永楔の万華鏡写輪眼ーー。
闇の深淵を知らず、永遠の光を灯し続けるその眼には、神が宿ると誰かが言った。
繊細なガラス細工のような瞳は神々しい輝きを放ち、見た者全てを虚無に還す。
そして創造するのだーー、新たなる理を。
「かつてこの眼を開眼したのは"うちはカガミ"ただ一人」
「……っ」
彼は類い稀な瞳力の持ち主だったと同時に、第一次忍界大戦期の神手後継者、"仙波スズハ"の守人でもあった。うちはマダラの時代から、神手を継承する者の傍には必ずうちはの写輪眼が在り続けている。
それは神手が秘めた強大な力を他国の忍から守る為の存在とされ、うちはの中でもより強い力を持った者がその役目を担ってきた。
「貴方もその一人だったんでしょ?アキト」
「大蛇丸てめぇっ…!一体どこまでっ…」
「全てよ」
「…っ!!」
「フフッ。…と言いたいところだけど、ハスナが継承した記憶を覗き見るのには限界があったわ。…なにせあの子、自分の記憶にいくつもの封印術をかけていたんだもの」
"死人に口無し"ってよく言ったものよね。
そう言い不敵に笑う大蛇丸を、険しい目つきで睨みつけるアキト。内側から湧き上がる強い怒りを感じながら、奥歯をギリギリと噛み締めた。
「何重にもかけられた封印術を解くには時間が必要だけど…。何故これまでうちはの人間が神手を守り続けてきたのか、神手に秘められた本当の力のことを…そして…一部の者にしか語られることのなかったうちはと仙波の抱えた業も…私は知ったわ」
大蛇丸の言葉には、嘘偽りはない。
「神手を継承したリクハちゃんには、まもなく"記憶の遡り"が起こる」
「……っ!」
「歴代継承者たちの記憶を通して全てを知った時、あの純粋で優しい心がどう闇に染まるのか今から楽しみにしているのよ」
「…ーーっ!!大蛇丸!!!」
「フフフフッ。これは真実をひた隠し、自分たちの保身と利益を欲しいがままにした貴方たちうちはの一族のツケよ、アキト」
ハスナの記憶を通し、大蛇丸は見たのだ。
戦乱の時代、うちはの手によってたった一人の神手使いを残し壊滅させられた"純血の仙波一族"の最後を。
そしてハスナ亡き今、一族唯一の生き残りはリクハだけになった。絶望が不敵に笑う視界を閉じても、過去の同胞の行いが消えることはない。アキトは身が震えるほどの不快感を感じながらも、希望を託した若き二人の姿を思い心の中で切願した。
どうか娘を、守ってくれと。
*
「…………」
『…………』
銀鏡村に辿り着き、ようやく長かった夜が明ける。
廃村寸前の村は不気味なほど静かだが、ムスビの話を聞いた後にしては不思議と心が落ち着いていた。
なぜならここには、過度な期待と思想を押し付けてくる父も、一族も、暗部も里もない。ただ在るのは、心の底から守りたいと思える大切な幼馴染だけだ。いまだ伝えきれずにいる自分の想いを知ってか知らずか、これからも共に成長し歩むのだと強い意思を示してくれた。それが頼もしく、嬉しかった。
イタチは穏やかな寝息を立て眠るリクハの柔らかな髪を撫でると、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「"眠ラないノか…?"」
「……!」
「"お前ハその娘の心ノ安定その物ダな…うちはイタチ"」
「………」
「"主の心ノ安らぎヲ感じる…"」
刹那、威厳と落ち着きを加えた女性の声が静かにイタチの鼓膜を揺らした。硝子の張られていない窓枠に爪を立て、純白の羽を閉じる。この距離になるまで気づくことができなかったハクセンの持つ気配は、人間よりもはるかに薄く、野生動物よりも洗練されている。まるで自然の一部のように存在していて、感覚を研ぎ澄ませ、深く意識しなければ分からないほとだ。
「見張りはどうした…?」
「"半身体ヲ飛ばしてイる。異常ハない"」
「…そうか」
簡潔な返事を返したイタチの手を握りしめ、穏やかな様子で眠っているリクハのチャクラに意識を向けるハクセン。このところ不安に駆られる日々が続いていたようだったが、今のリクハの心には波紋ひとつ立っていない。
「"そうシていると、お前たちガ幼い頃ヲ思い出す"」
「………?」
「"お前は子供の頃から人の機微ニ敏感な少年で、事あるごとニ主の不安ヲ和らげてイた"」
「…………」
「"シスイと共に、随分と手ヲ焼いただろう"」
自分はそう思わないが、恐らくシスイは違うだろうなと小さな笑みを浮かべたイタチ。面倒見が良く義理堅い親友の口癖は、"あいつは無茶ばかりするから、心配で目が離せない"だ。
リクハがなにかしでかす度、しかめっ面を浮かべてどうしたものかと頭を悩ませてはいるが、内心は世話の焼ける妹ができて嬉しいのだ。
随分と可愛がっているのが見ていて分かる。
「"…気丈ニ振る舞ってハいるが、主は…"」
「解っている」
低い声の、落ち着いたイタチの声がハクセンの言葉をやんわりと遮る。その短い言葉の裏側にあるのは、幼馴染のことは自分が一番よく理解しているという確固たる自信。リクハを見つめたまま髪を撫でるイタチの姿を見つめ、ハクセンは月光のように輝く鋭い瞳を細めた。
「"神手ヲ持つ者の傍には、絶えズうちはの写輪眼が在る"」
「………?」
「"何ノ因果か、互いの力は不思議と縁ヲ結ぶノだ"」
リクハに向けていた視線をわずかにそらし、イタチの漆黒がハクセンを捉える。
「"イタチ"」
「……?」
「"近いうち主にハ、神手の力の解放ニ必要な"記憶の遡り"というチャクラの逆流が始まる"」
「記憶の、遡り?」
「"これハ私ノ中に蓄積された歴代継承者たちのチャクラが主へと流れ、記憶ノ全て、技の全てヲ継承させる為の術だ。全ての継承ヲ終えるまで、最長一ヶ月を要する"」
「…その間のリクハへの影響は?」
イタチの問いかけに、ハクセンが静かに頭を垂らす。
「"記憶を遡ってイる間は、深い眠りニ落ちる。なにヲきっかけにチャクラの逆流が始まるかハ継承者によって異なリ、その為いつ起こるカ予測ができない"」
「…突然起こり得るということか」
「"あア。3番目ハ任務中に遡り、死にかけたことガある"」
「…解った。万全の注意を払う」
「"それトもう一つ…"」
「ああ」
垂らしていた頭を上げたハクセンの瞳が、イタチを見つめる。視線を感じ顔を向けると、月光の輝きを放つ鋭い瞳がわずかに悲しみの色を帯びているような気がした。
「"何があっても主の隣に在リ続けると…約束してくれ"」
Mission.12
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