『…っ!!まただっ。なんでっ』
「くそっ…どうなってんだ!」

集中治療室。
一人の医療上忍が持っていた資料を近くの机の上に叩きつけ、苛立ちを露わにする。その理由は診察台の上で仰向けに眠っているリンが未だに目を覚さないことと、そもそも治療自体が行えない状態であることが起因していた。
ここにいるのは木ノ葉の里でも医療スペシャリストとして名高い仙波一族の医療班で…古くから医療に携わり、独自の術を受け継いできた者たちだ。
その中でも「神手(しんしゅ)」と呼ばれる力を持つ者が仙波には存在する。うちはで言えば写輪眼のようなものだ。
これが一族の「血継限界」と呼ばれていて、特殊なチャクラを生み出し、生と死を操るなどとも称されている。しかしこの「手」持つ者は一族の中でも極めて少なく、写輪眼のように開眼する…という方法では手に入れることができない。何故なら「神手」は、遺伝によるところが大きくリクハの母親がその力を有していた。

「神手(しんしゅ)を持つお前のチャクラでも無理となると、どうすれば…」
『…白眼や写輪眼でもチャクラの乱れは感知できなかった。…寄生虫の類の可能性もない。シスイの情報だと、呪印の一種かもしれないって話ですよね』
「ああ。だがもしそうだとしたら、これ程高度な呪印を一体誰が…」
『………』

いくら体にチャクラを流して回復させようとしても、全て弾かれてしまうのだ。しかし不思議なのは最初の一回…リンが里へ運び込まれてきた時に施したリクハの医療忍術だけは、弾かれずに効果を示した。今こうしてリンが生命維持出来ているのは、その時に再生治療を行なっていたのと医療機器や薬品のおかげという状況なのだ。

『呪印と聞いてすぐに思い当たる忍びは一人です…』
「……大蛇丸様か。…考えたくはないな」
『とにかく今は安定しているけど、リンさんがいつ急変するか…』
「一刻も早く、カカシとオビトに話を聞かないといけない」

オビトと、聞いて表情を歪めたリクハ。

『あの、オビトさんなんですけど…』
「ああ。さっき別の奴から聞いたよ。大変だったな」
『…私にもっと力があれば、リンさんは今頃…』
「よせリクハ。神手は膨大なチャクラを消費する上に、術の一つ一つの構造が入り組み過ぎていて扱えるまでに時間がかかる。再生治療を施せただけでも上出来だ」
『…でも』
「そう自分を責めるな。オビトが目覚めるまで待とう」
『……すみません』
「少し休め」
『はい…』

治療室を出て、窓からリンを見つめるリクハ。
彼女だけ、未だに目を覚まさず眠ったまま。
オビトは一度目を覚ましているし、状態も命に関わる程ではなかった。カカシもそうだ。一応安静にとは言っだがじっとしていることが嫌だったのか…はたまたオビトと同室というのが理由なのか、すでに暗部の仕事に戻っている。自分はリンの治療に専念していた為、カカシとは話せていないしオビトも数日ぶりに目を覚ましたかと思えばいきなり病室を飛び出してカカシを殴りに行く始末。再度鎮静効果のあるチャクラで抑えた為明日の昼頃までは話を聞くことができなくなってしまった。

『リンさん…あなたが居ないと、二人の気持ちがどんどんすれ違って行く気がします…』

集中治療室の窓に手を当てそう呟いたリクハ。うちは一族をよく知る仙波一族の人間であるからこそ、オビトのことが心配で不安で堪らないのだ。このままリンが目を覚まさなかったら…向けられていた愛情がカカシへの憎しみに変わってしまうんじゃないかと。そうなれば…結末は考えたくもない闇へと繋がって行ってしまいそうで、リクハは思わず首を左右に振り思考を止めた。
そんな未来は絶対にあり得ないし、自分がどうにかしてみせると、強い意志に気持ちを切り替えながら拳を握りしめオビトの様子を見にその場を後した。



「………」

分かってんだよ…。

「カカシッ!危ない」
「来るなリン!」
「…!!!」


本当は…お前のせいなんかじゃないってことくらい。
分かってんだよ…。

「っ…!!!!!」
「「リンッ!!!」」


本当に許せないのは、自分の弱さだ。
リンを守るって大口叩いてあいつと約束しちまったのに。
守るどころか、守られちまった。
これじゃあ、火影になるってリンとした約束が…遠のいていくばかりじゃねえか。
何が名誉あるうちは一族だ…。何が最強だ…。オレは大切な人すらも、この力で救うことができなかった。
挙句の果てにカカシに助けられて…。
何やってんだろうな…オレは。

「オ…ビト…カカシ…と……にげっ…て」
「っ!!!」


夢の中。
オビトの閉じられた瞳から涙がこぼれ落ち、指先がぴくりと動く。それでも目を覚ますことはなく、静寂と闇夜に包まれた病室に大切な人の名前を呟いたオビトの声が妙に響き渡った。
そんな彼の思いを感じながら、ベッドの縁に佇みオビトの手を数秒握りしめた黒い影。それが月明かりに照らされ写し出されると、キツネの面が姿を現す。

「…オビト…すまない」

コツコツと廊下を歩く靴音がだんだんとこの病室に近づいて来るのが聞こえると、開け放たれた窓から身を投げ姿を消す。医療道具を持って病室の出入り口に立ったリクハは、夜風が吹き抜けカーテンを揺らす光景に首を傾げた。

『窓…開いてたかな?』


本当はかってる。
(二人が強い絆で繋がってるってこと)


*前 次#


○Top