「お前、リクハのこと好きだろ?」
「…!?」
「はははは!分かりやすいなイタチッ」
「急に何を言い出すんだ…」
「そうかそうか、やっぱり……いや、待て…好きなのか?」
それは親友からの、あまりにも唐突な質問だった。
「おい…リクハに聞こえるだろ」
「聞き間違いじゃないよな?」
「…聞き間違いだ」
「オレは冗談で聞いたつもりだったんだが…」
そう言いシスイは隣に座る友人のイタチを見つめながらフリーズした。もちろん、その表情は驚きに満ち満ちている。理由は明白。ずっとそうなんでは…と思ってはいたが今日ついに核心をついてしまったからだ。イタチが幼馴染のリクハを好いている、と言うとんでもない核心を。
少し離れた、といっても目と鼻の先にある小川でイタチの弟であるサスケと遊んでいるリクハを視界に入れながら、なんとなくした質問。本当に、ボソリと呟く程度の軽さ。いつも冷静で落ち着いているイタチのことだから「バカを言うな」などと返され流されるのだろうと思っていが、その予想は大きく裏切られる結果になった。
持っていた飲み物を手から滑らせ、過剰なほどわかりやすい反応を見せたイタチ。冗談で聞いたつもりがまさか…本当に…。ここでシスイの追求心に火がついた。いつも冷静沈着でいる彼を、少しからかってやりたくなったのだ。
「イタチ…そうか…そうだよな。よし解った」
「おいシスイ…」
「お前は幼馴染のあいつを好いている。覚えておくよ」
「……………」
「正直かなり驚いてるんだオレは」
「それはオレのセリフだ…」
「だがおかげで、大事なことを知ることができた」
「…ならこの話はこれで終わりだ」
「いや、終わってないぞ。聞きたいことが山ほどある」
「…はぁ」
勘弁してくれと言わんばかりのため息に、シスイは笑顔を浮かべた。
「いいじゃないか、たまにはこうゆう話をしても」
「オレじゃなくて自分の話をしたらどうなんだ?」
「それではつまらん。お前とリクハだから面白いんだ」
「…どうゆう意味だ」
「そのままの意味だが?いいだろ?オレは聞きたいんだ」
こうなってしまったら自分が折れるしかないと踏んだのか、イタチは本当に渋々ながらにシスイの要求をのむことにした。小川で遊んでいるリクハとサスケを見つめながら。
そういえば…、いつからだろう。
あの幼馴染が恋愛対象になったのは…。
「いつから好きなんだ?アカデミーに入る前か?」
「…多分な」
「だとしたらお前、相当隠し事が上手いな…」
「好きだと言っても、子供が純粋に思うそれに近い」
「お前はリクハを妹みたいに思っているのかと」
「常にオレたちと張り合うあいつをか?」
「ハハッ。言われてみればそうだ」
アカデミーに入学してきた二人が、一気に飛び級して中忍合格。うちはのイタチはともかく、特別これといった力のあるわけでもないリクハの快挙はアカデミーの中でもすぐに有名になった。それこそ当時は、仙波リクハの奇跡なんて誰もが口にしたもんだ。確かにそんな勇ましい女を、妹として見ることはできないだろうな。そう言ったシスイの視線の先では、リクハとサスケが懸命に水面を覗いているところだった。
「ねえ、リクハねえさん」
『ん?』
「ねえさんはずっと、兄さんとはおさななじみなんだよね」
『うん。生まれた時からずっと一緒だって母さん言ってた』
「じゃあ、オレもねえさんとはおさななじみになるの?」
『ん〜。サスケはちょっと違うかな』
「じゃあオレはなに?」
互いに水面を見ていたが、先に視線を反らしたのはサスケの方だった。隣に居る、大好きなリクハを見つめて答えを待つ。長いまつ毛に白い肌。印象的なのは、空色の瞳と長い髪。子供ながらに思わされる。この人はかわいくて、綺麗な人で。
どこか特別なものを持っている人なんだと。だからちょっぴり、リクハと仲が良い自分に優越感を覚えてしまう。
『そうだなあ。サスケはねー』
「オレは?」
『友達なんだけど、弟って感じ』
「どっちかにしてよ。わかんなくなるだろ?」
『サスケはどっちがいい?』
「え…っと」
唐突な質問返しに言葉を詰まらせるサスケ。大きな瞳を泳がせながら懸命に答えを出そうとしているその様子に、リクハは『かわいいなー』と内心呟きながらサスケの頭を数回撫でる。ニコニコと優しい笑顔のリクハを上目づかいで見つめながら、サスケは自分の中に湧き上がる幸せだと思う気持ちに気づきつられるようにして実に可愛らしい笑顔を浮かべた。
「…オレ、決めた」
『どっちにした?』
「あのね。オレ」
『うん』
「ねえさんの"恋人"になるよ」
『……』
「へへっ」
無邪気でいたずらっぽい笑顔とその純粋すぎる発言に、リクハは感極まりながらサスケに向かって両手を広げ自分よりもさらに小さいその体をギュッと強く抱きしめた。
『なんでそんなに可愛いの!!』
「くすぐったいよ、ねえさん」
和やかな雰囲気で笑い合っている二人を少し距離のある所から見つめたまま、イタチはその光景に目を細めて微笑んでいる。そんなイタチを隣で盗み見ていたシスイは、「なるほどな」とどこか納得し、再びリクハとサスケの方に視線を向けた。
「悪くない、そう思ってるだろ」
「なんのことだ」
「とぼけるなよ。その幸せそうな顔を見れば分かるさ」
「………」
「あんなに温かく子供を包み込める母親なら、父親が不甲斐なくても安心できる」
「…不甲斐ない父親はオレか?」
「そうは言ってない。オレかもしれないぞ」
「そうか。じゃあ、相手がリクハじゃなきゃ祝ってやるよ」
君が母親なら悪くない、
確かにそう思った。
*前 次#
○Top