それはまるで、永遠に枯れない花が自分の隣で咲き続けているような、そんな感覚。その花が、あまりにも可憐に咲いているものだから、水を注ぎすぎぬよう、光を閉ざしすぎてしまわぬよう、幼い頃からずっとずっと大切にしてきた。自分には不釣り合いなほどあたたかい、この想いと共に。
「リクハ」
『イタチ』
「すまない、こんな時間に呼び出して」
『ううん、大丈夫。おかえり』
夜空に浮かんだ満月に照らされ振り返ったリクハを、綺麗だと思った。大きな瞳を細めて愛らしく笑うその笑顔に、一日の疲労が和らいでいくのを感じる。うちは一族である自分、火影直属の暗部である自分、そして、任務に忙殺される日々の中で何度も落としかけてしまいそうになる本来の自分という存在を拾い上げてくれる幼馴染。恋人になった今でも、大切な居場所だということは変わらない。
「…ただいま、リクハ」
小さな笑みを浮かべたイタチの表情に、疲れの色が見てとれた。立場を理解しているがゆえに、イタチ一人の背中にのしかかった重荷が垣間見える。心配で不安で堪らないが、リクハはそのことに関して身を案じるような問いかけはしない。それは一見冷たくも見えるが、心配していると伝えてしまえば、心配させたと己の未熟さを恥じさらに自身を追い込んでしまうのがイタチという男だ。そんな、どこまでも高みを目指し続ける性格に配慮した気遣いを、リクハは自然とやってのける。
『イタチ、ありがとう』
「ん?」
『忙しいのに、時間つくってくれて』
「……」
『今日は会えないと思ってたから、凄く嬉しい』
少し気恥ずかしそうに笑ったリクハを前に、イタチは心の底から湧き上がる深い愛情を感じた。お互いの立場が変化して、昔のようには会えなくなった。それでも、ほんのわずかな時間だけでもいい。顔を見て、リクハの柔らかな声を聞きながら話がしたい。こんなにも想いは溢れているけれど、会えて嬉しい…なんて言葉にできるほど素直ではなくて、ゆるみそうになる唇を軽く噛みながらリクハの体をそっと引き寄せ抱きしめた。
「ありがとう、リクハ」
少し…ほんの少しだけ血の臭いのするイタチの首元に顔を埋めて目を閉じる。先程の距離では分からなかったが、今日もイタチは里を守るためにその身を赤く染めたのだ。木ノ葉の里の平和と引き換えに、業を背負って。
「それと、誕生日おめでとう」
『フフッ。覚えててくれたんだね』
「オレが一度でもお前の誕生日を忘れたことがあるか?」
『一回だけ』
「それはお前の話だろ?」
『ヘヘヘッ、バレたか』
戯けて笑うリクハの声が心地いい。つられるようにして小さく笑い、少し体を離して額を小突くとリクハは口元に手を添え品よく笑った。優しいその笑顔に、昔の記憶がよみがえる。幼い頃、この笑顔見たさにシロツメクサの冠を作ったこと、それから10年近く、誕生日には空色の綺麗な髪に似合うと思った髪留めを贈り続けたことを。
「リクハ」
『なに?』
懐かしい思い出というフィルター越しにリクハを見つめ、イタチは腰に付けていたポーチの中からなにかを取り出し、それをリクハの首元に付け穏やかに微笑んだ。月の光にも負けないほど美しく輝くそれは、夜光石の首飾りだった。
『…これ…』
「昔、ハスナさんに教えてもらったんだ」
『母さんに…?』
紡錘形の、透き通る海のような輝きを放つ夜光石を手に取るリクハ。吸い寄せられてしまうほど美しくて、魅せられてしまう。こんなにも綺麗な夜光石は見たことがなくて、思わず呼吸するのを忘れてしまいそうになった。
「水ノ国との国境付近で採れる夜光石だ」
『…凄く綺麗』
「この石は対になっていて、どちらか片方が近づくと蓄積された自然エネルギーが共鳴し合って今のように光を放つらしい」
『対…?それって…』
ゆっくりと視線を離してイタチを見ると、同じ形をした夜光石の首飾りが手の平の上で輝いていた。
「共鳴し合う距離は数メートルと長くはないが…」
『これ、イタチと同じ物?』
「え、ああ。まあ」
『つまり…お揃いってこと?』
ポカン…と小さく口を開けたままでいるリクハを前に、イタチは軽く肩をすくめて眉を下げた。
「嫌なら、オレのはサスケに持たせればいい」
『え、違う違う!嫌じゃないよっ、イタチが持ってて!』
「いいのか?」
『うん!』
「…そうか。解った」
力強く頷いたリクハが可笑しくて、くすっと吹き出し夜光石の首飾りを優しく握りしめた。
『お揃いって嬉しいっ。しかもイタチと』
「………」
『宝物っ。本当にありがとう』
「喜んでもらえてなによりだ」
『イタチ』
「ん?」
『これからもずっと一緒。ね、約束』
差し出された小指に自身の小指をそっと重ねると、リクハは満面の笑みを浮かべる。"ずっと一緒"というその言葉に心が揺れて、重ねた小指をやんわりと解いてから、イタチは再びリクハの体を抱き寄せた。
「約束だ。リクハ」
変化していく環境とともに、失ってしまったものはあまりにも多い。…けれど、変わらず手の届くところにいてくれる存在が、ここにはある。イタチは失いかけていた"自身"というものを強く意識しながら、自分の居場所はここなのだと瞳を伏せる。そして明日からまた、暗く冷たい闇の中に身を投じるのだ。
『イタチ…大好き』
二人の行く末を照らすように、夜光石が光輝く。
そして、月明かりの下、二人の影がゆっくりと重なった。
*君ありて幸福
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