「あ…」
「ただいま、サスケ」
『お邪魔しま…』
「リクハ姉さんだ!」

女の子顔負けの可愛らしい笑顔を浮かべたサスケはリクハと目が合うなり勢いよく飛びつき、腹部に顔を埋めて嬉しそうに頬ずりをする。久しぶりに会えたことに喜びを感じているのだと分かると、連れて来て正解だったとイタチも穏やかな笑みを浮かべた。

「姉さん久しぶりっ」

パッと顔を上げて白い歯を見せて笑うサスケの純粋さが、比較できるものがないほど輝いて見えた。こう感じる時は大概気の重くなるような環境にいるか、そうゆう場面に遭遇した時。リクハは蓄積された疲れが癒されていくような感覚に、サスケの頬をぎゅうっと両手で包み込み、額を合わせると『会いたかったよ』と花が咲いたような笑顔を浮かべた。

「へへへっ。ねぇ、宿題教えてよ姉さん!」

生まれた時から互いの家を行き来していたせいか、歳を重ねてもこの家に来るとまるで我が家に帰って来たような感覚になる。
幼い頃はイタチと二人、広い家の縁側を走り回って怒られたり、本を読んだり、夜空を眺めて天体観測もした。しばらくしてサスケが生まれてからは、思い出が三人分に増えた。
よちよち歩きだったサスケももう、アカデミーに入学し下忍を目指している。会うたびに「遊ぼうよ」が口癖だったはずが、今では「宿題教えてよ」になったのが成長の現れだろう。

「あら、リクハちゃん!」
『ミコトさん。お邪魔します』
「母さん!やっと姉さんが来てくれたんだっ」
「良かったわねサスケ。元気にしてた?」
『はい』

洗濯カゴを抱えて姿を見せたミコトが嬉しそうにリクハたちに歩み寄る。生まれた時から娘のように見守って来た存在だからこそ、こうして顔を見ると喜びが湧き上がる。サスケもニコニコとアカデミーでは絶対に見せないであろう表情を浮かべ、リクハの腕に絡みつき「宿題教えてくれるってさ!」とミコトに自慢げに話す。

「ゆっくりしていってね」
「姉さん早く!」
『え、あ、ちょっと待ってサスケッ。すみません…』
「ふふっ。あとでお茶菓子持ってくわ」

サスケに腕を引かれ、つんのめりそうになりながら家の中へと上がるリクハ。まともな会話ができなかったことに謝罪しながらミコトの横を通り過ぎ、サスケと共にいつもの部屋へ向かう。そんな二人の姿を笑顔で見つめた後、靴を脱いでいるイタチに視線を移した。

「リクハちゃん、大丈夫なの?」
「………」
「ずっと治療にあたっていたんでしょう?」
「ああ」
「少し疲れている様だったけど…」
「だから連れて来たんだ」
「え?」

靴を揃え家の中へと上がるイタチ。
ここのところあまり会話をしていなかったことを思い出し、少しばかり気まずそうに視線を反らすとリクハたちの声が聞こえる方に体を向ける。ミコトには背中を向ける形になり、そのままいつもと変わらない様子で口を開いた。

「オレがついてるから、母さんは心配しなくていい」
「…!」

顔だけを少し動かして振り向くような仕草でそう言ったイタチの表情は、長い前髪で隠れてしまって伺うことはできなかったけれど、あまり多くを語らない息子のその言葉は今のミコトの不安や心配を払拭するには十分過ぎるものだった。
ふふっと綺麗に笑うミコトの声に疑問を抱き振り向くと、目を細め何かを懐かしむような表情を浮かべている。

「そっか。…そうよね」
「母さん…?」

戦争を経験した後に、幼いイタチが揺るぎのない瞳を向け自分にある言葉を伝えてくれた時のことを思い出す。
あれはそう、イタチに続いてリクハが戦地に赴き間一髪のところでシスイに助けられた日のことだ。病院のベッドの上で眠る幼馴染を前に、イタチはリクハの小さな手を握りしめながらこう言った。

「ねえ母さん」
「どうしたの?イタチ」
「オレ決めたよ…」
「え?」
「何があっても、絶対にリクハを守るって」


その言葉の決意が、数年経った今でも揺るぐことなくイタチの中で生き続けていることにミコトは安堵のため息をついた。

「お互いがいれば、あなた達は大丈夫ね…」


君がいれば丈夫
(だって光を見失わずに生きていけるもの)


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