雨。すれ違う人々は皆色とりどりの傘を差し、きっと頭上から町を見下ろせば花が咲いているように見え綺麗かもしれない、なんて柄にも無く風情あることを考えながら歩いていた。幼馴染と同じ空色の髪と瞳がこの一族の外見的特徴で、うちはである自分を視界に入れると当たり前のように挨拶をしてくれる。社交的では無い自分を含めてだが、うちはがここまで歓迎されるのは仙波一族の敷地内に来た時だけだと改めて実感させられた。

「あれ?おい、イタチか?」
「??」
「やっぱそうかっ。何してんだよ」
「シスイか」

パシャパシャと水音を立てて駆け寄って来たのは同じように傘を差した親友のシスイだった。一度立ち止まり「お前こそ何してる」と質問を質問で返すと、いつものように人懐っこい笑顔を浮かべて「多分お前と一緒だ」と二人揃ってまた歩き出した。

「今日は大事な日だ。オレたちにとって」
「シスイも覚えてたんだな」
「当たり前だろ?忘れてんのはあいつくらいだ」

けらけらと笑ってそう言ったシスイに、イタチもつられて穏やかな笑みを浮かべる。

「そうか?オレは覚えてると思うぞ」
「くすっ。やけに自信あるな」
「あいつは情に熱い奴だからな」



「お前も意外と律儀な奴なんだな…」
『意外とって何ですか』

オビトの手にはリンへの贈り物が入った紙袋が一つ。一方のリクハの手には同じ紙袋が二つ握られていた。いつもどこかふわふわしていて鈍感な奴だとばかり思っていたけれど、やはり医療のエキスパート。店内に入るやいなやリクハにしか分からないような物を選び的確に贈り物を見繕ってくれた。その間に自分の用事を済ませていたようだったから「お前も贈り物?」と問いかけると笑顔でイタチとシスイにあげるものだと教えてくれた。
個人的にもいい奴だ!と内心感じながら、昔からうちはを大切にしてくれる仙波の変わらない情の深さというやつには感謝するばかりだ。

『カカシさんには贈らないんですか?』
「オレが?なんで」
『え…だって、同じ班じゃ…』
「あいつには日頃から恩を仇で返されてるからな」
『あれ?仲間を思う熱い思いは?』
「あいつになんか気持ち悪くて熱い気持ちなんてねぇよ」

淡々とした口調でそう言ったオビトに苦笑いを浮かべるリクハ。本当は本人同士が一番お互いの実力を認め合っているのに、素直じゃないなあと内心呟く。

「…雨、止まねぇな」
『今日はもうずっと降るみたいですよ』
「そっか」
『オビトさん、傘持ってないんですか?』
「ああ。家に置いて来た」
『じゃあ、私家近いんで傘持って来ますよ』
「いいって!別に濡れて帰るぐらい…」
『いやいや。せっかくの贈り物がダメになりますっ』

ふんっ。と勢いよくそう言ったリクハの言葉には一理ある。だけど自分のためにそこまでさせるのも気が引けて、どうにかなるだろうとリクハの提案をもう一度断ろうとした…その時だった。

「あ〜っ。本降りになってるっ」
『「…!!!」』
「参ったなぁ…」

少し離れた斜め向かいにある「薬屋」と書かれた木の看板が掲げられた店内から、困ったような表情を浮かべながら出て来たのは…まさかの、

「リ、リン…ッ」
『ほ、ホントだっ…!』

オビトの想い人である、野原リン。その人だった。

「…ちょっと待てシスイ」
「どうした?」
「…リクハがいる」
「??…それでなんで立ち止まるんだよ」
「それが…」
「ん?」
「…オビトさんと一緒だ」
「はぁ??」

民家の角を曲がりかけた瞬間に見えたリクハとオビトの姿になぜか無意識に身を潜めてしまった。最近演習場でも仲が良いのは伺えたが、まさか非番の時まで一緒とは思いもせずイタチは表情を歪める。そんな親友の姿に何かの間違いだろうと思いたいシスイはこっそりと角から顔を出して様子を伺うことにした。

