人物に会ったことはない。
あくまでもこれは、アキトからもたらされた情報だ。
最初は半信半疑で聞いていた。信憑性もあまり無かったが、親友が言っていたことを信じて行動した。数年前に伝えられた未来が、彼の言っていたことが紛れもない真実だと確信できたのは、数時間前…イタチとリクハが自分の目の前に現れたまさにその瞬間だった。
指定された日時、場所、どんなことを自分に求めやって来るのか、全てアキトの言った通りになった。与えてやってくれと託された情報を伝えることで、彼の望んだ未来に一歩近づけている実感が湧き上がり少しばかり緊張した。

「全てを見透かすことができたのはアキトじゃない。それができたのは"うちはセンリ"という人物だ」
『うちは…センリ…?』

聞き覚えのない名前に、二人は眉をひそめる。

「そう。僕も聞いて驚いたけどその人は、君の"お祖父ちゃん"だよ。リクハちゃん」
『………えっ?』


Mission.


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