『ハクセンと契約をっ?』
「そうだ。…じゃあ行くぞ」
『え、ちょっと待ってカカシさんっ』

カカシに向けて伸ばされた手は虚しく空を切り、行き場をなくす。カカシが木々の隙間から姿を見せたことでハクセンの動きが変わり、尾羽が光り始める。

『大丈夫かな…上手くいくかどうかっ…』
「リクハ」

不安そうな顔色を浮かべたリクハの肩に手を置いて視線を合わせるイタチ。口寄せよりも難易度の高い術をいくつも習得しているリクハの不安の原因は、過去に何度かハクセンとの契約に失敗しているからだろう。
もとよりハクセンという口寄せ動物は特別で、仙波一族の神手を受け継いだ人間にだけ契約が許されてきた。医療忍術に特化したハクセンの力の恩恵を受けることができるこの契約には膨大なチャクラを差し出す必要があり、綱手の百豪のように今まで蓄積してきたチャクラを用いても上手くいかなかったのだ。

「心配するな。今のお前ならやれるさ」
『…イタチ』
「前回ハクセンとの口寄せ契約を試したのは2年も前だ。神手を扱える今のリクハなら大丈夫だ」

紅く染まった瞳が細められ、「大丈夫」と弱気になりかけていた自分の背中を押してくれるイタチ。その優しさがこんな状況で尻込みしている場合じゃないと気持ちを切り替えさせてくれて、リクハはイタチの腕に両手を重ねると力強く頷き感謝の言葉を口にした。

「行くぞ」
『うんっ』

カカシの後を追うようにして木々の陰から姿を現したイタチとリクハ。ハクセンがその姿を捉えると甲高い鳴き声を上げてカカシからリクハへと標的を移した。
両翼を広げて勢いよく突っ込んでくるハクセンを別の木の枝を蹴り上げかわす二人。素早い動きで背後に回り込んだイタチがクナイを構え放つと、全て扇状に開いた尾羽にガードされる。ハクセンが背後に気を取られているほんの僅かな隙に今度は頭上から降りて来たカカシが雷を纏った右手を片翼に突き出した。

「雷切っ!!」

空気を二つに裂いたかのような凄まじい音が轟き、ハクセンの肩翼を貫いたカカシの右手。体を伝う激しい痛みに体をくねらせ空中でバランスを崩しながらも、カカシを払い除けようと尾羽が襲いかかってきた。その動きはまるで無数の蛇が獲物に向かっていく様で、カカシがギリギリのところでそれをかわすと大木に大きな穴が空いた。

「すぐに回復するぞ!次々にしかけろっ!」
「リクハ!」
『うん!』

ハクセンの自己治癒力を危惧したカカシの急がすような声が響く。が、言われずともそれを汲み取っている優秀な部下と弟子はカカシの思い通りの…いや、それ以上に速い動きで攻撃を仕掛けていく。
里の中で戦っていた時よりも庇うものが極端に減ったため、自分たちの動きに抑制をかける必要がなくなった分戦い易くはあった。
イタチの声に一瞬だけ視線を向ける。
結ぼうとしている印からどんな術を仕掛けようとしているのかを察知して地面を滑るようにして着地した二人。リクハがチャクラの集約した両手を勢い良くハクセンに向かって下から上へ振りかざした、次の瞬間…!

『「風神炎舞の術!」』

ズオッ!!!

イタチとリクハの声が重なり炎を纏った大きな二本の風の刃が現れる。刃が十字に重なり正面からハクセンの体を斬り込んでいくと、その巨体が地面へと押しやられてメラメラと影と炎がぶつかり合った。
幼い頃から一緒に修行をしているうちに編み出したお互いの性質を活かした攻撃に、カカシは「やるな」と称賛の言葉を口にする。
過去の大戦の中にあっても、仙波の風遁はうちはの火遁をより強力な術へと押し上げてきた。長い歴史の中で互いに手を取り合い続けてきた両族の関係性がいかに深いものかを、イタチとリクハを見ていると改めさせられた。

「封印班!準備しろっ!」

カカシの合図に身を潜めていた封印班が姿を見せる。二人もすぐ様カカシのもとへと身を移し、燃え上がる炎に苦しむハクセンを眼下に見つめた。

『(ハクセン…ごめんねっ…)』

母の形見であるハクセンが傷ついていく様に唇を噛みしめ表情を歪めるリクハ。共に戦ってくれている仲間に不要な感情を抱かせまいと言葉にはしなかったが、カカシとイタチはその思いに気づいていた。

「イタチ、写輪眼でハクセンに幻術をかけろ」
「分かりました」
『援護するよ』
「いや、リクハは契約の準備にかかれ。イタチの援護はオレがやる」

肩に手を置き諭すような口調でそう言ったカカシに、リクハは力強く頷いた。そして一瞬でこの場から姿を消した二人を見届けリクハは胸の前で祈るように両手を合わせ、神手を発動させた。


りたいものがあるから
(いつだって強くいられる)


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