説明しろと言われても難しいが、適当な言葉を使うのだとしたら「なんか嫌だった」それに尽きる。

「サスケ、どうしてあんな態度を?」
「……別に。知らない人だったし」
「オレの同期で、彼女はうちはの人間だと言ったろ?」
「だからって仲良くする必要はないよ」
「そうゆう問題じゃない。態度の問題だ」

あの後突然サスケが走り出したものだから、愕然としているイズミに「すまない」と謝罪をし後を追った。今度会ったときには頭を下げて謝罪をする必要があるな、なんて考えながらサスケの細い腕を掴み静止させた。赤子の頃からそばに居たシスイやリクハとはまた感覚が違ったのだろうか、目の前で不貞腐れたような表情を浮かべている弟の腕を離しイタチは再び歩き出した。イタチは怒るでもなく、諭すでもなく、呆れている様にも見えなかった。どちらかと言うとこの件に関しては無関心なようで、サスケは再びイタチと並んで歩き出した。

「ごめん兄さん。…オレ」
「リクハなら」
「…え?」
「リクハなら、お前を叱ってた」

そう言ったイタチは小さく微笑み、自分よりも頭二個分は背の低い弟の頭を撫でた。「今度から気をつけろ」と注意を促し、それ以上は何も伝えることをせずまた黙ってしまう。口数が多い方ではない上に、イタチが何を考えているのかイマイチよく分からなかった。

「ねえ、兄さん」
「なんだ」
「大事な用って、なに?」

話を逸らす様な弟の問いかけに、イタチは小さな溜息を吐いた。



「状態は安定してるが、チャクラが回復しないことにはな」
「ええ」
「しばらくここに居るのか?」
「はい。イタチが来るまでは」
「そうか。毎日ありがとな。同胞は幸せ者だよ」

リクハが眠るベッドの脇にある椅子に腰を下ろし、シスイは仙波一族である医療忍者のジュウジに柔らかい笑みを向けた。
彼は大柄な体格に小麦色の健康的な肌をしていて、リクハと同じ空色短髪の白衣があまり似合っていない気さくな男だ。今回の事件では、リンの治療や怪我人の救護に尽力した。

「リクハはオレの妹みたいなもんです」

ジュウジからリクハに視線を移したシスイの表情は、目の前にある現実を考えると実に穏やかなものだった。内心はいつ目を覚ますか分からない妹同然のリクハを心底心配しているに違いない。
ジュウジはそんな優しい心を持つシスイの励ましになればと肩に手を置き、「必ず目を覚ます」と言いながら人の良さそうな笑顔を浮かべた。

「神手のチャクラは特殊なんだ。回復に時間がかかる」
「はい」
「オレは仕事に戻るが、何かあったら言ってくれ」
「分かりました、ありがとうございます」
「おう。じゃあな」

乗せていた手でシスイの肩を数回叩き、病室を後にしたジュウジ。と同時にやって来た静けさに、シスイは小さく溜息を吐きリクハの右手を握りしめた。

「…イタチが待ってるぞ、リクハ」

ここ数日若干心ここにあらず…といった様子の親友を思い、シスイはもう一度リクハの手をギュッと握りしめた。



一方その頃。
木ノ葉病院の入り口の前までやって来たイタチは、一通りの説明を終えて涙ぐむ弟を前に、少しだけ困った様な表情を浮かべていた。

「サスケ、何も死んだわけじゃない」
「……」
「チャクラの回復には時間がかかるんだ。だから…」
「オレだけ知らなかったの?」
「…まあ、そうなるが…。みんな故意で隠してたわけじゃない」
「そんなのズルイよ!…姉さんのことなのにっ」

ずっと地面を見つめていた視線を上げたサスケは、両手を力強く握りしめながらキッ!とイタチを睨みつけた。大きな漆黒の瞳には涙が薄らと溜まっていて、サスケの幼さを理由にリクハのことを隠していた自分や大人たちに嫌気がさすような感じがした。

「姉さんは、さっきの人とはちがうんだっ」
「サスケ…」
「任務や大人の人たちとの難しい話は知れなくても仕方がないけど…リクハ姉さんのことまで隠さないでよっ」
「………」
「兄さんだけが大切におもってるんじゃないんだから!」
「!」

目を固くつむり悔しいやら、悲しいやら、自分でもうまく処理できない複雑な感情がそのまま言葉となって口から出て行った。サスケの言葉に若干目を見開いたイタチを置いて、一人病院の入り口へ向かって走り出す。その姿はすぐに確認できなくなった。
兄の大事な用はこれだったのかと理解はできたが、自分だけがこの事実を知らされていなかったことに腹が立った。いつになったら子供扱いをやめてくれるのだろう。そんな憤りを感じながら、受付で聞いた病室の番号を頼りに、サスケは廊下を駆け抜けた。

「ん?」

途中で何人かの看護婦たちに「廊下を走るな!」と怒られたが、彼女たちの声が今のサスケに届くわけもない。階段を駆け上がり、息を切らしたサスケが目当ての病室までやって来ると、先客のシスイは椅子から立ち上がり入り口の方へと体を向けた。開け放たれたドアの前、一歩踏み出せば病室へ入ることができる場所でサスケが佇んでいるのが確認できた。

「サスケに話したのか?」
「え…」
「ああ。ついさっきな」
「そうか」
「!兄さんっ」

気づかないうちに背後にイタチが立っていた。自分の方が早かったのに、ほぼ同じタイミングでやって来た兄は、躊躇せずに病室の中へと歩みを進めた。

「安定しているそうだ」
「…後は回復を待つだけか」
「そうなるな。…イタチ、サスケにはなんて?」
「……」

中に入ってこないサスケに一瞬視線を向けたシスイが、隣にやって来たイタチに耳打ちで問いかける。いつもと変わらない無表情を浮かべているイタチはリクハに視線を向けたまま、「ありのままを話した」とそう言った。
二人の様子からすると何かあったと推測ができる。シスイは弟の扱いがイマイチ上手くない生真面目な親友に苦笑いを浮かべると、どうしたらいいのか分からないでいるサスケに向かって手招きをした。

「サスケ」
「……」
「こっち来いよ。見舞いに来てくれたんだろ?」

イタチとは違う気さくな対応に、サスケは不安そうな表情を浮かべながら恐る恐るといった感じで病室の中へと足を踏み入れた。その様子に穏やかな笑みを浮かべたシスイが、近づいて来たサスケの背中に手を回しベッドの脇へと誘う。すると何かに耐え切れたくなったのか、幼いサスケの小さな両手がリクハの右手をギュッと握りしめた。

「リクハ姉さん…」
「今は疲れて眠ってるだけだ。その内目を覚ます」
「ホントッ?シスイさん」
「ああ。お前の兄さんはそう言わなかったか?」
「…言ってたけど…」
「なら信じろ」

ニッとサスケを安心させる様な人懐っこい笑みを浮かべたシスイに、サスケは小さく頷いた。

「兄さん、さっきは…ごめん」
「お前が悪いんじゃない。謝るな」
「でも…」
「もっと早く伝えるべきだったよ。すまなかった」
「……」

サスケの肩に手を置き優しく微笑んだイタチを見て、シスイは目を細め同じ表情を浮かべた。


大切な
(僕にも、君にも、お前にとっても)


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