「リクハ、来て」
『んっ?なに?』
リクハの誕生日に髪留めを贈るようになったのは、ある小さな出来事がきっかけだった。
「はい。あげる」
『うわ〜っ…』
それは幼い頃、二人で集落の近くにある森の中を散策していた時のことだった。たまたま見つけたシロツメクサの花畑。可愛らしい花よりも使えそうな薬草はないかと探し始めた幼馴染を待つ間、喜ぶだろうかと思い作った花の冠。リクハの頭に乗せてやると、大きな瞳をキラキラと輝かせながら想像以上に喜んでくれた。
『かわいい〜っ』
「すぐ枯れちゃうけど」
『でも嬉しいっ。ありがとうイタチッ。大切にするね』
その時の、花にも負けないほどの愛らしい笑顔が忘れられなくて、もう一度この笑顔が見たい…そう思った。リクハに似合う花で作った髪飾りであれば、枯れずにずっと残り続けてくれる。そうしたらもっと、大切な幼馴染は喜んでくれるんじゃないかと、イタチは空色に映えるシロツメクサを見つめながら小さく微笑んだ。
*
翌日ー。
毎日家に来るはずの幼馴染。今日はその姿がなかった。
「ハスナさん、リクハは?」
「ああイタチ君ちょうどよかった。伝言預かってるよ」
そう言って浮かべた柔らかくて優しい綺麗な笑顔は、幼馴染のそれとよく似ていた。リクハは母親似で、大人になったらもっとハスナに似てくるのだろうかと彼女を通して遠い未来に想いを馳せる。
「いつもの場所で待ってるって。分かる?」
「はい」
「採りたい薬草があるから先に行くって言ってたわ」
「多分、そうなんじゃないかと思いました」
本当に小さく微笑んでそう言ったイタチはやけに大人びていて、子供らしさというものが一切感じられない。まるで小さな大人と会話をしているようだと感じながら、ハスナは礼儀正しく頭を下げてこの場を去ろうとしたイタチに待ったをかけた。
「昨日あの子にシロツメクサの冠作ってくれたでしょ」
ハスナの言葉にこくりと頷いたイタチ。
「凄く嬉しかったみたいで、家でもずっとつけてたのよ」
そう言って昨晩のことを思い出し軽く吹き出したハスナを見て、リクハはそんなに喜んでくれていたのかとイタチは素直に嬉しく感じた。決して表情には見せないが、胸の奥から湧き上がるあたたかい感情に心地よさを覚える。
「今朝も持って出かけて行ったわ」
「…今朝も?流石に枯れてきてるんじゃ…」
「花に流れているチャクラを少しいじれば保存が効くの」
「それ…ハスナさんの医療忍術ですか?」
「ええ。どうしても枯らせたくないってゴネられちゃって」
困ったように笑ったハスナを見つめながら、イタチは仙波一族の持つ高度な医療忍術の話を詳しく聞きたいと内心思った。リクハが扱う力のことを、もっと知りたいと常々思っているからだ。だが今は自分を待っている幼馴染のもとに行くのが先だろうとその思いを振り払う。
「イタチ君、いつもリクハといてくれてありがとう」
「…え?」
「実はあの子、周りの子たちに馴染めないみたいで…」
ハスナの言葉にそうだろうか?と疑問を浮かべるイタチ。だが確かに、自分以外の子供たちと遊んでいるところは見たことがない。
「君以外は周りの大人たちとばかり話してるから、ちょっと心配だったの。でも、イタチ君がいてくれれば安心。これからも一緒に遊んであげて」
「……オレも」
「ん?」
「…いえ。なんでもないです」
ハスナを見つめていた漆黒の瞳を伏せ、気恥ずかしさがあったのかお辞儀をしたイタチ。そのまま瞬足で地面を蹴り、ハスナの目の前から姿を消した。
「ふふっ。かわいい」
「あら?イタチとリクハちゃんもう遊びに行ったの?」
イタチと入れ替わるようにして姿を見せたミコトに視線を移し、ハスナは白い歯を見せニッと笑いながら振り返った。
「ねえミコト、イタチ君ってさあ…」
「ん?」
ずっとずっと、我が子たちの成長を近くで見守っていけたらと思う。忍である以上、それが叶わぬ夢となってしまうこともあるが…それでも…。ハスナは「なに?」と首を傾げているミコトに近づき確信のない、願望に近い思いを口にする。もしもそうなってくれれば、そんな風に期待を膨らませながら。
「ふふっ。先が楽しみね」
ミコトの笑顔に、ハスナも笑顔を浮かべた。
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