リクハの両腕が肘の辺りまで白く輝く。
まるで純白のレースを身につけているかのように。
前回契約に失敗してから二年あまりの時間が流れ成長はしているが、成功するとは言い切れない。リクハは目を閉じて、チャクラを両手に集約していくことだけに意識を集中させた。
『必ず成功させるんだ…』
静かに呟かれた覚悟の現れを聞いているものは誰もいない。この場にいて伝わってくるのは、ピリピリした痺れるような空気と、自身の中に芽生えた緊張。そしてカカシがイタチに指示を出す声だ。
消えた炎はハクセンの体に十字型の傷痕を残した。
煙に混じって禍々しい黒い影がまだ蠢いている。
それと同時に傷を癒そうとするチャクラの流れが生じ、再生させまいとカカシは「封」と書かれた紙が括り付けられたクナイを取り出し、頭上からハクセンの体に向かって投げつけた。
「動きを一瞬封じる!イタチッ!」
「はいっ」
ハクセンの体に刺さったクナイ。封という文字を中心に、円形状に術式がズズッと浮かび上がる。すかさずイタチが一気にハクセンの眼前まで移動すると、ギョロギョロと動き回る瞳を写輪眼で見つめた。
ードクンッ…!!
ハクセンの体が大きく脈打ち、鋭い眼光を宿していた目から光が消えていく。
虚気にイタチの姿を移す。
完全に幻術に堕ちたことを確認したカカシは、封印班に合図を送った。
「ハクセンは一度、お前の幻術を解いていたな」
隣に降り立ったカカシが、イタチに声をかける。
「あれはハスナさんの仕込んでおいた幻術対策だった」
「なぜそう思う?」
まるで自分は答えを知っているが、あえてイタチが分析したプロセスを話してみろと言っているような問いかけだった。暗部の部下としての能力を試されているのか、読めないカカシの考え。しかしイタチは特段気に止めず、いつものように冷静な口調で話を続けた。
「リクハが契約していた孔雀はハクセンの分身体だと、ハスナさんから聞いたことがあります。幻術に堕ちたタイミングで分身体を口寄せする仕掛けを組み込み、再びハクセンの中に戻してチャクラを流す。あの孔雀にはリクハのチャクラが蓄積されていますから、幻術を解くことは可能です」
リクハの意に反して口寄せの術が発動したのは、そうなった時に孔雀を強制的に口寄せできる術式が孔雀の方に組み込まれていたから。
そう淡々と説明したイタチに、カカシは腕を組み満足そうに目を閉じた。
「よく分析してる。その通りだ」
「……」
褒め言葉として送った言葉をイタチがどうとも思っていないことはすぐに分かったが、この冷静な分析力はやはり特異的であると感じずにはいられなかった。
「よし!封印するぞ!」
準備を整えた封印班の男たちが、ハクセンを囲むようにして四方の位置に立つ。白紙の巻物を足元に広げ終わると、カカシはイタチにハクセンから離れるよう指示を出し、距離を取る。一人の男の合図を皮切りに、封印班全員が声を揃えて印を結んだ。
「これでハクセンはリクハと口寄せ契約を結べる」
ずるずると巻物の中に吸い込まれていく黒い影を見つめながら、カカシはどこか安堵しているような目をしていた。リクハの師という立場からしても、ハクセンとの契約は今後クリアしなければならない課題の一つだった。しかしまだ成功すると決まったわけでもないのに、カカシは何故か自信に満ちた目をしている。
『カカシさん、イタチ』
ふわりと微風が吹き、頃合いを見計らったリクハが姿を見せた。二人の背後に降り立ち目の前の光景を見つめると、少しばかり不安そうな表情を浮かべる。呪印の封印はもう少しで完了するといったところだ。
「リクハ、準備はいいか?」
『はいっ』
カカシの問いかけに力強く頷いたリクハ。
大きな空色の瞳からは強い覚悟が伝わってくる。
半人前で世話の焼ける弟子ではあるが、今は少し頼もしく思えた。弟子が期待以上の成長を見せてくれる師弟関係というものに、なんとも言えない嬉しさを感じる。
「間もなく封印が完了します!」
「よし、リクハ」
封印班の男の声にカカシが片手を上げて合図を送る。リクハに視線を向けて"お前ならやれる"と訴えかけると、『はい!』と力強い返事が返ってきた。
チャクラは数年で十分に蓄積してきた。
今ならやれる。
そう強く自分に暗示をかけ、リクハがハクセンに歩み寄った。
「よし、封印!!!」
「リクハ!今だ!」
『はいっ!…口寄せの術っ!』
印を結びハクセンの体に白く輝く両手を重ねる。
術式が瞬く間に円を描くように広がり、リクハの両手から大量のチャクラがハクセンへと流れ込んでいく。
『っ…!!』
その直後、チャクラの四分の二を一瞬で吸い上げられ、体を重力で押さえつけられているような負荷がリクハを襲った。それでもまだ足りないと言わんばかりにチャクラがハクセンの中へと流れ込んでいく。このままのペースで流出が続けば、あっという間にチャクラが底をつく。
目を閉じて、歯を食いしばり意識を集中させる。
ここで絶対に諦めては駄目だと両腕に力を込めた、その刹那ーー。
「リクハ!!」
『!!??』
ードシュッ!!
イタチの声が聞こえたのと、体が地面に倒れたのはほぼ同時だった。背中に伝わってきた冷たい土の感触と、血の匂い。そして体を抱き留められている感覚にリクハが目を開けると、眉間にシワを寄せて痛みに耐える表情を浮かべたイタチが視界に映り込んだ。
君を呼ぶあの声
(もうとっくに、届いてる)
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