子供の頃から、時々悪夢を見た。
その夢はいつも同じ。
大切な幼馴染と兄と慕う親友が、私の前からいなくなる夢。
大きな闇が迫って来て、最初はシスイ。
次はイタチを飲み込んでしまう。
手を伸ばしても掴むことができなくて、最後に残された私だけが闇に飲まれることなくただそこに立ち尽くしている。
いっそのこと私も同じように消えてしまえたらどんなに楽だろうか。そう思えるほど、二人の犠牲の上に成り立っている自分の命に酷く嫌悪するのだ。
だからいつの間にか、一人で眠るのが怖くなって…。
両親が任務で出払ってしまうこと理由にして、アカデミーに入る前までは、シスイとイタチの家を行ったり来たり。
二人がいれば不思議と、あの夢を見ないで済んだから。

『シスイ見て!私自分の枕持ってきた!』
「はははっ。抜かりないなあ、お前」
『お布団隣に敷いてね!』
「解った」
『枕はここ!』
「はいはい」
『怖い夢見たら起こしていい…?』

就寝の準備をしてくれているシスイの周りをちょろちょろと子犬のように動き回り、こうしてああしてと注文を投げかけていたリクハが急に大人しくなり服の裾を引っ張りながら、シスイにそう問いかけた。

「もちろん。遠慮なく起こせ」

そう言って、不安げな表情を浮かべている妹同然のリクハの頭に手を置き撫でる。

「夢の話は、イタチから聞いた。怖いよな」
『うん…。シスイもイタチ、消えたりしないよね?』
「当たり前だ。こんなに世話の焼ける妹を置いていけるわけないだろ?…でもな、リクハ」
『…なに?』

頭に乗せられていた手が離れて、視線を合わせるようにして膝立ちになったシスイの両手が小さく華奢な肩に添えられた。そして空色の瞳をじっと見つめて、いつか必ず来てしまう別れがあることを穏やかな口調で伝える。
涙ぐんだりせず、真剣な表情でシスイの言葉を受け止めていられるのは、リクハが戦争を経験し、忍や死というものを幼いながらに理解しているからだった。

「いつか、そんな日がやって来ても、悲しまなくていいんだ」
『…どうして?』
「オレはずっと、お前の心と記憶の中にいるからだ」

心臓と額を交互に指差して、シスイが白い歯を見せて笑う。
不思議と恐怖も、寂しさも感じなかった。
むしろどこか、心がふわりと温かい風に吹かれたような感覚がした。

「だから大丈夫だ。離れてたって、いつもそばにいる」
『うんっ。分かった、シスイ』





『…ん…』
「………」

大切な幼馴染が、微笑を浮かべて眠っている。
一体どんな幸せな夢を見ているのだろうかと柔らかな髪を撫でながら、無防備で愛らしい寝顔を見つめる。そして自分たちに与えられた時間を惜しむように、瞼の裏に、記憶の中に、カメラのシャッターを切るようにして今この瞬間を深く刻む。

「おやおや、眠ってしまわれましたか」
「…戻ったか、鬼鮫」
「ええ。派手に動き回れないのが厄介でしてね、少し時間はかかりましたが…この通り。四肢は繋がっていますよ」

命の灯が消え、ただの肉塊となった男の死体。
それがまるで、狩られた野生動物のように鬼鮫の肩に担がれた鮫肌の上で、見るも無惨な姿になっていた。

「おい、リクハ…行くぞ」
「ああ、そのまま。換金には私が行ってきますよ」
「……?」
「眠ると悪夢を見るのでしょう?」

イタチの肩にもたれ掛かるようにして穏やかな寝息を立てているリクハを見下ろしながら、少しだけ注意深く問いかける。案の定、余計な詮索をしたのか?と、イタチの思考の読めない冷めた瞳と視線が重なった。

「…何故それを?」
「リクハさんから直接聞きました」
「………」
「なに、他愛無いただの会話ですよ」

リクハが別のメンバーと行動を共にし、自分たちのもとへ戻って来た時にした会話を思い出しながらそう言った鬼鮫。目の下にうっすらとできた隈を指摘し、眠っていないのかと問いかけると、リクハから例の話を聞かされたのだ。

「あなたがいないと安眠できないとか」
「………」
「殺戮とは随分無縁な、ただの幼気いたいけな少女だ」
「………」
「今後足手纏いになるようなら…」
「己の目に映る現実だけを鵜呑みにしていると、身を滅ぼすぞ」
「…ほぅ」
「一応忠告はしておいてやるが…」

"こいつは指一本でお前を殺せるくノ一だ。"

妙に落ち着いたイタチの声が、嘘偽りではない真実を伝えている。優秀な医療忍者であるリクハを、使い捨ての便利な駒としてそばに置いているのかと思ってはいたが、どうやらそれは勘違いだったらしい。

「なるほど。あなたがそこまで言うのなら、肝に銘じておきましょうかね」
「そうしろ」

にやりと口角を吊り上げた鬼鮫に対し、イタチは興味なさ気に瞳を伏せた。

「いい幼馴染をお持ちで、イタチさん」
「…もういい。早く行け」
「ククッ…。では後ほど」

これ以上は聞くに耐えない。
そう思いながら小さくため息を吐く。
鬼鮫のいなくなった場所をただ意味もなく見つめながら、隣にある心地よい体温を感じて目を閉じた。あと少ししてリクハが目を覚ましたら、そろそろ帰ろう。そう言って、大切な弟のいる里に戻れたらどんなに幸せなのだろう。
そんな、もう二度と叶わない理想に思いを馳せながら、それでも失わなかった大切な幼馴染の左手を強く握りしめた。

『……イタチ…』
「目が覚めたか…」
『…うん。…あのね…』
「ん?」
『……シスイの夢を見たの…』
「……」
『大丈夫、ここにいるって…そう言ってた』

ゆっくりと目を開き、陽の光が差し込む薄暗い森の一点を見つめるリクハ。自分の体の中に残したわずかな兄のチャクラを感じた瞬間、本当に一瞬だけ…。
大好きな優しい笑顔を浮かべて、いつものように自分たちを見守っているシスイの姿が見えた気がした。

『イタチ…』
「……?」
『ずっと、そばにいてくれてありがとう…』
「………」
『…大好き』

幸せなことは、故郷を思い返しながら、いつか…なんて曖昧な未来に思いを馳せることではない。
心の底から愛おしいと、失いたくないと思える存在に触れながらー、

「愛してる、リクハ」

こうして想いを伝えられるだけで、十分なのだ。
例え悪夢が、現実になったとしても。


記憶の中にいる


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