いつ見ても綺麗で、艶やかな空色の長い髪。
触れたらきっと、絹糸のように柔らかいのだろう。

「姉さん」
『ん?どうしたのサスケ』

今日はそんな美しい空に、可憐な花が咲いている。
夕陽の光を受けてキラリと輝くそれは、持ち主の愛らしい笑顔にとてもよく似合う『白い胡蝶蘭』の髪留めだ。数日前に会った時は確か、別の花の髪留めを付けていたことを思い出す。自分が姉と慕うリクハなら、きっと何を付けても似合うだろう。そう思いながらサスケは繋いでいる手をギュッと握り満足気な笑顔を浮かべた。

「その髪留め、兄さんからもらった物でしょ?」
『え?…ああ、うん。そうだよ』
「この間つけてた、別の髪留めも?」
『うん。あれもイタチから貰ったの』

柔らかな笑みを浮かべて、耳元に付けている髪留めに触れたリクハ。以前付けていた物も兄からの贈り物だと分かると、サスケは「やっぱりね!」と誇らし気に胸を張った。

「姉さんがそんなキレイな髪留めえらべるはずないもん」
『(ガーンッ)…そ、そんなことないと思うけどなあ』

自分の冗談を間に受け肩を落としたリクハが可笑しくて、ケラケラと無邪気な笑いをこぼしたサスケ。見た目だけが美しい物ならば、誰だって簡単に選ぶことができる。けれど、リクハというたった一人の存在に似合う何かを見つけることは、きっと兄さんにしかできないんだと幼い心が呟いた。

「いつもそうやってつけてればいいのに」
『そう?似合う?』
「兄さんが選んだんだ、当然だよ」
『フフッ。確かにそうね。でも…』
「でも?」
『失くすといけないから、任務のない日だけ付けてるの』

兄からの贈り物を大切にしているのだと分かる言葉に、心の底から嬉しさを感じる。

「この間つけていたのはなんの花?」
『確か、ユキノシタって名前の花だったかな』
「聞いたことないけど、それもキレイだったね」
『うん。毎年すごく綺麗な髪留めを贈ってくれるの』
「毎年?」
『毎年。私の誕生日のお祝いにって』

イタチは優しいよね。と微笑んだリクハの笑顔が髪飾りの美しさをより一層引き立たせ、輝かせる。寡黙なイタチが幼馴染であるリクハにだけ見せる意外な一面に、やはり兄にとっての特別な人なのだと改めさせられサスケは少しばかり目を丸くしてから幸せそうにはにかんだ。

「他にはどんな花があるの?」
『百合とか向日葵。それに、牡丹にツキミソウとか』
「へぇ〜っ。今度オレにも見せてよっ」
『じゃあどれが一番似合うかサスケに選んでもらおうかな』
「うんっ!いいよっ」

花の種類など分からないし興味もない。
だが、兄が選んだ物なら別だ。
弟である自分の知らない一面を知れるのならと、サスケはリクハの提案に大きく頷いて見せた。

「花ってさ、それぞれに意味があるでしょ?」
『花言葉のこと?』
「そう!姉さんはそれ、調べたことある?」
『…貰った髪留めの?』
「あの兄さんがなにも考えずに選ぶとは思えないよ」

今まで気にも留めていなかったことを、幼いサスケが気付かせてくれた。毎回髪留めを受け取るたびに嬉しいという気持ちが先行してしまっていたのと、イタチがそこまで考え選んでいるとは思っていなかったから、今の今まで花言葉を調べようとは思わなかった。

『そ、そうかな?そう思う?』
「そうだよ!ちゃんと意味がある物をわたしてるはずさ」

自分の言っていることの方が正しい!と言わんばかりに詰め寄って、リクハの手を引っ張る。これは否定したらますます怒られそうだと苦笑いを浮かべながら、今日帰ったら調べてみるねと約束をした。



「ただいまーっ」

家に帰ると、兄がいた。
イタチが任務を受けるようになってから、すれ違いの生活が多くなった。優秀な兄が『暗部』に入ってからはなおさらだ。幼いサスケには、それがどうゆう場所かは分からない。仕方がないとは思いつつも、昔のような頻度で相手をしてもらえないのはやはり寂しい。だからこうして顔を合わせることができた日には、普段の分まで自分の話を聞いてほしいと幼い心が顔を出すのだ。

「兄さんっ!」

弾んだ声が、イタチを呼ぶ。

「サスケ。帰ってきたのか」
「うんっ。今日は手裏剣術の練習してたんだよっ」

梅雨明けの生温かい風が吹き抜ける縁側で、大人でも理解に苦しむであろう分厚い本を読んでいたイタチ。笑顔で自分の隣に座った幼い弟に視線を移し、頭を撫でながら「お帰り」と微笑んだ。いつもと変わらない兄の姿に、どこか安堵する。

「帰り道にね、リクハ姉さんに会ったんだ」
「リクハに?」
「修行の話をしたら、すごいねってほめてくれた」

小さな胸をわずかに張り、自信たっぷりに修行の話をし始めたサスケに笑みを浮かべずにはいられなかった。帰り道に会ったというリクハにも、きっと同じ話をしたのだろう。上手くまとめられた話しが終わる頃には、自然と「頑張ったな」と弟の努力を認める言葉を口にしていた。
サスケの姿は、かつての自分を思い出させる。性格は似ても似つかないが、ひたむきに修行し努力を重ね、誰よりも強い忍になりたいと純粋な夢を追いかけていた頃の自分と。

「それとね、兄さっ…」
「イタチ、ちょっといいかしら」
「?」
「これ、リクハちゃんに持って行ってくれない?」

サスケの言葉を遮るようにして台所からやってきた母ミコトは、なにかが入った紙袋をイタチの返事を聞く前に手渡し「サスケを送ってくれたみたいなんだけど、あの子寄っていかなかったから…」と頬に右手を添えた。どうやら袋の中身は多めに作った夕食らしい。まだ近くにいるかもとイタチを急がせると、分かったからと宥められた。

「兄さん待って」
「ん?」

玄関に移動した兄を追いかけ、服の裾を引っ張り待ったをかける。

「今日姉さんね、兄さんがあげたキレイな髪留めつけてた」
「え…」
「大切だから、任務の時はつけないんだって」

引き止めてまでなにを言い出すのかと思ったが、予想だにしていなかった内容にイタチの目が微かに見開かれる。

「すごく似合ってた」

笑顔でそういったサスケがイタチから手を離し、いってらっしゃいと笑顔を浮かべた。




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