「見つけたで、瞬身のシスイ…」
昔、不覚にも忍が仕掛けた罠にかかって死を覚悟した瞬間があった。でもそれでいいと思った。産まれてすぐにイカれた動物学者の実験台にされたオレは、野生動物たちからも、人間からもバケモノ扱いされるような「何か」になっていた。
だからどこにも居場所なんてなかった。
毎日毎日青い空を飛びながら、来世に期待していた。
けれど、運命とは不思議なもので…。
「うわっ!"ミミズク"掛かっとるやん!」
「え"っ……!!」
「うおっ!しかも喋りよった!新種か!」
自分は、罠を仕掛けた張本人である忍の子供に命を救われた。
とても変わった人の子であったけれど、なぜだかとても気が合った。
「名前付けな不便やな〜」
「古名はズクともいうんやで」
「ギョロ目かまゆ毛は?」
「それただのオレの特徴やんけ!」
「じゃあ面倒くせぇからズクで」
変な口調も、性格も、すぐにうつった。
「お前、なんで周りの人間を避けるんや?友達できんで」
「弱くてすぐ死ぬ奴が嫌いなだけ」
「人の死を背負うのが怖いんやな。意外と小心者や」
「…人の心読むなよミミズクのクセに。嫌いになるぞ」
「写輪眼を開眼してからお前は…」
「それ以上読んだら焼き鳥にすんぞ!」
少年は、うちは一族の人間だった。
生まれながらにして力と才能に恵まれた一族でありながら、あいつは自分の一族を酷く嫌っていた。他者と馴れ合わず、常に一人。忍としては十二分な才を持っていたが、粗暴で軽薄な性格であったためか友と呼べる存在はなかった。同胞に抱く嫌悪の理由を問えばいつもあいつは「窮屈だから」と言っていた。
知れば知るほど他の人間にはない魅力というやつを持った人の子。それが、うちはアキトだった。
「変な喋り方。性格も悪いし、だからモテないのよ」
「黙れブス。お前は獰猛な山イノシシじゃボケ」
「うちはの面汚しに言われたくないわ」
「仙波の恥晒しがなにを偉そうに」
「アキト、ハスナッ…喧嘩はやめてよ…」
「「うっさいムスビ!弱虫は引っ込んでろ!」」
そんなアキトにも、友ができ、恋人ができ、妻ができた。
そして、最愛の娘が生まれ、父になった。
「お前とももう、会えんくなるな。ズク」
「ホンマに行くんやね。アキト」
「…おう。リクハを守らんと」
「せやな。…ちょい、寂しくなるで」
「今までありがとうな。"あの子ら"のこと頼むわ。…相棒」
あの日アキトから聞かされた計画は、まるで幼い少女が夢見るおとぎ話しみたいに思えた。
けれどあいつの目はずっとオレに訴えかけてたんだ。
「不可能なことを可能にするオレの姿を、お前は幾度となく見てきただろう?」って。
だから信じることにしたんだ。
あいつの愛する娘が笑っていられる、温かい未来を。
*
*
「ってアカン!見失った!」
赤みのある黄褐色の毛に覆われた羽根を閉じて、民家の屋根から伸びる煙突の上に降り立つ一羽のミミズク。今の今まで視線の先にいたシスイが瞬きの間にいなくなった。人間のように冷や汗を垂らしながら、これがうちは一の手練れ…瞬身のシスイかと生唾を飲み込む。
鬼才と呼ばれたアキトがイタチよりも先に目をつけたシスイという逸材。幼い頃から陰ながら観察してはいたが、想像以上。とにかくここで見失っては計画に支障が出てしまうと雑念を振り払い、シスイを探すため可動域の広い首をぐるりと背後に回すとー、
「お前、オレになにか用か?」
「…!?!?」
眉をひそめ疑わしそうな目をしたシスイが立っていた。
視線がビタッと重なり妙な沈黙が生まれる。
いつの間に移動したというのか、その力に圧倒されそうになるも首を戻して向き合った。
「驚いた…速すぎやで…」
「……(人の言葉を…。しかもこの独特な口調は…)」
「オレはミミズクのズクや。よろしくな」
「…見たところ、口寄せ動物じゃないな」
そう言った次の瞬間、シスイの瞳が紅に染まる。
怪し気な術や盗聴器などが仕込まれていないか調べるためだ。ズクと名乗ったミミズクは、写輪眼を前にしても動じることなくただ真っ直ぐに自分を見つめてくる。そんな物怖じしない態度に暗部の…それも根の差し金だろうかと、ビー玉みたいな丸い目を見つめた。
すると次の瞬間、シスイの眼に強い瞳力が流れ込みくらりと強い目眩が襲う。
「お前の目ぇにオレの記憶を預ける」
「オレはただ目を合わせればええんやな?」
「おう。シスイの写輪眼にだけ反応するよう仕掛けといたわ」
「ふむ…」
「あとは伝えた日時と場所であいつに会って、いろいろ教えたってよ」
「よう分かった。任せとき」
「……っ!!!(これは…記憶、かっ…)」
シスイの脳内に、凄まじい量の記憶が次から次へと流れ込む。
アキトとズクの出会い。
彼がうちはの人間で、暗部であったこと。
親友うちはムスビと、父うちはセンリの存在。
そして最愛の娘を守るための計画。
見えた記憶は実際にその場にいるような感覚を覚えるほど鮮明なもので、これらに付随するアキトの感情まで知ることができた。
「リクハとイタチを頼む。シスイ」
「っ……!!!」
最後に、アキトの強い想がシスイの体を貫く。
「万華鏡写輪眼…かっ…」
子を想う父親の愛に、涙が溢れそうになった。
記憶として得た情報は十数年分だが、見ていた時間はたったの数秒。脳での処理と気持ちの擦り合わせに支障をきたし、精神的な疲労がシスイを襲う。
反射的に押さえた両目から手を離し、目の前にいるミミズクに視線を向けた。
「アキトさんがうちはの人間で、根の暗部……!?」
「大丈夫か?いろいろ混乱する言うとったわ!」
「頭の中をかき回された感じがする…」
「あいつはいつも手荒いからな。堪忍してや」
「……そうか。だからあいつ…暗部を嗅ぎ回って…」
「ん?」
ズクの言葉を受け流しながら、シスイは遠くを見つめて独り言を呟く。自分の持ち合わせていた情報と、今得たばかりの情報が自然と繋ぎ合わさっていっているのが言葉を交わさずとも伝わってきた。
凄まじい冷静さで状況を把握していくシスイを見つめながら、ズクは翼を広げてその肩に降り立った。
「大体理解した…。すぐには信じられそうにないが…」
「でも流石やで。冷静に受け止めてる」
「…お前はアキトさんの遣いだったんだな。オレが写輪眼を使うことも想定済みだったとは…」
「あいつ凄いやろ。あと、しばらく一緒におるからな」
「…オレと?本気か?」
「兄ちゃんに付け言われてここに来たんや。まだいろいろと話したいこともあるしな」
「なら、お前は味方ってことでいいんだな。ズク」
そう言って穏やかな笑みを浮かべながら触角の生えた頭を撫でると、日の光を受け大きな目玉がキラリと輝きシスイを見つめる。
「ほんなら、シスイって呼ばせてもらうわ」
「ああ」
人の子に気を許すのは、十数年ぶりだった。
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