『…っ…』

体に走った痛烈な痛みに耐えながら、瓦礫の上で体勢を立て直すリクハ。上半身をなんとか起こして顔を上げると、視界いっぱいに黒が広がり凄まじい殺気を放っているのが分かった。確実に自分を殺そうとしている。
見た目からして何かの動物の類でもなく、生き物…と限定してしまうにはあまりにもかけ離れ過ぎた姿をしている。なぜならその風貌は、黒い影が炎のように揺れ動いているという表現をする他ないからだ。

『なんなの、こいつっ…』

迫り来る闇そのものから距離を取るため立ち上がろうとしたその瞬間、風邪を切るような速さで自分の体が宙に浮き温もりが伝わってくる。はっと我に返った時には別の場所へと着地していた。今の今まで自分が居た場所には敵が突っ込み瓦礫がいたるところに散らばる。横抱きにされた状態で「大丈夫か?」と聞き慣れた声が聞こえリクハが顔を向けると、そこには…。

「イタチッ…!」

不安げな表情を浮かべた幼馴染の姿があった。

『どうしてここへっ…』
「そりゃあお前のことを一番心配してるのはイタチだからな」
『…!シスイッ』

イタチがリクハの体を下ろすと同時にふわっと風が吹きシスイが瞬身で姿を現した。
予想していなかった二人の登場に驚きの表情を浮かべる。「ケガはなさそうだな」とこの状況で笑みを浮かべたシスイはすぐに黒い影へと視線を移す。自分たちよりも遥かに大きなそれは不気味な唸り声を上げながら三人と対峙するため体を向けた。

「デカイな。ここでアレとやり合うのはマズいぞ」
「ああ。里の外に追いやった方がいい」
『なら私が囮役を。よく分からないけど、狙いは私みたいなの』

リクハの言葉にさらなる確信が得られ、シスイとイタチは顔を見合わせ表情を歪めた。やはり狙いはリクハだった…と。その言葉の通り、確かに敵は逃げ惑う里の人間を襲わず意にも介していない様子だ。黒い影は真っ直ぐ三人を見据え、じりじりと間を詰め緊張感が高まっていく。

「里の外まで行け、リクハ。オレとイタチで援護する」
『…了解』
「……来るぞ!」

グァァァア!!

イタチの掛け声でリクハが後退し、二人は民家の屋根に上がる。今の今までいた場所は、鋭く尖った何かで地面が大きくえぐられている。次の攻撃が始まる前に走り出したリクハの後を、黒い影が地鳴りを起こしながら追いかけ始めたのを確認すると、それと並行するようにして走り出したイタチとシスイ。

『リンさんの中に…まさかこんな…っ』
「グァァァアッ!」
『…!』

背後に何か鋭い物体の気配を感じ、瞬時に体を反転させ避けようとしたその瞬間!金属と金属がぶつかり合うような音が響き、クナイが鋭利な針のようなものを投げ落としたのが視界の隅に映り込んだ。

「リクハ!気にせず走れっ」
『ありがとうっ』

敵の攻撃を防いだイタチはリクハに声をかけてから黒い影に視線を移す。針が弾かれたのを認識しているはずなのに、こちらには目もくれずひたすらにリクハだけを狙い追いかけている。よほど何かを欲しているようだ。

「イタチ、見たか?今あいつがリクハを狙った時、白い羽を飛ばしてた」
「…ああ、確認できた」
「白い羽を持つ生き物なんて、そうは居ないだろう」
「まだリクハは、"つがい"とは契約していなかったな…」
「ああ。…まだだな…」
「………」

また確信にしたくない可能性が浮上し、二人は表情を歪める。その間にもリクハは、まるで蝶がひらひらと宙を舞うように敵を翻弄し、だがかなり速いスピードで先へ進む。

『…(ぞくっ)』

しばらく走り続けあと少しで里の外れ…というところで先程よりも凄まじいチャクラの高まりを感じ振り返る。ズササッと地面を滑るようにして立ち止まると、100メートル後方で相手もピタリと動かなくなった。嫌な予感にリクハのこめかみに冷や汗が伝う。

「なんだっ…」
『信じられないくらい膨大なチャクラ…何をしようとしてるのっ』

シスイとイタチも立ち止まり、同じように様子を伺う。黒い影は身動き一つせずリクハと対峙し、内にあるチャクラを高めていく。
そして次の瞬間!炎のように波打つ闇が天高く噴き出し黒い影は両翼を大きく広げ、尾羽を扇状に勢いよく開いた。黒い影に覆われてはいるが、その姿形から今目の前にいる何かだったものが三人の中である生き物に特定されていく。
尾羽の先端にチャクラを圧縮したいくつもの球体がボッボッと不気味な音を立てて現れ、さらに増大していき空気が振動し始める。

『あ……あれ…って……!』

深く考えている間もないまま感情が溢れ出し、目から涙がこぼれ落ちた。泣いてる余裕があるわけじゃない、今は一刻も早くここから逃げなくてはいけないというのに体が震えて思うように足が動かない。周囲では逃げ惑う人々の叫び声が響き、時折リクハの体にぶつかることもあったが視線は目の前にいる見知った生き物に向けられたまま。
その間にもどんどん圧縮されていく膨大なチャクラの球体が5個目を形作った、その瞬間…。

ーズオッ!!

「(キズ、ツケタクナイ…)」
『…!!!!』

尾羽が揺れ動き球体の一つがリクハ目掛けて投げ放たれた。その刹那、確かに聞こえた威厳を感じさせる女性の声。しかしそれに反応する間も無く目を開けていられないほどの強い光が辺りを包み、強烈な烈風が吹き乱れた。リクハの体も一瞬で吹き飛ばされ、いくつかの家屋が宙を舞い崩壊していく。続けて里の外の方から響いた地鳴りと爆発音が聞こえて来て、それと同時に何かの手がリクハの体を受け止めた。

「っく…」
『…!これ…っ』

突風が止み光が消える。近くで聞こえた苦痛に耐える声に目を開けると、自分の体を緑のオーラを放出させた巨大な骨の手が受け止めてくれていることに気づく。その手が瞬く間に消えて地面に足を下ろすと、目の前にいたシスイが片目を押さえて膝をついた。

『シスイッ…!須佐能乎をっ』
「…っ…あれの軌道を反らすには、生身じゃ無理だ…っ」
『すぐに回復するっ』
「よせっ、須佐能乎を使用した後の回復は、お前のチャクラを膨大に消費するっ。オレは大丈夫だっ…」
『でも今治療しないと体への負担がっ…』
「いいから、イタチを援護しろっ!」
『!!!』

肩で呼吸を繰り返すシスイの体を支えるため伸ばされたリクハの手を掴み、強い眼差しを向ける。紅に染まった写輪眼からはシスイの意志が言葉を交わさずとも伝わって来て、リクハは下唇を噛みしめ強く頷いた。里の外れまで後少しというところだったが、そうも言っていられなくなりここでとにかく敵の動きを止めるしかない。

『すぐに戻るからっ』

シスイの肩に手を置いてから一瞬でその場から姿を消すと、服の袖で涙を拭い術の印を結んだ。

「火遁!」
『風遁!』
「豪火球の術!」
『風神の術!』


追いが吹いた
(互いの背中を守りあえるのは、お前たちだけだ)

*技名はオリジナル含みます。


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