***
ー10年以上前…。
「センリさんを処刑する!?」
「ああ。ガチでは殺さへんけど一時的にハスナの力で仮死状態にする。そんでしばらくの間は身を隠してもらうことになったわ」
そう言ったアキトの言葉に、ムスビはこれでもかというくらいに目を丸くし驚愕した。
「ど、どうしてセンリさんをっ!?しかも君がっ」
「"例の計画"の為に決まってるやん」
「"例の計画"って…あの…?」
「そっ」
少し前に聞かされた、まだ見ぬ二人の赤子の話を思い出すムスビ。
「オレの可愛い娘の為にも、ジジイには生きてもらわなアカンのや」
「その話を信じないわけじゃないけど…でもだからって…」
「まあ最初は処刑までせんでもええかなと思っとったんやけど、いかんせん身内(木ノ葉の忍)の中でジジイの眼ぇを狙っとる奴らがいてな…。ちと面倒臭いねん」
勢いよく投げた石が、川の表面を数回跳ねてポチャンと音を立て沈む。100%現実化する未来を見据えるセンリの写輪眼。アキトが危惧している通り、その眼を欲する輩は多い。センリ自身も己の眼が争いの火種になるということは十分に理解していた。そして敵国や他里に狙われるというリスクから、彼は木ノ葉の忍であることすらも拒んでいるのだと、アキトからは聞かされていた。
「誰がセンリさんの眼を?」
「…………」
ムスビの問いかけに即答せず、少し間を置き足元に転がっている石を拾い上げてからアキトは口を開いた。
「上の連中」
「…えっ…?」
「…特に志村ダンゾウ。あのクソは目の上のコブやで」
「志村ダンゾウか…」
「なんでカガミさんがあんな奴庇ったか、オレには到底理解できん。オレなら見殺しにするわ」
「解るけど…発言気をつけなよアキト…」
「知るかそんなもん!」
アキトのいうあの人とは、うちはの中でも特に秀でていたうちはカガミのことだとすぐに分かった。まだ二人がアカデミー生だった頃、彼がガガミを尊敬していると言っていたのをムスビは覚えていたからだ。アキトがわずかな怒りを込め投げた石が、今度は真っ逆さまに水の中へ消えていく。ムスビは不安な表情を浮かべたまま親友を見つめ、そして静かな口調で問いかけた。
「で、どうやって…処刑を実行するの?」
「オレは頭ええから、もう仕込みは済んでる」
「…仕込み?」
「幸い、あの"平和ボケジジイ"は前線で戦ってなかった分同胞からもうちはの名折れや〜恥晒しや〜ゆうて忌み嫌われとる。死んでも誰も悲しまん。だから敵国に木ノ葉の情報流してたゆーテキトーなホラぶっこいて、裏切り者=処刑対象に仕立て上げた。ダンゾウと相談役のアホ二人はそりゃもー乗り気やったわ」
父親との関係があまり良好でないことを知っているムスビだが、こうも淡々と説明されてしまうとやはりうちはアキトは人間としての大切な感情の一部が欠落しているのだと改めさせられる。
「…それじゃあまるで戦争犯罪者じゃないか…」
「そんなんゆうたら、オレかてもう何人殺したか分からんわ」
アキトの着ている白く汚れのない羽織が、柔らかな風になびく。
「ジジイのこと知っとる忍はほとんど戦死しとるから、あとはうちはの上役と里の上忍、そして上層部連中にアイツは死んだと思わせたい。せやからそいつら集めて見せしめ処刑しようってことになってな。センリは実の息子の手に掛かって死んだ。そうゆうシナリオや」
くるりと振り返ったアキトの軽快な声色から発せられるには重すぎる内容だとムスビは両肘を抱えた。
「…残りの忍で、センリさんを知ってる人はどうするの?」
「全員オレの幻術に嵌める」
「全員っ?堅気にまで手を出す気っ?」
「堅気でジジイを知ってる奴なんて居らへんよ」
「そ、それでも結構な人数のはずじゃ…っ」
「いんや?あと一人だけや」
「えっ…!?」
長い人差し指を顔の横で突き立てながら、にっこりと綺麗な笑顔を浮かべたアキト。ムスビは冷や汗を垂らしながら、何人居たかは定かでは無い人数の忍をすでに全員幻術に嵌め終えているというアキトの鬼才っぷりに顔を引き攣らせ驚愕した。
「そ、その一人って…?」
「お前」
「…………」
突き立てた指を耳の穴に入れて「いや〜迷ったんよ〜?」と呑気に耳掃除を始めたアキトにもはや言葉が出なかった。
「ハスナと話し合って決めたんやけどさ」
「…………」
「やっぱ例外無しっちゅーことで」
「…………」
「お前の記憶も書き換えさせてもらうで」
「…ちょっ、ちょっと待ってよアキト!」
「センリのことだけや。生活には支障でん」
「い、いやいやっ。僕の口の硬さはよく知ってるだろ!?」
「上から目ぇつけられた時の保証や!お前ごっつ弱いし」
「………アキト…」
知らぬ存ぜぬの方が良いこともある!と人差し指に付いたゴミを弾き飛ばし、涙目で自分を見つめてくるムスビと向き合う。特に悪いと感じることもなく、アキトはいつも通り…少しばかり人を蔑んだような笑みを浮かべた。
「それと、計画のことも漏れんよう時期が来るまで記憶から消させてもらうわ。時が来たらオレが幻術を解く。そしたらお前はお前の役割を果たせ」
「…今回はいつにも増して身勝手に拍車がかかったね…」
「当たり前や。オレの娘の命守らなあかんのやから!」
「…はぁ…」
「それに、親友のお前にしか頼まれへんねん」
漆黒から紅に変わった瞳…写輪眼から万華鏡へと形を変えたアキトの瞳が、ムスビの漆黒を真っ直ぐ見つめた。
「じゃあ、その子が生まれたらアキトより先に抱っこさせてよね」
「嫌や!図々しいこと抜かすな!」
「すごい勝手…!」
「もういいよ…早く済ませてくれ」と肩をガクッと落とした物わかりの良すぎるムスビを視界に収めながら、アキトは少しばかり申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうな。…親友」
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