大事なもんを守るのに、特別な理由はいらねえ。
オレがそうしたいと思ったから。
仲間だから。
…強いて言うなら理由なんてそれで十分だ。

「っ…ぐ…!!」

目の前で起こった現象に、初めてオビトの力を目の当たりにしたリクハたちは目を見開き衝撃を受けた。突然空間が渦を巻くようにして歪み始めたかと思えば、ハクセンがその中に吸い込まれるような形で消えたのだ。
辺りは再び静けさを取り戻したが、術の発動が終わるや否やオビトが膝から崩れ落ち右眼を押さえ、その痛みに表情を歪めた。まだ傷が完治しているわけでもなく、重ねて左眼を負傷している中での万華鏡写輪眼の使用は今のオビトの体にはかなりの負担だろう。

『オビトさん!こんな状態で無茶し過ぎですっ』
「…さすがに、こたえるなっ…どうにかなりそうだっ」

虚な瞳で目の前にいるリクハを見つめ、無理に笑顔を浮かべるオビト。今にも気を失ってしまいそうなほどチャクラの反応が弱く、リクハはすかさずオビトの肩に手を置いて治療を施す。

「ハクセンを異空間へ飛ばしたんですかっ?」
「察しがいいな…イタチ。…その通りだっ」
「あれだけの巨体を万華鏡の瞳術で…」
「それがオレの眼に宿った力だ…っ。それより、シスイッ」
「??」
「…悪いが、瞬身で…オレを里の外れの森まで運べるか?」

自分を先程の能力で移動させることもできるが、何せあの巨体を飛ばすだけでチャクラを消費しすぎたと申し訳なさそうに言ったオビトに、シスイは躊躇することなく「分かりました」と返事を返した。

『ちょ、ちょっと待って…!シスイもオビトさんもそんな状態じゃ危険すぎますっ』
「イタチはまだ戦えるな…」
「はい」
「お前の写輪眼がいる…リクハと後から来い…」
『オビトさん…!せめてもう少し回復してからっ』
「時間がない…」
『えっ?』
「ハクセンの自我が消える前に、呪印を封印する…」

肩に乗せられていたリクハの手をやんわりと離し、膝に手をつき立ち上がるオビト。傷口が開き赤い血がポタポタと垂れている。そんなオビトの腕を自分の肩に乗せて支えるシスイが、イタチとリクハを交互に見つめて「先に行ってる」と呟いた。

『ちょ、シスイッ、オビトさん…!』

シスイが瞬身でこの場から姿を消すと、リクハは表情をこれでもかと言うくらいに歪めて立ち上がり、愚痴をこぼす。

『全然話し聞いてないっ…!』
「お前だ。…冷静に行動しろ」
『う…』

先程シスイに止められた時の行動を指摘しているのだろう。真剣な表情のイタチから伝わってくる本気度にリクハはバツが悪そうに視線をそらした。

「頼むから、オレの目の届かない所では…無茶をするなよ」
『…イタチ…』

一瞬だけ瞳を伏せ、不安な感情をあらわにしたイタチ。自分の身を案じてくれているのだと理解できると、リクハはイタチの手を取り『約束する』と曇りのない真っ直ぐな瞳でそう言った。



「(オビトが上手くやったか…後は…)」

火影室から戦いを見つめていたフガクは、ハクセンが消えたことにしばし目を閉じて軽く呼吸を整えた。窓の外に視線を注いでいたヒルゼンからは深いため息が聞こえて来て、何を言いたいのか容易に想像がついた。

「オビトの力で白孔雀を里外に飛ばし、カカシとうちはの封印班で呪印を封印…。後にリクハとアレを口寄せ契約させる…か」

フガク本人の口から聞かされた考えに、ヒルゼンは複雑な感情を抱き表情を歪めた。彼がここへ来た理由は、ハクセンとの戦いをリクハたちだけに任せて欲しいというものだった。最終的な目的はリクハとハクセンの口寄せ契約を結ぶことにあるが、それを確実なものにしたかったからこそ少数精鋭での作戦遂行をヒルゼンに申し入れたのだ。
しかし最終的な目的以上に、この結果がもたらす未来への影響の方をどうやらフガクは見据えているらしく…そこまで詳しく語ることはなかったが何かあるのは確かだと確信を持つことができた。

「あの子には、ハクセンとの契約が必要です」
「それがリクハのためになると?」
「ええ。必ず…」
「…確かに神手を受け継ぐ者は代々アレと契約する決まりにはなっているが…」

そう言いヒルゼンが言葉を詰まらせた時だった。

「フガク隊長!我々もそろそろ向かいましょう!」

火影室の扉をノックする音が響いた後、フガクと共にここへ来ていた警務部隊の男の急かすような声が聞こえてきたのは。「分かっている」と腕を組んだまま難しい表情で返事を返したフガクに、ヒルゼンは険しい顔つきで口を開いた。

「フガク。お前の考えは理解するが、作戦としてはあの子らの命を危険に晒しすぎているっ。すぐに現地へ向かい援護せよっ」
「三代目っ…」
「聴取は事が済んでからわしが直々にする。今は行け!」
「感謝しますっ」

疑問に思うところは山ほどあるが、今はまずリクハたちの身の安全が最優先。フガクが直々に現地へ赴くというのならこれ以上余計なことを言って時間を無駄にするのは野暮だと考え、ヒルゼンはフガクに背を向けた。

「…うちはと仙波…数奇な運命の一族よ」



(いつの世も必ず手を取り合ってきた)


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