「ん……」
『あ、目が覚めましたか?カカシさん』
「…あ、れ…?リクハ?」
『おはよう、カカシさん』

そう言ってそよ風に吹かれながらふわりと微笑んだリクハがあまりにも綺麗で可愛くて、口布を付けていて本当によかったと思った。だらし無く緩んだ表情なんて、絶対に見られたくないのだから。

「オレ、寝ちゃってたの?」
『はい。お疲れだったみたいで』
「どれくらい寝てた?」
『ん〜?…1時間くらい、だったかな』

それを聞いて「そっか…」と短い返事を返し再び目を閉じるカカシ。穏やかな気候に心地よいそよ風。おまけに目の前には特別な感情を抱いてしまった愛弟子がいて、愛らしい声が耳に届きまた意識がまどろみそうになる。ああ…なんて幸せな時間なんだと感じていると、ふとあることに気づき目を開いた。

「あれ…?」
『はい?』
「…何で、リクハがオレを見下ろして…」

今になって気づいた。妙に柔らかな感触が、後頭部にフィットしていることに。

『ふふっ。変なカカシさん…』
「え?」
『それは私が膝枕してるからですよ』
「えっ?」
『何でそんなに驚いてるんですか?』
「えぇえっ…!?」

くすくすと微笑むリクハを前に大慌てで上半身を起こすと、本当に膝枕をしていてくれたらしく正座をしていた。いつどのタイミングでこうなったのかが分からなくてあわあわしていると、リクハが『カカシさん?』と首を傾げて顔を覗き込んで来たものだから心臓がとくんっと跳ね上がる。

「ち、近……くない?」
『ふふふっ』
「な、何…?」
『今日のカカシさん、何だかいつもと違いますね』
「えっ?…何が違うの?」
『ん〜、そうだなぁ…』

あまりの近さに身を引き両手を後ろに着くと、目の前ではリクハは口元に手を添えて考える仕草を取る。ああ…こんな些細な姿も可愛いなんて思っていると、不意にすっと手が伸びてきてあろうことかカカシの両頬を優しく包み込んだ。もう何が何だか分からなくて驚きのあまり目を広げて戸惑っていると、少し頬を赤くしたリクハがまた優しく微笑んで口を開いた。

『今日はなんだかちょっと可愛いです』
「えっ…ちょ、リクハ…!?!?」
『可愛いカカシさんも、大好きです』
「……………」

な、なにぃぃぃぃぃいぃいっ!!!
とカカシが心の中で叫んだのは言うまでもない。あろうことかカカシの首元に腕を回してピタッと寄り添うように抱きついてきたリクハの行動に思考回路がショート寸前。一体何がどうなっているんだと懸命に頭をフル回転させるが、それよりも早く心臓が脈打って苦しい。

『カカシさん、凄くドキドキしてる』
「いや、だって…そりゃあお前…っ」
『私も、カカシさんがそばにいるとドキドキします…だって』
「………え、えっ……?」
『カカシさんのこと、凄く大好きだから…』
「!!!!!」

えへへ、とそれはもう可愛いとかそんなレベルで言い表すのは不可能なくらいのはにかんだ笑顔を浮かべたリクハにカカシの顔が真っ赤に染まる。自分の胸板に頬を寄せてぎゅっとしがみついて来るこのリクハは一体何なんだと自問自答するが答えは出ない。まさかいいように遊ばれてるんじゃないかと周りをキョロキョロと確認するが、果てしなく広大な草原が広がっているだけだった。

「あああのさ、リクハ…??」
『はい?』
「……なんか、企んでる?」
『へっ?』
「オレ…歳上だし、おっさんだと思って弄んでるでしょ…」

恐る恐る問いかけてみると、リクハはくすくすと小さく肩を揺らしてさらにギュッと抱きついてきた。

『ふふっ…。歳なんて関係ないです』
「あの…リクハちゃん?…どうしちゃったの?」

普段は『ふふっ』なんて笑い方しないでしょう貴女…。と内心呟いたカカシ。

『カカシさん?』
「…な、なに?」

少し体を離してカカシをじぃっと見つめるリクハ。髪と同じ空色の瞳には何とも情けない自分が写っていて、けれどもそのあまりの美しさに吸い込まれそうになる。

「リクハ?」
『ずっとそばにいて下さいね』
「あの、あのさ…」
『カカシさんが居ないと、私…ダメなんです』
「(ちょっと待て!なんだこれっ、なんでこんなに可愛いんだ!)」
『大好きです、カカシさん』

