『明日には退院できるって』
「強引にだろ?兄さん心配するぞ」
『大丈夫。これくらいの怪我なら二、三日で完治するから』
「はぁ…。相変わらずだな、姉さんは」
『そうかな?』
「そうだろ」
『ふふっ。言ったわねサスケッ』
「…って、止めろって」

リクハの細く長い指がサスケの額を小突くと二人の間に笑いが広がる。いつもは兄であるイタチが何かと付けて「あとで」や「まただ」と言いながらサスケの額を小突いているが、それが近頃、二人になった。悪い気はしないがその度に額を赤くするこちらの身にもなってくれと、サスケは呆れたような笑みを浮かべてリクハを見た。

「そう言えば姉さん…さっき言ってたナルトの件だが…」
『ん?』
「正直、アイツとの生活いつまで続けるつもりでいるんだ?」
『…え、なんでそんなこと聞くの?』

自身の問いかけに首を傾げたリクハに対し、盛大なため息を吐いたサスケ。
任務の時は並外れた洞察力を発揮するくせに、この手の話になると極端に疎くなってしまうのは何故なんだと表情を歪める。一時期はこの鈍感さは計算されているもので、イタチをわざと振り回しているのではないかと疑いもしたが、そんな器用なことができる女ではないというのは二人の焦ったい関係を見てきて学んだ。
そうでなければあの天才と呼ばれる兄が今の関係を築くのにここまで時間を要することも無かったハズなのだから。

「なんでって…あんたが兄さんの婚約者だからだ」

少しばかり語気を強めてそう言うと、リクハはあからさまに目をぐるりと泳がせて困ったような表情を浮かべた。そこまで言われてようやくサスケの問いの意味が理解できたようだ。

『…それは…うん。考えてる最中なの』
「おい。今完全に婚約者だってこと忘れてたろっ」
『し、失礼だな!忘れるわけないでしょっ?』
「嘘だな。姉さんはしらばっくれる時目が泳ぐ」
『…なっ』
「よくそれで忍になれたな」

ガーンとショックを受けているリクハを見ていると、本当に喜怒哀楽のはっきりした性格をしているなと改めて思わされる。上手く自分の感情をコントロールして、どんなに辛くても他人にそれを悟られることなくやり過ごしてしまう兄とは正反対。それこそナルトと馬が合うのは当然と言えば当然だ。
サスケはそんなリクハに呆れたような、でもどこか親しみのある笑みを向ける。イタチがリクハを心底愛しているように、サスケもまた、リクハを本当の姉のように慕い家族としての意味合いで愛情をもっているのだ。だからこそ、大好きな二人には早く幸せになってもらいたいとも思う。もう十分すぎるほど里のために働いてきたのだから、そろそろ自分たちの身だけを考え幸せを掴み取って欲しい、と。

「とにかく、ナルトを贔屓目にするのはやめろ」
『違うの、サスケ』
「あ?」
『あの子を贔屓目にしてるとか、そういうことじゃなくて…』
「じゃあなんだ」
『それが…』
「それが?」

そう言うと急に頬をほんのりと赤く染めて、両手でそれを隠すような仕草をとったリクハにサスケはワケが分からないと首を傾げた。何に対して照れているのか、何が恥ずかしいのか、口を結んで困っているリクハは数秒の沈黙のあとゆっくりと口を開いた。

『イタチと一つ屋根の下で生活って、なんか…恥ずかしくて』
「…はあ?」
『心の準備がその…まだできないっていうか…』
「おいおい姉さん。…またイタチを振り回す気か?」

信じられないと言わんばかりに目を見開き、人差し指をリクハにむける。

『振り回すって…人聞きの悪い!』
「事実だろうが鈍感天然女っ」
『ど、鈍感天然女!?』
「これ以上イタチを待たせるな!誰の兄貴だと思ってんだ、ああっ?」
『ちょっと!なにその口の利き方!』
「うっせぇ、この女版ウスラトンカチ!」
『なにー!?サスケそれ!ナルトにも今後使用禁止!表に出なさい!性根から叩きなおしてやる!』

病人であることも、左足首が骨折していることすら忘れリクハはベッドの上に立ちサスケと睨み合いバチバチと火花を散らしている。
こんなところをシズネに見られでもしたら、せっかく勝ち取った自宅での治療許可も即取り消しになるのは必須。それでも感情的になった二人を止める者はここにはおらず、サスケもサスケで表で一戦交える気満々のようだ。

「オレの写輪眼に勝てると思ってんのか?」
『私の仙人モード、侮らないほうがいいわよ』
「丁度いい。最近修行に付き合ってもらってなかったからな。手加減すんなよ」

いつの間にかとんでもない方向に向かっている二人が睨み合いながら病室から出て行こうとする。お互いの技がこうでもない、ああでもないと言い合っているその最中。突然二人以外の第三者の声が向かっている入口の方から聞こえてきて、視線をそちらに向けた二人の表情が一気に青ざめていくのが見て取れた。

「リクハ、サスケ。お前ら、どこに行くつもりだ?」
『「………兄さん(イタチ)」』


兄さんの馴染
(それはガキの頃から大好きな、オレが姉さんって呼んでる女)



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