「火影様!!報告します!!」
「やっと来たかっ」

火影室の窓から見える巨大な黒い影を険しい表情で見つめていたヒルゼンは、やって来た暗部の一人に体を向けさらに表情を強張らせた。

「例の影は木ノ葉病院にて出現!現在、目標を里の外へ追い込もうと、うちはイタチとうちはシスイ、仙波リクハの三人が応戦中です!」
「なんじゃと!?すぐに上忍と暗部たちを増援に向かわせろっ。場合によってはわしも出る!」
「はっ!既に火影直轄の暗部3名が向かっています、それと火影様っ」
「なんじゃ!」
「実は…っ」
「悪いが通してくれ」

暗部の男が気まずそうに言葉を詰まらせたその瞬間、説明を遮るようにして躊躇なく火影室へ入って来た人物に、ヒルゼンは驚いた表情を浮かべた。威厳のある風格が扉の前にいた暗部たちをも威圧し、中にいた男は数歩後ずさりし息を飲んだ。

「フガク!何故ここへっ」
「三代目、ご無礼をお許し頂きたい」
「よい。このタイミングでお前が来ると言うことは、"アレ"に関する話をしに来たのだろう?」

口をへの字に結んだまま難しい表情を向けるフガク。頻繁に聞こえて来る地鳴りが里全体に響き渡り、体にまで伝わって来る。ヒルゼンはフガクの瞳をじっと見据えると、瞬時に何かを汲み取ったのか残りの暗部に住民の避難を最優先するよう伝え、人払いをした。

「お察し感謝します」
「あまり時間がない。今あの影と戦っているのが誰かは知っているな?万が一の事が起こり得る前にわしも出る」
「存じています。ですが、ここはうちはと仙波に…いや、あの子たちに任せては頂けないでしょうか」
「………」

漆黒の瞳が、ヒルゼンを真っ直ぐ見つめる。その眼から伝わって来る迷いのない強い意志が、かつての同志うちはカガミを思い出させた。嘘偽り、企みすら感じられない純粋な眼差し。忍の世界がいかに残酷で理不尽なものかを知り、うちはの業を背負った男にまだこの眼ができたのかと少しばかり驚いた。と同時に、嬉しくも感じてしまったのだ。やはりうちはは、争うべき相手ではないことを明確にしてくれたような気がして。

「あの影の正体に、三代目は気づきましたか?」
「ああ…。あれは、リクハの母…ハスナの"白孔雀"だ」
「そうです。そして今は何らかの呪印の力で我を失い操られている…。とてもじゃないが信じ難い事態です」
「一族の者は知っておるのか?」
「ええ。しかしこの情報をもたらしてくれたのは、うちはでも仙波の人間でもない」
「…!?」
「はたけ、カカシです」



「ゴホッ…ゴホッ…!」

病室に立ち込める砂埃にむせ返りながら、ベッドから落下した拍子に抜けかかった点滴を無理矢理引き抜いた。完全に沈んだ意識からの強制的な覚醒に、体と脳の動きがついていかずに朦朧とする。
外では地鳴りが響き渡り、院内では緊急ベルの音がこだましていた。一体何が起こっているんだと状況を把握しようとして立ち上がった直後、視界がぼやけて体が傾いた。

「……?」
「大丈夫かっ?」

そのままやって来ると予想していた痛みは訪れることなく、代わりに誰かに体を支えられた感覚と聞き慣れた声が聞こえて来た。

「しっかりしろ、オビト!」
「カカ…シ…?」
「ああ。とりあえず無事でよかった」
「!!お前…っつ…」
「おい!無理するなっ」

自分を助けてくれたのがカカシだと言うことに気づいたオビトが反射的に体を振り払おうとしたその直後。体に鈍痛がはしり苦痛の表情を浮かべることとなった。

「お前…なんでここに居るんだっ」
「……」
「…!リンはっ!?リンはどうした!まさかお前またっ」
「リンならとっくに避難させたよ」
「!!」
「生きてる。…大丈夫だ」

大きくはないがはっきりと、力強い口調でそう断言したカカシの言葉に…オビトの目に涙が浮かぶ。片目は包帯が巻かれていて分からないが、あの一件以来一番リンのことを思い心配していたのは間違いなくオビトだろう。カカシを責めるような態度も言葉も、全てリンを…仲間を思ってのオビトの熱い気持ちの現れ。
それを十分に理解しているカカシだからこそ、その気持ちを受け止めてこうしてオビトの隣にいるのだ。

「…悪いカカシ…オレはあの時、お前をっ」
「今そんなことはいい。それよりもっ…」

ードオォンッ…

「なんだっ…!!」
「伏せろっ」

遠くで聞こえた爆発音。その直後に里目掛けて爆風が吹き荒れ建物の窓ガラスが一斉に割れる。そしてすぐに、地震に似た衝撃が体を伝った。二人は倒れたベッドを壁がわりにし、それを背にして爆風が止むのを待つ。

「カカシッ…一体外で何が起きてる!?」
「……」
「おいカカシ!」
「呪印で操られたハスナさんの白孔雀が、リクハを殺そうと暴れ回ってる」
「えっ………」

一瞬言うのを躊躇い表情を歪めたカカシの言葉に、眼を見開き驚愕するオビト。

「どうやらリンに仕掛けられた呪印に封印術を施すと、アレが出てくる仕組みになってたようだ」
「意味が…分からねぇっ。だってアイツの両親はっ」
「オビト、今は時間がない。お前に頼みたいことがある」
「???」
「病み上がりで申し訳ないんだが、お前…その眼を今すぐに使えるか?」


そのがもたらす先に…
(一族の未来がある)


*前 次#


○Top