アカデミーに入学する以前は、それが当たり前だった。
『……』
「…リクハ、まだ起きてたのか」
『イタチ、お帰り』
リクハが家に泊まりに来れば、同じ部屋、同じ布団で忍術の問題を出し合ったり、一緒に本を読んだりして夜更けまで語り合ったりしていた。体術の掛け合いをして、時々二人で叱られることもあったが、それが楽しかった。
けれど、それは成長と共にできなくなった。
仕方のないことだと思っていたが…。
「休まないのか?」
『眠るとまたあの夢を見そうで、少し怖くてさ』
「………」
気丈に振る舞うも、悪夢に苛まれている幼馴染のそばにいてやれないのは酷く歯痒い。それは微かな苛立ちに似た感情が、心の中で渦巻いているようだった。
『イタチこそ、早く休んだほうがいいよ』
「オレは別に大丈夫だ。少しは自分の心配をしろ」
表情こそ変わらないが、イタチの声に微かないたわりが匂う。リクハは視線を向けたまま読んでいた本を閉じて、開かれた障子戸の前に立つ幼馴染に歩み寄る。わずかな血の臭いが鼻をかすめたが、なにも問わない。
いつの間にか頭一個分以上も開いてしまった身長差から見上げるかたちで視線を重ねると、一瞬時が止まったような感覚がした。
『…チャクラ、少し乱れてるよ』
丸いビー玉の中に空を閉じ込めたような澄み切ったリクハの瞳が全てを見透かしているような気がして、イタチはゆっくりと視線を逸らす。
「…勝手に感知するな」
『イタチが分かりやすいんだってば』
「そんなことを言うのはお前くらいだ」
『まあね。私はイタチの幼馴染だから』
わざと得意げになり、白い歯を見せ笑うリクハ。
彼女が今でもこうして家へやって来るのは、昔のように仲が良いからとか、幼馴染のよしみというやつではない。イタチが暗部に入ったことで少しずつ変わり始めた家族の関係や、父と兄との間で葛藤するサスケを心配しているからだ。
本人は決して言葉にしないが、イタチには分かっていた。両親を失い、その悲しみがどんなものであるかを理解しているからこそ、大切な幼馴染の家族にはそうなっては欲しくないという強い思いがあることが。
「もう休め。任務に支障が出るぞ」
『だから、またあの夢をっ…』
「大丈夫だ、リクハ」
『え…』
「なにも心配するな」
『……』
「オレもシスイも、絶対にお前の前から消えたりしない」
そう言ったイタチの瞳が、漆黒から悲しみを帯びた紅に染まる。ああそうか。その手があったかと、三つ巴の勾玉が浮かび上がる写輪眼を真っ直ぐ見つめて目を閉じた。
「朝には解ける」
『…………』
幻術に堕ち、倒れ込んできたリクハの体を支え、抱き上げる。客間に敷かれた布団の上にそっと寝かせようとすると…。
ーギュッ
「…………」
もう小さくはないすらりと伸びた幼馴染の腕がイタチの首に回されて、擦り寄ってくる。これは不味い…と一瞬フリーズしたあとで体を離そうと試みるも、より強い力で抱きついてくるものだから本当に引き離せなくなった。
『…ぐ〜〜…』
「…参ったな…」
リクハが少しでも悪夢に苛まれないようにと思ったのだが、どうやら対処法を間違えてしまったらしい。こんな姿を家族に見られでもしたら、確実に父親の逆鱗に触れる。間の抜けるような夢を見ている幼馴染を抱きしめたまま、イタチはその場に腰を下ろして行燈に灯った火のゆらめきをなんとなく見つめた。
「大丈夫。オレはここにいるよ…リクハ」
どこにも行かないと、ずっとそばにいると、見失いかけそうになる自分自身の存在ごと、誓った約束を胸にもう一度強くその体を抱きしめた。
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