「イタチ君、リクハから伝言」
「いつもの場所で、ですよね?」
「ふふっ。そう、当たり」

数日前の、デジャヴのような朝を迎えた。
家の玄関先で笑っているハスナの笑顔は、相変わらず幼馴染そっくりだ。靴を履き終えたイタチが隣に腰を下ろしたハスナの前に立ち、ポケットからなにかを取り出す動作をする。なんだろう?と首を傾げて待っていると、小さな手の平の上でシロツメクサの白い花と四葉のクローバーでできた髪留めがきらりと優しく輝いていた。

「これ、この間私が"治した"シロツメクサ?」
「はい。ハスナさんのお陰で、間に合いました」
「すっごく可愛くできてる!まさか手作り?」
「店先に並んでいた物を見よう見まねで…」

少し照れたように頬を染め、手の平に乗せた髪留めを見つめるイタチ。売り物と勘違いしてしまうような仕上がりに感心しながら、本当に心の優しい子なんだなと愛おしさが募った。こんなにもあたたかい心根の少年が、娘の幼馴染でよかったと思わずにはいられない。先日の件にしてもそうだ。ハスナは穏やかな笑みを浮かべてイタチの手を包み込み、やんわりと髪留めを握らせた。

「イタチ君、リクハが好き?」
「……えっ…」

アキトと同じ問いかけに、イタチの大きな瞳が一瞬見開かれる。だがハスナの声色は実に優しくて、この問いかけには真剣に向き合わないといけない気がした。イタチは握られている手から伝わるあたたかさに再度瞳を伏せ、自分の気持ちと向き合う。
そしてもう一度ハスナを見つめ、気づいてしまった想いを口にすると、幼馴染の母親は宝石のような瞳をわずかに揺らして心の底から「ありがとう」と笑ってくれた。



「姉さんこれ!これが一番似合うとおもう!」
『ん?どれ?』
「四つ葉のクローバー」

白い歯を見せ楽しそうに笑いながら、サスケはいくつかある髪留めの中からシロツメクサの花と四つ葉のクローバーがあしらわれた髪留めを手に取りリクハの耳元に近づけた。思い出の詰まったその髪留めをサスケから受け取り懐かしそうに見つめていると、当時の記憶が鮮明に蘇ってくる。これならもう壊されることはないと、冠の代わりだと贈ってくれた最初の髪留め。イタチの優しさが嬉しくて、わんわん泣いて困らせたなあと笑みを深めた。

「花言葉は…"幸運、約束"ってかいてある」
『幸運、約束…(そういえばあの時…)』
「兄さんとなにか約束した?」
『…えっと…確かこの髪留めを貰った時…』

「リクハ」
『ん?』
「オレ、もっともっと強い忍になるよ」
『…?』
「リクハのこと、ちゃんと守れるような忍に」
『…イタチ』
「だから、約束だ。オレたちはなにがあってもーー」


幼かったイタチと、指切りをして交わした約束。
改めて思い出すと、自然と笑みがこぼれる。そんなリクハの姿に、サスケもつられるようにして机に頬杖をつき笑みを浮かべた。

「姉さん幸せそう」
『えっ…?』
「兄さんが姉さんの話をする時と、おんなじ顔してるもん」
『え、あ、本当にっ?…ちょっと恥ずかしいなあ』

えへへ…と肩をすくめてくすぐったそうにはにかんだリクハ。持っていた髪留めを箱の中にそっと置いてサスケに視線を移すと、興味津々といった感じに身を乗り出して「で、どんな約束したの?」と問いかけてきた。

『"なにがあってもずっと一緒にいよう"って、そう約束したの』
「ずっと一緒に?」
『うん』

アカデミーに入学するよりも前に、イタチとリクハは第三次忍界大戦を経験し、命というものがあまりにも儚く脆い物だと学んだ。いつも隣にいると信じて疑わなかった存在が、ある日突然手の届かない所へ行ってしまうのだ。共に歩み成長していくことは、決して当たり前のことではない。それを悟ったからこそ交わした約束は、戦争を知らないサスケには少しばかり平凡に聞こえただろうか。

「そんな約束しなくても、二人はずっと一緒でしょ?」
『えっ?』

ニコニコと笑顔を浮かべながらそう言ったサスケの言葉に、少し意外そうな表情を返すリクハ。

「だって、兄さんと姉さんがはなればなれになっちゃうなんて少しも想像つかなよ。そりゃあ強い忍になればむずかしい任務をこなさなきゃならないけど…二人は強いし、それに…」
『…それに?』
「姉さんのことは、兄さんがぜったい守ってくれるよ」

イタチの後ろをついて回り、修行をつけてくれとせがむサスケの姿が見られる時間は…あとどのくらい残されているのだろう。それもまた、当たり前ではなくなるのだ。まだ純粋なサスケの言葉は不思議とリクハの心を癒し、愛おしいという気持ちを感じさせてくれる。『ありがとう』と言いながら頭を撫でると、先程のリクハと同じように少しくすぐったそうな笑顔を浮かべた。

「だからって、兄さんを困らせないでよ?」
『え、あ、はい…っ』
「リクハ姉さんはぬけてるところがあるから心配なんだ」
『…そ、そうかなあ…あはは…』
「兄さんに愛想つかされないように気をつけることだね」
『う"っ……なかなか厳しいこと言うね…サスケ』

当たり前だよ!と胸を張ったサスケに対して身を縮めて、リクハは苦笑いを浮かべた。





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