ザァァァッーー。

「うわ、降ってきちまった」

午前中、曇り空が広がり微かに雨の匂いがしのだが用事が済むまで天気は持つだろうと思い傘を家に置いて出てしまったことに後悔した。嫌な勘というのは当たるもので立ち寄った店の暖簾を潜り外に出ると、曇天の空からは結構な量の雨が降り注いでいてオビトは顔をしかめながら「ついてねぇ」と呟いた。どう足掻いたところで傘が現れるわけでも無し、濡れるのは仕方がないと溜息をつきながら帰り道の方に視線を向けたその時だった。

『あれ、オビトさん?』
「…?」

年頃の女子にしては地味な紺色の傘を差し、意外そうな表情を浮かべて近づいて来たのはオビトの後輩に当たる人物で、ここ数日演習場での修行が続いていた為毎日のように顔を合わせていたのだが、非番の日にまでまさか鉢合わせするなんて思いもしなかった。

『何してるんですか?こんな所で』
「なんだリクハか」
『ちょっとっ。なんだって何ですか、失礼な』
「リンかと思ったんだよ」
『そんな運命みたいなことあるわけないでしょ』

差していた傘を閉じて店先にいるオビトの隣にやって来たのはたまたま通りかかった後輩のリクハだった。珍しく今日は一人でイタチやシスイと一緒ではないらしく、あからさまにガッカリしてやると肩を軽く叩かれた。

『雨、急に降ってきましたね』
「お前、まさか雨女か?」
『それオビトさんでしょ?いかにも雨って顔してるし』
「どんな顔だよそれ!」

けらけらと笑いながら自分をからかって来るリクハにジト目を向ける。

『そんな事よりオビトさん…』
「あ?」
『リンさんに贈り物ですか?』
「っ…な、なんで分かったっ…?」
『いやだってここ…医療忍具を専門に扱ってるお店ですもん』

そう。オビトが来ていたのは仙波一族の敷地内にある医療忍具を専門に取り扱う店。だからリクハもここに用があって来たのかと納得しながらも、オビトは恥ずかしそうに口をへの字に曲げた。

『はは〜ん…贈り物作戦ですねぇ。へへへへ』
「やめろその顔っ」
『で、何を贈ることにしたんですか?』

ニヤニヤした表情でオビトの顔を覗き込むリクハ。どうにも自分で楽しんでいるようなこの態度には首を傾げるが、リンとリクハはお同じ医療忍者同士で仲も良い。しかもリクハはその道のエキスパートだ。一応相談してみるのもいいだろうと、オビトは腕を組み渋い表情でこう言った。

「…それがなぁ…結局決まらないんだよ」
『は?』
「そもそもオレは医療忍術じゃないし、何が使いやすくて何が不要な物なのかとか…よく分かってないことに気づいた」
『……え、じゃあまだ何も…?』
「ああ。何も決めてない」
『え"ぇっ』

それは無いわー、と言わんばかりの表情を向けられて仕方ないだろうとすぐさま言い返す。実際医療忍具というのは思いの外いろいろな種類があり、素人が選ぶのは難しいと店を出て感じていた。そもそもリンは自分の使い易いように医療忍具をカスタマイズしているくらいだし、本当に何を選べばいいかが分からない。

『そもそもどうして贈り物を?お祝い事ですか?』

リクハの素朴な問いかけに頬をかくオビトは少し恥ずかしそうに咳払いしてから口を開いた。

「笑うなよ…」
『笑いませんよ』
「……日頃の感謝っつーか…そんなトコだ」
『……え、あ。日頃の感謝を込めて、贈り物を?』
「そうだよ、悪いか」

ちらりと横目でリクハを見ると、情に熱い後輩は目をキラキラと輝かせて『素敵です!』と何故か感動していた。そこまでのリアクションがあるとは思っていなかったオビトは少し驚きつつも笑われなくて良かったと安心する。

『律儀というか、仲間を思う熱い気持ちですね!』
「え、あー…まあ。そうゆう事にしとけ」
『そうゆう事なら私協力しますよっ』
「え?」
『医療忍具の事なら任せてください』
「お前…っ!いいのかっ?」
『もちろん!いい物あげて、バッチリ好感度上げましょう!』
「おう!」

ガシッと熱苦しい握手を交わして今しがた出て来たばかりの店内へ、今度はリクハと共に入って行った。




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