ーズドォオォオンッ!!!

空間が渦を巻くようにして歪み出し、中から吐き出された白い巨体が何十本という木々をなぎ倒しながら地面へと叩きつけられた。少し離れた場所に待機していたカカシは目の前に広がる光景を至って冷静に見つめ、瞬身でシスイと共に姿を見せたオビトたちのもとへ移動し二人の体を支えた。

「シスイ、オビトッ…大丈夫か?」
「………ああ…なんとかな…」
「カカシさん…」

ハクセンから距離のある安全な場所へ二人を運び、木の幹にそっと寄りかからせるようにして体を下ろしたカカシ。無理をしてよろよろと立ち上がったシスイに「休んでろ」と静止をかけ、オビトに視線を向ける。まだ傷の癒えていない体でだいぶ無茶をさせてしまったことに申し訳なさを感じながら、かろうじて意識があることに安堵した。

「上手く…いったな……」
「ああ。無理させてすまない」
「…気にするな、このくらい……う"っ…」
「喋るなオビト。今医療班が向かってる」

オビトの肩にそっと手を置いて穏やかな口調でそう言ったカカシ。シスイもそうだがうちはの人間がここまで疲弊している姿をあまり見たことがなく、ハクセンは口寄せ動物に過ぎないというのにまるで九尾の再来を思い出させた。あの時はあまりにも犠牲者が多過ぎたが、今回はまだ負傷者だけで済んでいる。比べてしまえば天と地の差ではあるが、この状況を長引かせるわけにはいかない。そう思った瞬間…っ。

ーブオッ!!!

「っ!?」

突然背後から吹き荒れた凄まじい風に視線を向けると、そこには両翼を羽ばたかせて宙に浮いているハクセンの姿が確認できた。その体には再びドス黒い闇を纏っている。

「呪印は消えてなかったかっ…!」
「シスイ、オビトを頼むっ」
「…オレも行きますっ」
「その体じゃ無理だ。チャクラを消費し過ぎてる」

カカシの最もな意見に両手を強く握りしめ悔しさをあらわにするシスイ。責任感の強い分、いざという場面で力になれない自分に強い憤りを感じているのだろう。

「シスイ、気持ちは分かるが今はここに居てくれ」
「……」
「お前が傷つくとリクハが悲しむ」
「……」
「ここからは交代だ。オビトを頼んだぞ」
「カカシさんっ!」

地面を蹴り上げて木の枝に飛び移ったカカシ。すぐに見えなくなってしまったその姿に、シスイの制止する声だけが虚しく響き渡った。



『声が、聞こえたっ?』
「ああ。確かに聞こえた」

再びハクセンが起き上がり影をまとっている姿を確認したイタチとリクハは、建物から建物に飛び移りやっと里の外にある森の中へと足を踏み入れた所だった。ハクセンの元へ向かう最中、イタチが先ほどの戦闘中に聞いた声のことを打ち明けるとリクハは驚いた表情を浮かべていた。

『それ、もしかして女性の声じゃなかった?』
「…まさかお前にも聞こえたのか?」
『うん。…"傷つけたくない"って、苦しんでるような声だった』
「…あれは、ハクセンの声なのか?」
『私も小さい頃に一度見せてもらっただけだから確証はないけど…多分そうだと思う。イタチはなんて聞こえたの?』

木の枝から枝に飛び移りながら、隣にいるイタチに視線を向ける。少し考えるような間を置いてから、イタチは前を向いたまま口を開いた。

「オレの名を呼んでいた」
『え…?イタチの名前を?』
「ああ。オレのことを知っている風だったな」
『…イタチはハクセンに会ったことないよね?』
「ないな」

思い出せる限りの幼い記憶を辿っても、ハクセンとは一度たりとも面識がないし、ハスナからその手の話を聞いたこともされたこともないのが明確になるだけだった。

『もしかしたら、母さんが…何か話してたのかもしれない』
「ハスナさんが?」
『うん。母さん、イタチのことずっと家族みたいに思ってたから』
「………」
『他愛もない話とか、それで知ってたのかも…』

思いつく答えはそれくらい。リクハはなぜ自分とイタチにだけ声が聞こえたのだろうと不思議に思いながらも、今はその思考を止めて近づいていくチャクラの高まりに意識を向けた。それはイタチも同じだったようで、「こっちだ」と手を引かれた際に重なった瞳が紅に染まっていた。

『…!カカシさんの気配がするっ』
「その他にも数人居るな…暗部か?」

リクハの手を握りしめたまま高い木の枝から入り組んでいる一段低い木の枝に飛び降りると、そこには想定していた通りの人物が立っていた。

「来たか、お前たち」

少しだけ顔を振り向かせ、二人の姿を確認したカカシ。すぐに前方にいるハクセンへと視線を戻すと、表情を変えることなく腕を組んだ。

『なんでカカシさんがっ?』
「こうなった責任はオレにもあるからな」
『それはっ…』
「いいんだよリクハ」
『…っ』

カカシのせいじゃないと言おうとしたが、すぐに言葉を遮られてしまった。

「ま、可愛い弟子のことも心配だったし?」
『…またそうやって…』
「本心だってば」

いつの気の抜けた様子で誤魔化そうとするカカシに、リクハが小さくため息をついた。

「カカシさん、何か作戦があるんですか?」
「………あるよ」

わざとらしくイタチの前でリクハをからかうように会話をすると、繋いでいた手をギュッと握りしめたイタチが表情を若干歪めてカカシを見据えた。カカシは振り返ることなく背中でその視線を受け止めながら短く返事を返した。

「この作戦は、お前の父親であるフガクさんからの指示だ」
「…!!父さんのっ…?」
『どうゆうことですかっ?』

感情をあまり表に出さないイタチもこの時ばかりは違ったようで、フガクの名を聞き目を見開いて驚いている。

「詳しいことは後で説明する。今は時間がないからな」
『…時間がないって?』
「呪印のせいで、ハクセンの自我が消えかかってる。早いところ封印して、本来の姿に戻してやらないと取り返しがつかなくなる」
「(あの時の声は…まだ自我を保っていたということか)」
「オレとイタチとリクハで陽動をかけ、隙を作る。オレの合図で待機中の封印班に呪印だけを封印させる段取りだ。そして…」

カカシがゆっくりと振り向き、不安そうな表情を浮かべているリクハを見下ろす。

「呪印が封印されたタイミングで、リクハはハクセンと口寄せ契約を交わせ」
『…!』



(守るために、戦う)


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