頬を染めてふわりと微笑むリクハ。目をゆっくりと閉じて『キスして下さい』なんて言って来るものだから、心臓が破裂しそうなくらいドクンドクンと脈打ち始める。こいつのキス顔ってこんな可愛いのか、とか余計なことを考えながら目の前にいるリクハに顔を近づけていく自分がいることにも驚いた。いや、だってこれって絶好のチャンスでしょ…と最高に幸せな気分に浸りながら目を閉じた。



「……って言う夢を見た」
「…何が絶好のチャンスだ。やっぱりリクハが好きなんじゃねぇか」
「うるさいなぁ」

今日もまたうちはの演習場に足を運んでいたカカシは、オビトの隣にぐで〜と姿勢を崩しながら座り「惜しかったなー」と呟いた。そんな親友兼ライバルを前に、まあ気持ちは分からんでもないがな…と遠くで作業をしているリンをに視線を送った。

「だがお前の恋は実らない。潔く諦めろ」
「だから、別に好きとか言ってないから」
「勝手にリクハの夢見といてそれはないだろ」
「たまたま出てきたんだよ。可愛かった」
「常日頃から考えてる証拠だろうが…」

いつまでも分かりきった思いを認めようとしないカカシにオビトは呆れたような表情を浮かべる。

「諦めろって言うけどさ」
「あ?」
「それってイタチが居るからって事?」

カカシの唐突な質問に、少しだけ驚く。

「イタチがリクハを好きだから、諦めろって事?」
「そうは言わねぇけど…。あいつらは似合いだ、どう見てもな」
「そうかねぇ…」

いつのやる気のない目だったが、どうにもその奥の方からは強い意志のようなものが伝わって来る。

「なんたって、イタチは完璧だからなあ」
「リクハが誰を選ぶかなんて、分かんないでしょ」
「いーや!そもそもな、あいつが下心見え見えの夢見るやつを好きになるわけねぇだろ」
「はぁ?あれくらいの夢ならイタチだって見てるよ絶対」
「イタチがぁ?はははは!ないないっ」

顔の前でぶんぶんと手を振り面白おかしく笑うオビト。あの超が付くほど真面目なイタチが、カカシのように不謹慎な夢を見るわけがないと言い張る。

「分かんないでしょーよそんなの」
「あいつはどこまでも完璧だからな。絶対にありえん」
「そんなこと…」
「おいカカシ。ほら、噂をすれば…」
「?」

ふと入り口の方から楽しそうな会話が聞こえてきてオビトが顎で指し示した方へ視線を向ければ、そこには自分の愛弟子とイタチが笑顔を浮かべなが一緒に歩いているのが見えた。その直後、カカシの表情が歪む。

「そう言えばリクハ」
『ん?』
「昨日、お前が出てくる夢を見たよ」
『本当?どんな夢だった?』

近づくにつれて聞こえて来る話の内容は、今まさに話をしていた内容と同じでカカシとオビトは顔を見合わせ少しだけ驚いた。

「リクハとサスケが楽しそうに遊んでいる夢だ。穏やかな夢だったよ」
『へぇ〜っ。イタチが夢見るなんて珍しいね』
「そうだな」
『私も時々イタチやシスイの夢見るんだぁ』

そう言いながらけらけらと笑うリクハに、穏やかな表情を返すイタチ。ああ何故だろう…同じような話をしているにも関わらず、イタチにはいやらしさと言うものが全くない。むしろ清々しいくらい爽やかな印象を受けた。

「お前との夢は、いつも穏やかで優しい夢ばかりだ」
『くすっ。私とイタチは夢の中でも一緒だね』
「ははっ…そうだな」

そう言いながらリクハの頭を片手で撫で、嬉しそうに微笑むイタチ。少し遠くからシスイが二人に気づき手を振っているのが見えた。

「……ほらカカシ」
「………」
「やっぱり無理だ、お前には」
「無性に腹立つんだけど、イタチにイラついたことある?」
「ない。一度だってない。あいつはどこまでも完璧だからな」


ライバルは馴染
(なぁ!今日オレの夢にお前ら二人が出てきたんだ)
(あはははっ。私たち仲良しだね)


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