空を覆う厚い灰色の雲から、羽の毛のような雪が降り始める。草木の枯れた色のない世界に彩りを添えるわけでもなく、雪はただゆっくりと眼前に広がる湖に落ち、溶けていく。
自然の奏でる微かな音が聞こえるほどの静寂の中、リクハは心の中をかすめた何かに瞳を伏せる。そして両手を胸の前で組み、ゆっくりと祈るように俯いた。

「リクハ、そろそろ行こう」
『…うん』

静寂の中に響いた静かな低音。
聞き慣れた声に俯かせていた顔を上げ、組んだ手を解き振り返ると、誘うように左手を差し伸べるイタチがいた。体を刺すような空気を肌で感じながら歩み寄り、右手を差し出し手を繋ぐと、互いの温もりが穏やかに溶け合った。

『イタチ…』
「ん?」
『…白のチャクラが消えたの』
「………」
『彼、亡くなったみたい』

繋いだ手を見つめていた顔をゆっくりと上げそう言ったリクハは、心情の読みにくい表情を浮かべていた。悲しみや死に対しての動揺は一切伝わってこない。ただ、白という人物に訪れた死を受け入れている、そんな表情。だが自分を見つめてくる澄んだ瞳の奥からは、わずかな寂しさが伝わってきた。

「…情を抱きすぎると辛くなるぞ」
『分かってる。…でも、ちょっと悔しくて』
「……」
『もっと…平和な忍世界で出会えたらよかったのになって』

リクハの言うとおり、今よりも争いのない世界であれば、二人はきっと良き友人になれていただろう。互いの素性を隠すことなく薬草摘みをし、他愛もない会話に花を咲かせる。そんな夢にも似た淡い思いを抱きながら、しんしんと降り続ける雪を見つめてもう二度と会うことのない心の優しい友を思った。

『でも、白はそんなこと望まないかな…』
「誰かの道具として生涯を終えるよりマシだと思うがな…」
『だから、白と再不斬はそうゆう関係じゃないんだってば』

繋いでいる手を軽く揺らして訴えかけるようにそう言うと、イタチの漆黒の瞳が説明を求めるようにリクハを見つめた。

『その、二人は私たちに似てるというか…』
「一緒にするな」

心外だと言わんばかりにリクハの額を軽く小突く。

『大切に思い合ってるところは同じでしょ?』
「オレたちの関係はそんなに単純じゃない」

そう言って、自分よりも狭いリクハの歩幅に合わせて歩き出す。同胞を殺め、凍てついてしまったイタチの心が白の死を悲嘆することはない。彼の死を通して感じたことといえば、奪われた命がリクハのものでなくてよかったという思いだけ。
そんな、とくに気の利いた言葉をかけるでもない自身の心内は見透かされているんだろうなと思いながら隣を歩く幼馴染に視線をむけると、それに気づいたリクハが綺麗な微笑を浮かべて首を傾げた。

「すまない」
『え?』

不意に口から出た謝罪は、好いた女の思いに共感することすらできない自分の不器用さに対するもの。
そんな態度にリクハは吹き出すように笑い、繋いでいる手を握り返した。

『一緒にいてくれるだけで十分だよ』
「………」
『そばにいてくれるだけで、私は幸せ』

里を離れる最後の日。
リクハに地獄への道を選ばせてしまったのは、すべての情を断ち切ることができなかった己の未熟さが招いた結果。当たり前のように約束されていたであろう幸福な未来を奪ってしまったというにも関わらず、リクハはいつも幸せそうに笑うのだ。
純粋で一途なイタチへの想いを、大切にしながら。

「なあ、リクハ…」
『ん?』

立ち止まり、心から流れでる一筋の熱い思いごとリクハの手を引き抱き寄せる。天才、秀才といえど、その身一つで抱えるにはあまりにも大きすぎる業を背負ったイタチの背中に両手を回し、あたたかな胸元に頬を寄せ瞳を閉じた。

「こんなオレに、生きる理由を与えてくれて…ありがとう」
『……!』
「この先もずっと、お前のことを愛してるよ」

木々の隙間から見える空は厚い雲に覆われていて、降り出した柔らかな雪が…心根の優しい、一途なあなたを思い出させる。

ねえ、白ーー。

あなたがどんな最期を迎えたのかは、なんとなく、想像がつく。救われた命をその人のために捧げることは、決して簡単なことじゃない。…でもそれを、最も容易くやり遂げてしまうのがあなたなんだろうな。

誰かを一心に想い続けることが時として、その人の「生きる理由」になることを学んだの。
あなたたち二人がどんな関係性で結ばれていたのかなんて、関わりのない私には解らないけれど…彼にとってもきっと…白の存在が生きる理由になっていたんだと願ってる。

さよなら、白ーー。
私はもう少しだけ、この運命に抗ってみることにするよ。

『私もずっと愛してる。…イタチ』


Episode0.〜相愛


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