「リンの奴、傘を忘れたのか」
『みたいですね』
「あーちくしょー。置いてくるんじゃなかった!」

ここで自分に傘があれば、リンに貸すことができたのにと悔しがるオビト。確かに今ここで傘を持ったオビトが現れ何食わぬ顔でリンに傘を手渡したら実にかっこいいじゃないかとリクハも思う。しかし現実はそう上手くいかなくて、離れた場所の屋根の下で困ったような表情を浮かべているリンをただただもどかしい気持ちで眺めていることしかできないなんて…と思ったのだが。
自分の片手にある今最高の輝きを放つ一本の傘の存在を思い出した。

『…オビトさんっ』
「あ?」
『これっ、傘使ってください!』
「…え」
『早く!リンさん行っちゃいますよ』

幸いなことに男が使ってもおかしくない地味な紺色の傘でよかったと思ったリクハ。オビトの背中を押しながら傘を無理矢理押し渡すがすぐには受け取ってもらえない。

「バカ!そしたらお前が濡れるだろーがっ」
『人の心配より早くこれ持って行ってください!』
「ならお前がリンと差してけ!オレはいいから」
『バカ!そしたら意味ないでしょーが!』
「バカってなんだよ!」
『いいから早く!なにチキってるんですかっ』
「チキってねーよ!」
『あぁぁっ、リンさん行っちゃう!』

意を決したリンが雨の中先に飛び出して、急ぎ足で離れて行くのが見えあわあわと焦り出す二人。もう何が何でもこのチャンスを逃すまいとオビトの手を無理矢理取り傘を握らせると、倒れそうになるくらいの力で背中を押した。パシャパシャとよろけながら雨の中に押し出されたオビトが表情を歪めてこちらを振り返っているから手払いして『早く!』とリンを指差した。

「…リクハ…」
『頑張ってください、オビトさん!』
「おまっ……やっぱりいい奴だな!サンキュー!」
『今度甘い物でもご馳走してください』

顔の前で手を合わせてもう一度ありがとう!とリクハに感謝の言葉を伝えたオビトは、渡された傘をギュッと握りしめてリンの後を追いかける。少し離れたところで傘を開き、リンと共に歩いていくその姿に最高な手助けができたと心から喜びを感じた。

『さて…私も帰るか…』

晴れ晴れしい気持ちとは裏腹にザァァァと降り続く雨。紙袋が濡れないよう抱きかかえて雨の中へ一歩足を踏み出そうとした、その時だった。

「リクハ、ナイスフォロー」
『え…?』
「お前も物好きだな」

自分の体に降り注ぐはずの雨は目の前にいるイタチの傘によって遮られ、隣ではシスイがニッと笑顔を浮かべている。今までのことを見られていたのだろうか、二人は数メートル先にいるオビトたちに視線を向けると顔を見合わせ穏やかな笑みを浮かべた。

『…イタチ、シスイ…なんでここに居るの?』
「何でって、今日はオレたちにとって大事な日だろ?」
『え、うそ…覚えてたのっ?』
「やっぱりお前も覚えてたんだな」
「だから今日は雨なのかもしれないぞ」
『シスイ、それどうゆう意味』

むっと表情を歪めたリクハにけらけらと笑うシスイ。

『あ、そうだ…これ二人に』

思い出したかのように持っていた紙袋を二人に手渡すリクハ。使い易い物だけ詰めておいたという言葉から、中身は恐らく医療忍具だろうと予想はついた。自分がいない時はそれを使って欲しいという医療忍者であるリクハならではの贈り物に、二人は「ありがとう」と柔らかな笑みを浮かべる。

「よし、じゃあ行くか二人とも」
「ああ」
『え?どこに行くの?』
「リクハはイタチの傘に入れよ?オレのは一人用なんだ」

ウィンクしながらワザとそう言ったシスイにイタチは心の中で「ありがとう」と呟き目で訴える。それが伝わったのかリクハには分からないように微笑み先に歩き出すと、後ろから楽しそうな笑い声が聞こえて来てシスイも穏やかに微笑んだ。

「雨の中の相合い傘ってのも、なかなかいいもんだな」


相合い
(今日は私たちがスリーマンセルを組んだ特別な日)


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