日焼けをしていない白い肌には幼馴染の髪色がとても映える。閉じられた瞼から伸びる長い睫毛が影をつくり、目鼻立ちがはっきりしているからか眠っている姿でさえ綺麗だと感じた。
ベッドの縁に座り、穏やかな寝息を立てるリクハを見つめているイタチ。彼の長い漆黒の髪が窓から流れ込む風に揺れると、その光景がとても美しく見える。
そんな二人を見つめながらサスケは満足気な笑みを浮かべた。

「兄さん、オレ明日もアカデミーがあるから帰るよ」
「ああ、そんな時間か」

ベッドの脇にある椅子に座っていたサスケが立ち上がり、イタチが窓の外に視線を移せば、オレンジ色に染まった美しい空がある程度の時間の経過を教えてくれた。今日は自分の気が済むまでそばにいる事ができない、そう思い立ち上がろうとした瞬間。

「兄さんはここに居て」

弟のはっきりとした物言いが、イタチに疑問を生んだ。

「え?」
「いつ姉さんが目を覚ますか分からないでしょ?」
「いや、でも」
「そばに居てあげて。一人はかわいそうだよ」

そう言ってリクハの手を両手で包むと「早くまた一緒に修行しようよ」と語りかけ、確かに伝わってくる温もりを感じながら笑みを浮かべた。幼馴染が心配で、時折うわの空になってしまう自分なんかよりもきちんと状況を受け止め前を向いている幼い弟に、イタチは自嘲気味の苦笑いを浮かべシスイに視線を移した。

「サスケはオレが送ってくよ」
「すまない、シスイ」
「構わないさ。サスケの言う通りだからな」

自分よりも遥かに背の低いサスケの頭にポンと手を乗せ笑顔を浮かべるシスイ。その言葉にサスケは分かりきったことを言わせないでくれと言わんばかりの口調で、

「兄さんがリクハ姉さんのそばに居たいのくらい、オレにだって分かるよ!」
「…なっ」
「ぷっ…!」

イタチの頬を薄っすらと桜色に染めたのだった。



「サスケ、オレからも悪かったな」
「え?」
「リクハのことを話さなくて」
「ああ、それならもういいよ」
「怒ってないのか?」
「うん。兄さんやシスイさんのせいじゃないから」

病院から出た二人は兄弟のように並んで帰路に着く。
シスイと二人で歩くのは初めてことだった。
いつもはここに必ず、イタチかリクハが居るからだ。昔から当たり前のように自分の近くにいたシスイにはなんの警戒心も生まれず、むしろ里内でも有名なシスイと歩けることはサスケにとっては誇らしいことであった。

「イタチはお前を心配してたんだ」
「兄さんが?」
「ああ。リクハのことを話したら、酷く悲しむんじゃないかってな」

隣にいるシスイを見上げると、自分と同じ漆黒の眼と視線が重なる。穏やかで優しい眼をしていた。

「だから今日イタチがお前を連れて来て、正直驚いたんだ」
「どうして?」
「隠し通すと思ってた。お前を悲しませたくない一心でな」
「……」
「けどここ最近、お前と過ごす時間を作れないことに申し訳なさを感じてたみたいだな」
「…兄さんが?」
「アイツはそうゆう奴だよ。根は誰よりも優しい」

シスイは口数の少ないイタチの本心を読み取るのが上手い、前にリクハがそんなことを言っていたのを思い出していた。
第三者から説明されなければ絶対に気づくことが出来なかったであろうイタチの本心を知り、サスケは何故か嬉しくて可愛らしい笑みを浮かべる。

「実はオレ、嬉しかったんだ」
「怒ってたんじゃないのか?」
「最初はね。でも、兄さんの大事な用につき合えたことと、それが姉さんのことだったから。なんか嬉しかったんだ」

今のサスケと同い年の頃のイタチとまではいかないが、幼い割に物分かりがいいとシスイは穏やかな表情を浮かべた。サスケにとって大事なことは、一日でも早く兄の存在に追いつくこと。天才、秀才と呼ばれる兄が幼馴染ばかりを気にかけるなんて気に入らない、とならないのはリクハが兄と並ぶほどの忍であると理解し、尊敬しているからだろう。
サスケは先程のリクハとイタチの姿を思い出しながら、「やっぱり二人じゃなきゃダメなんだ」と小さく頷いた。と同時に浮かんだ、先程の少女の姿にハッとする。

「そうだシスイさん、あのさ…」
「どうした?」
「…うちはイズミって人、知ってる?」
「え?」

話の流れが大きく切り替わり、サスケの口からその名前が出てくるとは想像もしていなかったのだろう、シスイは一瞬のうちに笑顔を驚きの表情へと変化させた。
うちはイズミと言えばイタチとリクハの同級生にあたる女の子だ。同じうちは一族ということもあり、イタチの口からは数えられる程しか名前を聞いたことがなかったが、イタチがイズミに想いを寄せていると勘違いしているリクハからは幾度となくその存在を知らされていた。シスイ自身は実際に会ったことすら無い人物だが、何故サスケの口から彼女の名前が上がったのだろうと眉間にシワが浮かび上がった。

「どうしたんだ突然…」
「病院に行く途中で声をかけられたんだ」
「ああ、そうだったか。オレも詳しくはない。気になるのか?」
「別に。ただオレ…あの人にひどい事を…」
「酷いこと?」
「うん…」

若干肩を落としたサスケを見下ろし、シスイは首を傾げた。事の経緯を説明し終わる頃には、シスイはいつもの様に気さくな笑い声を上げて「お前らしい」とサスケの頭を撫でた。

「お前はイタチと違って素直だからな」
「本心で言ったんだ。だって、なんかイヤだったし…」

頬を小さく膨らませて、拗ねた様な口調でそう言ったサスケ。

「ハハッ。当ててやろうか?」
「なにを?」
「リクハじゃなきゃ嫌だって思ったんだろ」
「!」
「あの二人でないとって…違うか?」
「……だって…」

図星だ。サスケの表情を見てすぐに分かった。
イズミにとった態度は良くないものであったが、サスケがそう思ってしまうのは無理もないし、至極当然のことなのかもしれない。物心ついた頃からリクハはサスケのそばに居たし、大好きな兄が想いを寄せている相手なら尚更だろう。

「なあサスケ」

肩に置かれた手がサスケの歩みを止める。「なに?」と言いたげな瞳と視線を合わせるようにしてしゃがみ込んだシスイは、陽気な感じで片目を閉じ口を開いた。

「実はオレも同じ事を思ってる」
「え、ホント?シスイさんも?」
「ああ。二人には内緒だけどな」
「へへっ。そうなんだ」

クスクスと笑うサスケを見て穏やかな表情を浮かべるシスイ。まるで自分に賛同してくれているようで純粋に嬉しいと感じた。

「だがな、誰が誰を好きになるかは自由だ」
「…?」
「その子がもしイタチに気があるとしても、悪いことじゃない」
「それは…分かってるよ」
「女性とお年寄りには優しくしないとな」

そう言って立ち上がったシスイの言葉に大きく頷いたサスケは、気を取り直して話の話題を変え歩き出した。



(いつか届くと信じてる)


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