雪のように白く汚れのない肌に、漆黒の艶やかな長い髪。
わだちのない、雪原のような美しさを持った少年の名は白。まだあどけなさの残る子供だが…大切な者のためならば自身の命をもいとわない、強く、優しい心根を持った少年だったとリクハは数ヶ月前の出会いを思い返していた。

『またどこかでまた会えるかな…白』

ここ最近続いている曇天の空を見上げ、独り言のように呟いたリクハ。そしてその姿を見つめる一人の男。黒地に赤い雲が描かれた外套を身にまとい、素顔は特徴的な面の下に隠れている。今にも降り出しそうな雨の気配を感じながら、男は静かにそのかたわらへと歩み寄った。

「枇杷十蔵が死んだ」
『……』

まるでセリフを読むような淡々とした口調で仲間の死を告げた仮面の男。その死に特別な感情を抱くことはないが、リクハは空を見上げたまま両手を胸の前で重ねて祈るように俯いた。そんな、人の死を労わるような姿を横目に男は脚の重心を移し腕を組む。

「すぐにイタチを診てやれ、リクハ」
『…………』
「新たな力を得て、酷く体力を消耗しているようだからな」

否が応にも感じ取れてしまう男の持つ氷塊のような心の中には、目を逸らしたくなるほどの深く歪んだ闇があり、イタチの身を案じているような言い方をしたがそうではないとよく分かる。あくまでも自分たちはただの駒。まだ利用価値のある存在なだけで、十蔵のように死んだとしても男の感情が動くことはないだろう。
リクハは両手を解放しゆっくりと立ち上がると、むけられている視線を辿るようにして男を見つめる。汚れのない空色の瞳からは、わずかな反感の意が汲み取れた。

「そう睨むな。相手は人柱力である四代目水影だった」
『もし死んだのがイタチだったらあなたを殺してた』

口調は柔らかいが、言葉に嘘はない。
本気だという強い覚悟が伝わってくる。

「文句ならイタチに言え。お前の身を案じたアイツの判断だ」
『…しばらくは私が彼とツーマンセルを組む』
「いいだろう。だが前回のような単独行動はするな。お前やイタチの情報が木ノ葉に伝われば面倒なことになる」
『解ってる』

前回とは、白と出会ったあの時のことだ。
上から言い聞かせるような男の口調に、リクハは表情を変えることなく頷いてみせた。

「治療が終わり次第次の任務地へ移動しろ」
『…了解』

冷たく光る真紅の瞳から視線を逸らし、男に背を向け歩き出すリクハ。曇天の空の下、重たい風が飄々と吹き、雨が降る前の濃厚な土の匂いが鼻腔に届く。白と出会った頃よりも冷たくなった空気を肌に感じながら外套の中で身を縮めたあと、"そう言えば…。"と背後から聞こえてきた男の声に歩みを止めた。

「お前が出会った白とかいうガキだが…」
『……?』

振り向きはせず、耳だけを注意深く傾ける。

「アレは霧隠れの抜け忍で、今は元忍刀七人集の一人、桃地再不斬と行動を共にしているらしい」
『…白が?』
「ああ」

忍だということは、初めから分かっていた。
リクハだからこそ感じとれる特殊なチャクラを、白が有していたからだ。だが想像もしなかった。彼があの血霧の里の抜け忍で、無音殺人術(サイレントキリング)の天才と恐れられるほど残忍な忍と行動を共にしているなんて。

「ガキはお前の相手ではないだろうが、再不斬には用心しろ」

白が大切に思う相手、それはきっと再不斬なのだろう。
水影暗殺、そしてクーデター。
その裏にある里、一族の抱える闇を白は知っている。
あの幼さで、酷く残酷な現実を経験している。
傷つき、汚された心を抱えながら、それでもなお懸命に生き、誰かを信じ、思い、純粋で優しい心を閉ざそうとはしない。

『(白…。私たちは本当に、似た者同士だ…)』

優しい幼馴染を想いながら、あの日のことを思い出す。
この世界で生きることがどんなに過酷で辛くとも、あの日、あの時…血に染まったイタチの手をとったことに後悔など微塵もない。白もきっと、迷いなどなかったのだろうと思いを馳せながら、リクハは男に"教えてくれてありがとう。"と礼を残し、一瞬でその場から姿を消した。

「…"ありがとう"か。…相変わらずな女だな。仙波リクハ」





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