「火遁・豪火球の術!」
『風遁・風神の術!』

ゴオォッ!!

イタチの炎にリクハの烈風が重なる。一瞬炎が風神の人形(ひとがた)を作り出し圧倒的な火力で敵の体を飲み込むと、里全体を赤く照らし天高く燃え広がった。熱風が辺りにブワッと吹き荒れる中、二人は片腕を額辺りにかざし目を細める。砂埃が巻き上がり、少しの間息苦しさを感じた。
甲高い声を上げながら空中で体を捩らせ、両翼を前後に動かし炎から逃れようとする黒い影。些細な隙も見逃すまいと攻撃する態勢を取れずにいる敵を前に、イタチの眼が紅に染まった。

「大丈夫かっ、リクハ」
『うん、平気!でもシスイがっ』

吹き荒れる風に耐えながら少しだけ後方に顔と視線を向けると、そこには膝を付き片目を押さえているシスイの姿が確認できた。あそこまで疲弊している姿を見ることは滅多になくて、相当チャクラを消費しているのだとすぐに分かった。イタチは表情を変えることなく視線を戻しクナイを一つ掌(てのひら)で回転させた。

「戦えるか?リクハ」
『……』

イタチの問いかけに少しばかり表情を歪めたリクハ。その短い言葉の中には敵の正体を知ってもなお…お前は冷静な判断ができるのか?という意味合いが含まれているのだと理解できてしまったからだ。正直かなり動揺はしているし、心中穏やかにとはいかない。疑問や悲しみが入り混じって頭の中は混乱状態だ。イタチはそれを察して戦えるかどうかを確認しているのだろう、余計な感情は隙をつくり死に繋がるリスクを生む。忍なら感情の一切を切り離し戦わなくてはならない場面だが、それを強要したくないというイタチの優しさもそこには現れていた。

『…ありがとう。私は大丈夫だよ』
「本当か…?」
『うん』

イタチの眼を真っ直ぐ見つめて力強く頷いたリクハ。その表情からは覚悟と決意が感じられ、イタチも「分かった」とそれ以上は何も言わずに小さく頷いた。

「まず動きを封じるぞ。オレの写輪眼で幻術をかける」
『分かった。援護するっ』
「いくぞ」

イタチが瞬身で姿を消すと、リクハもそれに続き走り出す。炎が消えて再び両翼を広げた敵は、甲高い鳴き声を発してリクハの存在を追う。だが体の大きい分スピードは劣る。敵の真下を潜り抜けるようにして瞬身で移動したリクハは、地面を滑るようにして背後に回り手の平にチャクラを圧縮していく。乱回転しながら次第に大きくなっていくチャクラはリクハの手の上で球体に形を変えた。
幼い頃。同じ風の性質を持っていたミナトが見せてくれたこの技を、彼の生徒であったカカシから受け継いだ。

「あれはっ…」
『螺旋丸っ!!』

リクハが勢いよく地面を蹴り飛び上がり、右手を敵の背中へと突き出したその瞬間!

『…っ!!!』

尾羽がバサッ!と勢いよく扇状に開き、螺旋丸とぶつかり合い凄まじい衝撃を生んだ。

ブオッッ!!

辺りに風が吹き荒れ衝撃波のようなものが伝わる。敵の体は若干傾いたが、決定的な一撃にはなっていない。リクハの体は人形のように軽々と吹き飛ばされ、宙を舞う。どうやら尾羽は見た目よりも強固で厄介な防御壁の役割も果たしているようだ。
敵を地に伏せることはできなかったものの、イタチはその一瞬の隙を見逃さなかった。螺旋丸の衝撃で敵の体が傾いた瞬間、両翼のチャクラの流れを読みクナイを打ち込んでいく。紅い瞳が左右上下に動く。それはまるで先読みをしているかのように動きで、打ち込む箇所を確実に把握しているようだ。
イタチの手から放たれたクナイが、次に放たれたクナイとぶつかり死角になっている場所にまで突き刺さる。民家の屋根を蹴り上げ宙に浮いているものの数秒で一連の流れをやり終えたイタチ。だが敵もただ黙っているわけではない。

キィィィッ!

「…っ!?」

空中で体勢を整えようとしているイタチ目掛けて飛んできたのは、先程リクハを襲った鋭利な羽。何百本というそれがイタチの体に突き刺さると、一瞬で意識を手放し地面目掛けて体が真っ逆さまに落ちていく。闇の中でギロリと動いた眼光がその姿を捉えて両翼を動かそうとしたその瞬間っ。

ー!!!

まるで両手を拘束されているかのような負荷が翼にかかり、動かすことができなかった。ギョロギョロと瞳を動かせば両翼の至る所にクナイが突き刺さり、動きを封じられているではないか。しかもそれは的確な場所に打ち込まれていて、一瞬だが体の自由が奪われる形となった。

「…ナイスだ…イタチ…」

少し離れた場所から戦いの様子を見ていたシスイの口元が若干だが吊り上がった。
衝撃を受け両翼を力強く動かそうとしている敵の目の前を、一本のクナイが通過し地面へ突き刺さる。直後に左側の方でボフンッと影分身が消える音が響き、クナイに気を取られた大きな瞳が一点に注がれた…次の瞬間。

「!!!!」

頭上から降りて来たイタチの紅い双眼と視線が重なり、敵の体がドクンッと大きく脈打った。

「(…うちは…イタチ…)」
「っ!!!」

その声が脳内に響き一瞬目を見開いたイタチ。巨大な体が力を失いドオンッ!と音を立てて地面へと倒れ込むと、辺りに砂煙が舞い上がった。


受けぐ者
(彼らは待っていた、この時を)


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