『イタチ…』
「…?」
『起きてる?』
「…うん」
『こんな時間にごめんね…』
「いいんだ。…眠れないの?」
『…また怖い夢を見たの』

里中が闇に包まれて、家族が深い眠りに落ちた頃。
こうして時々、リクハが部屋にやって来た。
"悪夢を見たから眠れない。"…そう言って。

「今回はどんな夢?」
『…黒い影がね、私たちのこと追いかけて来るの』

控えめに開かれた障子戸の隙間から顔を覗かせている、月明かりに照らされた幼いリクハの表情は不安そうで、酷くか弱く見えた。

『シスイが消えて…その次がイタチ…』
「………」
『手を伸ばすんだけど、掴めないの。それで…』
「…リクハ」
『……?』

布団から出て歩み寄り、今にも泣きだしてしまいそうなリクハの体を安心させようと抱き寄せる。
まだなにを守れるかも分からない、幼くて、頼りない腕で精一杯。力強く。でも決して、壊れてしまわないように。

「オレはどこにも消えたりしない」
『うん…』
「シスイもだ」
『…うんっ…』
「ここにいる。だから泣かないで、リクハ」

温かくて優しい、イタチの言葉と存在に救われる。
目を閉じて見た夢のことを思い出しても、不思議と恐怖を感じなくなっていた。理由は分からない。けれど昔から、母でもなく、父でもなく、心から安らげる癒しを与えてくれるのは幼馴染であるイタチだった。

『一緒に寝てもいい?』
「だから一人で平気かって聞いたんだ」
『…本当は一人で寝れるもん』
「悪夢を見る度起こしに来るのに?」
『………』

少し意地悪な言い方でそう言うと、ムスッと頬を膨らませたリクハ。赤子の弟よりも分かりやすいその態度になぜか愛おしさを感じて、たまらず笑みが溢れた。

「悪い。冗談だ」

小さな手を引いて同じ布団に入ると、見慣れた天井を見つめたままリクハが口を開いた。

『…シスイには内緒にしてて』
「どうして?」
『絶対からかわれるもん。子供だ〜って』
「オレたちは子供だ」
『じゃなくて、私のことばっかり子供扱いするの』

"イタチは優秀だから言うことないって。"
そう言ってまた不服そうな表情を浮かべているリクハの風船のように膨らんだ頬に手を伸ばし、特に意味もなく人差し指で突いてみる。プッと空気の漏れる音がして、いきなりなにをするんだと言いたげな表情が視界に映った。

『なにっ…?』
「シスイはお前のことを妹みたいだって言ってた」
『……?』
「多分、かわいくて仕方ないんだろ。だからからかうんだ」
『…そうなのかなあ』
「リクハといる時のシスイを見てるとよく解る」
『……?』
「そうゆう、優しい目をしてるよ」

兄になった自分と、同じように。

『…イタチは?』
「え…?」
『イタチは私のこと、どう思ってる?』
「え、どうって…それは…」

他意はない、幼い子供が抱いたふとした疑問。
1番親しい間柄にある幼馴染のイタチが、自分をどう思っているのか。ただただ興味がわいただけの、なんの意味もない問いかけだった。
が、イタチにとってはそうではない。
その証拠に口を閉ざし、本心を隠すかのように背中を向けて顔半分を枕に埋めた。そしてーー。

『ねー、聞いてるー?』
「リクハは、大事な幼馴染だ…」

そう言った自分の言葉が、情けないほどぎこちなかった。

『私もイタチのこと大好き!』
「…え?」
『じゃあおやすみ!』
「ちょ、リクハ今…」
『ぐ〜〜…』
「…………」

きっと、リクハの言った言葉に自分と同じような思いがあるわけじゃない。大切とか、大事とか、そうゆう気持ちを総称して「大好き」なんて言葉を使ったのだ。

「…オレも、大好きだ」

背中にぴたりと張りついた温もりを感じ、少し速度を上げた自身の心音。それが聞こえてしまわないかの心配をしながら、イタチはゆっくりと目を閉じた。




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