昔から、耳飾りや髪飾り、綺麗な着物や服で着飾るのが苦手だった。そんな物を身にまとってしまえば、ただでさえ目立つ仙波一族の空色の髪がより一層際立ってしまうし、強い忍になるためには不必要な物だと思っていたから。それに…。

「リクハ!」
『…ん?』

それに思っていたのだ。キラキラと光り物を着飾った女性には、火影になるという夢を掲げたイタチの隣は似合わないんだと。

「すまない、引き止めて」
『イタチ、どうしたの?』

聞き慣れた声に名前を呼ばれて振り返ると、息を切らすことなく駆け寄ってきたイタチが視界に入り少しばかり驚いた。今しがたサスケと別れたばかりだが、なにかあったのだろうかと首を傾げる。そんな幼馴染の髪につけられた髪留めに一瞬視線を送ると、なぜだか不思議とあたたかい気持ちが込み上げてきた。

「母さんがこれを」
『ミコトさんが?』

渡された紙袋を受け取り中身を見ると、いくつかの器に詰められた手作りの料理が入っていた。両親を亡くしてからずっと、こうして自分を気にかけてくれるミコトには心から感謝している。嬉しくなって『ありがとう』と笑顔を向けると、優しい穏やかな笑みが返ってきた。

「サスケから聞いた」
『なにを?』
「髪留め、つけてくれてるんだな」
『………!』

刹那、リクハの頬が桜色に染まり、上下左右に視線が泳ぐ。改めて言われるとなんだか変に気恥ずかしくなり、持っていた紙袋を腕に抱き少しばかり俯いた。忍術ばかりを追い求めてきた自分が恋をしている、そんな感覚に違和感を感じながら。

『…に、似合わないんじゃないかって心配で…』

ぎこちない口調でそう言ったリクハに、思わず笑みをこぼしたイタチ。似合わないなんてとんでもない。あまりにも愛らしくて触れてしまいそうになったくらいだ。リクハは自分が思っている以上に華やかで可愛らしい物がよく似合う。しかし昔からイタチやシスイとばかりいるせいか、そういった"女の子らしい"格好というやつにはまだ慣れないようで不安な表情を浮かべている。自分はこんな性格故に気の利いたことは言えないが、それでもリクハ以上にこの髪留めが似合う異性などいないとイタチは本気で思っていた。

「よく似合ってると思う」

そんな味気ない言葉に、リクハは顔を上げてふわりと笑う。

「帰ろう。送っていくよ」
『え、でもすぐそこだから』
「いいから」
『え、あ、イタチッ?』

リクハのために選んだ白い胡蝶蘭の髪留めは、彼女の美しい空色の髪によく映える。自慢の幼馴染であり恋人であると、イタチは愛おしそうにその姿を視界に収めてから、照れているリクハの手をやんわりと掴み歩き出した。

「リクハ」
『なに?』
「…少し、回り道をしていいか?」
『え…』

手を繋いだまま、少し後ろを歩いているリクハに振り返ることなく問いかける。家まではあと数メートルの距離だが、左手から伝わる温もりをまだ離したくなくて…一緒にいたいという気持ちを遠回しな言葉で口にしたイタチ。理由なんて聞かなくても、自然と理解できてしまうその想いを汲み取ったリクハは嬉しそうな笑顔を浮かべてイタチの隣に寄り添った。

『あのねイタチ、実は今日ね…』
「ん?」
『いろんな人にこの髪留め、褒められたんだ』

買い物に寄った店の店主や気さくに声をかけてくれる同胞の知り合いたち。里を歩いている時に出会した忍仲間、そしてサスケだ。大切なイタチの選んだ髪留めが褒められたことも、それを似合うと言われたことも、心の底から嬉しかったと話したリクハ。貰った髪留めにそっと手を添え瞳を伏せ、そしてー。

『でもやっぱり、イタチに褒めてもらえたのが一番嬉しかった』
「…………」

屈託のない笑顔を浮かべ、そう言った。

「そうか…」
『うんっ』

今すぐにでも抱きしめ好きだと気持ちを伝えたい。
まだ人通りのある夕暮れの道をゆっくりとした足取りで歩きながら、イタチはその想いを繋いでいる手に込め緩んでしまいそうになる表情を見られまいとわずかに顔を右に背けた。




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