南賀ノ川の大きな滝を前にして、シスイはカカシとオビトからもたらされた情報をもう一度整理していた。
敵の人数は三人。男が二人に少女が一人。
皆般若の面を付けていたことから顔は確認できていない。
一人は時空間忍術を操り、もう一人は仙波一族の者だという。
非戦闘員らしき少女は感知役か、医療忍者。
呪印を使ったのは時空間忍術を操る男で、オビトの写輪眼を狙ったのは仙波の男だという。
リンにかけられた呪印はカカシを狙ってのもので、初めからターゲットはカカシとオビトだったと推測できる。
そしてオビトだけが聞いた「片翼を探している」という謎の言葉。この言葉を放ったのが仙波一族の人間だとオビトは言ったが、それを裏付けるのはオビトの記憶と証言だけ。同じ同志として、ましてやリンの命がかかっている状況で彼がデマかせを言うわけもなく、シスイは閉じていた目をゆっくりと開けると、隣で黙って話を聞いていたイタチに視線を向けた。
案の定、眉間にシワを寄せ「信じられない」と言いたげな表情を浮かべていた。

「…そこにリクハも居たんだろう?」
「ああ。仙波と聞いてかなり驚いていたよ」
「だろうな…。今はどうしてる?」
「リンさんの治療中だ。原因が呪印なら封印術を用いた治療を試すと言ってた」
「そうか」

嫌な予感と多くの謎が残る中、回復に繋がる一歩を踏み出せたことはかなり大きいだろう。昨晩不安な思いに苛まれていたリクハを思うと、なおさらだ。

「暗部のお前を巻き込んですまないな」
「気にするな。どの道協力はしようと思っていた」
「助かる、イタチ」

この情報はすでに、シスイによってヒルゼンに伝えられていた。
ことの重大さを感じたシスイは、この件を暗部であるイタチと調査できるようにして欲しいと頼み込み、許可を得ていた。話を聞いているとまだ謎が多く、とてもじゃないが自分一人で抱え切れるような案件ではないと思ったからだろう。
ヒルゼンもシスイとイタチにこの件を一任し、何か都合の悪いことがあれば自分の名前を出せと、ある程度の権限も与えてくれたのだ。

「この件は内密に動く。まだ定かではないが、仙波から抜け人が出たとなれば騒ぎになると、三代目は危惧している」
「賢明な判断だな…」
「ああ。仙波とうちはは良くも悪くも結束が固い。何かあれば両族に影響するかもしれないからな」

仙波の族長を担っていたリクハの父親が殉職した後、その座は今も空白のまま。この不安定な状況がいつまで続くのかとリクハは常々不安を口にしていたが…少し前からその動向に変化があったのだ。

「今仙波を統一してるのは、フガクさんだからな」
「何かあればうちはも動く…そうゆう状況にもなりかねない」
「仙波はうちはの懐刀…か。三代目が危惧する理由も頷ける」

溜息混じりにそう言ったシスイに、イタチも共感の意を示す。

「でも妙だな…その仙波の男はビンゴブックにも載ってないんだろ?」
「ああ。本当にそうなら抜け人扱いになってるハズだ」
「仮に抜け人だったとしても、警務部隊の目を盗んで何かを企てるのはかなり難しいんじゃないかとオレは思う」
「確かにそうだな。だとすれば、外部に居た仙波の人間だと推測する必要があるが…」

イタチの言葉に顎に手を添え考え込むシスイ。
確かにうちはの敷地と仙波の敷地は隣接していて、警務部隊の目が行き届いている。怪しい動きをすればすぐに特定され、追求されることだろう。
シスイが言うようにその男を外部の人間だ仮定して、木ノ葉の里で生まれることのなかった仙波一族の人間だとしたら…。

「外部……。いや、ちょっと待てイタチッ」
「……」

何かに気づいたのはシスイだけではなくイタチも同じだったようで、顔を向けると「まずいな…」と言いたげな表情が返ってきた。その表情から行き着いた結論が同じだと悟ったシスイは、地面の砂を足で払うとクナイを取り出ししゃがみ込む。

「これは仮説だが、聞いてくれっ」

土をクナイの先端で削りながら、今の自分の頭の中で繋がった情報を視覚化していく。

「まず、仙波の男を外部の者だと仮定して、呪印というキーワードと繋げる。…ここから見えて来る人物が一人居るんだが、分かるか?」
「…大蛇丸だな」
「そうだっ。そして、これまで仙波一族の中で抜け人は出ていない。だが、唯一二人だけ…見つけられなかった"遺体"があるっ」

書き記した文字の上にクナイをシュッと突き刺し、表情を歪めたシスイ。信じ難い線で繋がってしまった情報に、二人の間で気持ちの悪い緊張が走った。

「リクハの両親の遺体だ…」
「…駄目だ、考えたくない」

二人とは面識がある、なんて軽い関係ではないシスイとイタチにとって、頭の中に浮かび上がってきたイメージはとてもじゃないが受け入れ難い。

「オレも同じだ。…だが実際、大蛇丸は幾度となく人体実験を繰り返していた。抜け人となった今でもその詳細は不明で謎が多い」
「仙波の人間、それも"神手"を持っていたハスナさんの遺体は、大蛇丸にとっては最高の実験体になるな…」
「ああ。この一件の裏側には、大蛇丸の存在があると踏んでいいだろう。だが何故カカシさんを狙った?写輪眼は何のために…」
「そこにある共通点はなんだ」

導き出した答えの先に、何かとんでもない闇が待っているような気がして緊張感がさらに高まる。シスイの書いた文字を一つずつ確認し、イタチの指が「カカシ」「写輪眼」「仙波」を順に指し示した時だった…大切な幼馴染の顔が浮かび上がって来たのは。

「…狙いは、リクハか……」
「……!?」
「この三つに共通するのは、リクハだ…」

珍しく震えるイタチの声。
シスイは表情を強張らせて自分の書いた文字を見つめた。共通点という言葉を聞いた後に見返してみると、確かに全てにリクハの存在当てはまる。カカシは彼女の師であり身近な人間の一人。仙波はリクハそのもので、写輪眼との関係も深い。

「カカシさんに呪印をかけようとした意味はなんだっ」
「医療忍術の効かない呪印…仲間の死を利用するつもりだったのかもしれない。それでリクハを誘い出そうとしたのか…?」
「いや、それじゃああまりにも確実性にかける…」
「…狙いがリクハなら、あいつの行動を先読みした罠をしかけるはずだ」

いつも冷静な二人から見えた焦りの表情。大蛇丸が誰にでも見抜けてしまうような簡単な罠を仕掛けて来るはずもなく、頭を悩ませる。

「シスイ、リクハは今リンさんの治療をしてると言ったな」
「ああ…」
「呪印を封印する行動が、罠の引き金になる可能性があるかもしれない…」
「そうなると、リクハがリンさんの治療にあたると見越して居たことに……!だからカカシさんを狙ったのか…!」
「師であるカカシさんが呪印にかかれば、リクハが必ず治療すると踏んだんだろうっ」
「行くぞ、イタチ!」
「ああっ」

慌てて立ち上がった二人は書き記した文字を足で消し、イタチがシスイの肩に手を添えると同時に一瞬でその場から姿を消した。


の行方
(その存在はいつも隣にあった)


*前 次#


○Top