「………」
『オビトさん…』

イタチの手を借り半ば強制的に病院に連れ戻し、必要な治療を施した。今は鎮静剤で眠らせているため病室内は静かだが、また目を覚ました時にどうなるか分からない。リクハは近くにあった椅子をベッドの側に持ってくると、そこに腰を下ろし小さなため息をついた。
オビトとリンが病院に運ばれて来てから一週間、まともに帰宅せず泊まり込みで治療に専念しているリクハ。疲れはピークに達しているはずなのに、気を落ち着ける間がないのか満足に休息を取ることも出来ずにいた。

『ごめんね、オビトさん。リンさん…』

ポツリと呟かれた二人への謝罪の言葉。内心では自分の力の無さを責め、悔やんでいた。医療忍術のスペシャリストと称される仙波一族に生まれながら、未だリンを救う解決策を見出せていないことが許せないのだ。
そんな自責の念にかられながら今日何度目かも分からない深いため息をつくと、部屋の入り口を控えめにノックする音が聞こえて来た。こんな時間に誰だ?と振り返ると、そこには…。

「リクハ」
『…!…イタチ』

幼馴染の姿があった。
とっくに帰宅しているものだと思っていた為か、少し驚いた表情を浮かべているリクハ。そんな自分とは対照的に、イタチは穏やかな表情で「少しいいか?」と手招きをした。
『うん』と短い返事をしてからオビトに一度視線を移し、容体が安定していることを確認すると入り口へと足を進める。

『もう帰ってると思ってた』
「暗部の召集があったんだ」
『あれからカカシさん、どんな様子だった?』
「…いつもと変わらない様には見えたが、思い悩んでいる様にも見えたな」
『そっか。…無理もないよね。オビトさんとリンさんがこんな状態じゃあ』
「二人の容態は?」
『一応安定はしてる。って言っても、リンさんは未だに集中治療室なんだけど…』

顔を俯かせて肩を落としたリクハ。

「そうか」
『カカシさんの怪我もまだ完治してないし、もし何かあったらすぐに教えて?』
「分かってる。…でも、あまり無理はするなよ」
『うん、ありがとう。イタチもね』

そう言って向けられた笑顔にいつものような明るさはなく、逆に疲れが見て取れた。イタチは自分のことよりも相手を気遣おうとするリクハに苦笑いを浮かべ、「行くぞ」と身を翻し歩き出す。どこに行くのだろうと首を傾げていると、数歩先に居たイタチが立ち止まり振り返る。

「聞いたぞリクハ」
『え?』
「あれからまともに、休んでないって…」
『そ、そんなことないよっ』
「嘘をつけ。目の下に隈ができてる」
『…う……』

イタチに嘘は通用しない。そんなことをシスイに言われていたことを思い出し、取り繕っても無意味だと分かる。それでも今は自分の役割を少しでも果たしていたいと、その気持ちを伝えるべく反らしていた視線をイタチに戻すと、それと同時に手首を掴まれ強制的に歩き出したイタチにつられて歩みが進む。

『ちょっとイタチッ。私は…』
「少しは休め。お前が倒れたらそれこそ意味がないだろう」
『それは大丈夫だよ!体力には自信があるし、それにっ』
「リクハ」
『……』

自分の言うことを素直に聞き入れようとしない意地っ張りな幼馴染に、真剣な表情で振り向いたイタチ。声のトーンとその表情から言葉を詰まらせたリクハは、少しばかり目を泳がせた。

「お前の気持ちは分かるが医療班の仲間に少しは頼れ。腕の立つ医者は、他にも居るだろう?」
『…それはそうだけど』
「オレやシスイも、お前を心配してるんだ」

掴んだ手をぎゅっと握りしめると、イタチは穏やかな表情を浮かべて「だから…」と空いている方の手でリクハの頭にポンと手を乗せ視線を合わせた。

「帰ろう、リクハ。みんながお前を心配してる」
『…イタチ…。でも…』
「"でも"…は無しだ」
『うっ…』
「くすっ。…ほら、行くぞ」

イタチに手を引かれ歩き出したリクハ。
医療忍者らしい、人の命のこととなると周りがあまり見えなくなるのは昔からで…それを知る幼馴染のイタチだからこそこうして無茶をするリクハを一度立ち止まらせることができるのかもしれない。


いつだってかってる
(そこまで意地っ張りだと可愛げないぞ)
(…!ガーンッ…)
(冗談だよ)


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