自分の腕の中で涙を流す幼馴染を、不謹慎だが愛しいと思った。

『オビトさんと約束したの…』
「約束?」
『絶対リンさんを、助けるって…それなのに私…』

自分を抱き寄せるイタチの腕を掴みながら、溢れ出す思いに涙が止まらず言葉に詰まる。オビトの気持ちを近くでずっと見守ってきたリクハだからこそ、リンの命の重みを余計に感じ苦しいのだろう。
その気持ちすら理解しているイタチは瞳を伏せ、「大丈夫だ」と気を落ち着かせるかのようにリクハの頭を何度も撫でる。

「オレもこの眼を開眼した時、お前と同じ気持ちだった」
『…ごめんっ。嫌なこと思い出させてっ』

イタチが写輪眼を開眼した経緯を知っていたリクハはバッと顔を上げて少しだけ距離を取る。慌てて謝罪しながらイタチと視線を合わせると、月明かりに照らされた漆黒の瞳があまりにも綺麗で胸がどくんと高鳴った。イタチの瞳がリクハを愛おしそうに見つめると、頬に手を添え涙を拭った。
幼い頃から気持ちを受け止めてくれる幼馴染の変わらない行動…。いつも特別な感情なんて抱かないハズなのに、イタチの瞳や行動一つ一つに込められている想いに触れてしまった気がして…。さらに、奥深く、自分でも気づかないうちに芽生えていた気持ちが顔を出したような気がして、漆黒の瞳から不自然に視線を反らした。

「大切な誰かを失うということは、必ず痛みを伴う」
『…うん…』
「それが親しい友人や家族、仲間なら余計にな…」

今までたくさんの仲間の死を目の当たりにしてきた二人だからこそ、失う痛みがどれほど辛いかを知っている。リクハが『神手』を受け継いだのも、両親の死後…すぐのことだった。

「痛みを理解している分、不安や恐怖は付き纏う」
『…イタチも、そう感じるの…?』
「オレは暗部で、命を救うお前とは真逆な立場にいるが…」
『……』
「失うと考えた時、どうしようもなく不安になる繋がりはあるよ」

少しだけ表情を歪め、再びリクハの体を抱き寄せたイタチ。暗部に所属し、任務でなんの関わりもない多くの人間を手にかけなければならない環境で改めてさせられることがあった。
どんなことがあってもサスケだけは守ると誓った同じ重さで、リクハを絶対に失いたくないと強く思ってしまった自分がいたことだ。この存在がもし自分の世界から消えてしまうようなことが起きたら…そんな風に考えるだけで、闇の中に落ちそうになる感覚がして不安になる。幼い頃よりもそれが鮮明に分かるようになると、リクハをいつでも手の届くところで守りたいと思うようになった。

「不安や恐怖を感じた時は、オレが一緒に背負ってやる」
『…イタチ…』
「だから、全力でリンさんの命と向き合え」
『…っ…うん』
「余計なことを考えて立ち止まるのは、お前らしくない」

リクハは常々、今の自分があるのはイタチやシスイのお陰だと言っていた。二人が常に自分の前を歩いてくれるから、それを追いかけ努力することができるんだと。しかし、真っ直ぐ純粋に…決して自分を見失わずに歩み続けるリクハの存在があるからこそ、前を向いて進むことができるとイタチは感じている。

『ありがとう、イタチ…』
「オレも出来ることは協力する。でも、今は休め…リクハ」

イタチの体温に、規則正しい心音。優しく頭を撫でてくれる手に、いつの間にか涙が止まり安心したのか意識が微睡み目を閉じる。これじゃあまるで子供じゃないかとイタチに申し訳なさを感じながらも、とても心地が良くこのままで居たいと思ってしまう。

『…ありがとう…』

小さく呟きそう言ったリクハ。しばらく目を閉じその優しさに身を委ねていると、突然体が宙に浮き手放しかけた意識がゆっくりと戻ってくる。状況を確認しようと薄く目を開ける時にはもう、見慣れた天井が映り込んだ。

「ゆっくり休め、リクハ」

部屋まで運んでくれたイタチはリクハを降した後布団をかけ、頬に手を添え穏やかな表情を浮かべた。温もりが離れて行くのを感じて、部屋を出て行こうとするイタチの手を取りぎゅっと握りしめると、リクハは空いているもう片方の腕で目元を隠しながら…『そばにいて』と呟いた。

「リクハ…」
『ごめん、イタチ…。もうちょっとだけ…一緒にいて』

目元は隠されていて見えないが、若干震えている声から一人になるのが不安なのだろうと推測できた。
イタチは入り口に向けた体をもう一度リクハの方に戻し力の込められている手を握り返すと、これも自分だけの役割だったと穏やかに微笑んだ。

「お前が眠るまで、そばにいるよ」
『…ありがとう、イタチ』

それも、昔から変わらない。
自分とリクハだけの特別。

「おやすみ、リクハ」


このをずっと離さない
(君が眠ったら、僕もすぐに目を閉じるよ)


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