ー銀鏡村
「これが三番目の全てだ…」
『……よく、解りました』
両親とムスビが、この村に足を運んでいた理由。
それを語る上で避けては通れない「木ノ葉と三番目について」の話を聞き終わる頃には、リクハの表情は曇り、ひどくやるせない心持ちになっていた。
里に対する不信が否が応でも募っていく。
「大丈夫か?リクハ」
イタチの右手が肩に添えられる。
向けられた視線は自分のことを案じてくれているようで、心配をかけまいと小さな笑みを浮かべた。
『大丈夫。ありがとう』
憎しみという感情に流される気は毛頭ないが、刃の矛先がイタチやシスイ、大切な仲間に向けられた時はどうだろう…いくら里の存続のためだと言われても、憎まないという自信はない。
リクハは母親を含め犠牲になった神手という力を継承した者たちの命を尊ぶように、自身の両手を握りしめた。
「それとね、リクハちゃん」
『はい』
「この話しをし終わったら伝えてって、ハスナから」
『母さんから?』
母の名前に、空色の瞳がわずかに揺れる。
ムスビは一度瞳を伏せ一呼吸置いてから、真っ直ぐにリクハを見つめ口を開いた。
「"仙波の過去に囚われて、心を閉ざさないで"って」
『…仙波の…過去?』
その瞬間、ハクセンから"記憶の遡り"のことを聞いていたイタチは"そうか。"と一人納得し、ハスナが伝えたいことの意味を理解した。神手の力を継承し、全てを知ったハスナが娘を案じて残した言葉だが、なぜかイタチの心にも焼きついていく。そして胸の奥底から湧き上がる不安は、リクハに対する想いの分だけ募り始める。
この先リクハが抱えることになる仙波の過去というものは、それほどまでに闇が深いのか…と。
『…解り、ました。覚えておきます』
「えっと…それじゃあ村長に会いに行こうか」
話の内容から生まれた重苦しい雰囲気の流れに逆らって、ムスビが両手の人差し指を私塾の入り口に向ける。リクハもその気遣いに背筋を伸ばし笑みを浮かべて頷いた。
「村長は三番目のことを知っているのか?」
「え〜っとね…実はそこもいろいろあって…」
『なにがあったんですか?』
「つい最近"知ってる"から"知ってた"…になってね…」
『それってつまり…お亡くなりに?』
「…うん。で、今君たちに会いたがってる村長は…」
"元村長の、お孫さんだ。"
*
*
齢九十を越え、一ヵ月前に老衰したという村長の孫娘は、リクハと同じ空色の瞳と髪を持つ仙波一族の人間だった。
『ムスビさんあの…これはどうゆうことですか…?』
感知したチャクラと幼い見た目に似つかわしくないチャクラ量は、間違いなく仙波の体質。
「この子は、その…」
「しっ!静かにせいムスビッ」
子供特有の柔らかな丸顔に、満月のように丸い瞳に丸いまろ眉。キラキラと曇りのない瞳は空色に輝いていて、唖然としているリクハと無表情のまま自分を見ているイタチをじっくりと観察する。見たところまだ六つか七つの幼子で、サスケとそう変わりないのが分かる。
「本物じゃ!」
『えっ…』
丸い瞳をくわっと見開き、小さな指を勢いよくリクハに向けた少女の空色の長い髪がふわっと揺れる。
「ムスビ!これは本物のねね様じゃ!」
「だから本物だって言ったでしょ?」
『ね、ねね様?私は…』
「お前が言うたとおり美人じゃ!名はなんと申すのだ?」
『えっと…仙波リクハです』
「リクハか!よい名じゃ!」
ニコッと愛らしい笑顔を浮かべた少女に、母性を貫かれ固まるリクハ。嬉しそうに目の前までやって来て、今度はイタチに好奇の目を向ける。幼い子供にありがちな忙しない動きと感情の変化の早さに若干引き気味になりながらも視線を合わせると、自分の両目を小さな指で見開きながら"うちはのにに様じゃ!"と弾んだ声でそう言った。
「名は?」
「…うちはイタチだ」
「イタチか〜っ。ムスビと違うて良い面構えじゃ!そうじゃ!にに様は写輪眼は開眼しておるのか?もし持っているのなら見せて欲しい!ムスビに頼んでも見せてくれぬのだ」
パッと指を離してイタチの前まで移動すると、無邪気な笑顔を浮かべたまま顔を覗き込み期待の眼差しを向ける。弟がいると言ってもサスケとは正反対なこの少女の扱い方がまるで分からずリクハに視線を向けると、苦笑いを浮かべながら助け船を出してくれた。
『忍の力に興味がおありなんですね』
「うむ!死んだジジ様が忍でな!沢山話しを聞いたのだ!」
『お祖父様はとても優秀な忍でいらしたんですね。ご出身は?』
「木ノ葉の里だと言っておった!」
その返答に、リクハとイタチの視線が重なる。
「ねね様の神手のことも知っておる!両手が白く光るのだろう!?」
『はい。よくご存知ですね』
「見せてくれるかっ?」
『ごめんなさい。写輪眼も神手も、そう簡単に人に見せてはいけないと…死んだ母に言われているのです』
軽く肩をすくめてそう言ったリクハに、少女は残念そうに両腕を落として頬を小さく膨らませた。
「母様に言われたのなら仕方ないな…。あきらめる」
意外と物分かりはいいようで、コロコロと変わる表情の豊かさに笑みが溢れた。
「村長。二人に話したいことがあるんでしょ?」
「おおっ!そうだな!同胞に会えた嬉しさで忘れておった」
こうして二人のやり取りを見ていると、まるで主と家来のよう。しかしなんの因果か少女は仙波でムスビはうちはの人間だ。理由を説明することはできないが、これもまた引き寄せられた運命なのかとリクハは自分たちの前に座り直した少女を真っ直ぐ見つめた。
「取り乱しすまなかった!村を代表する者として…えっと…」
「みんなを治療してくれて感謝します、でしょ?」
「そ、そう!村の皆を助けてくれて感謝しますっ」
『ふふっ。敬語になった』
「随分と未来のある村長だな」
あまりにも頼りのない幼子だ。という遠回しなイタチの皮肉に気づくこともなく、なぜか敬礼をしている少女が微笑ましい。
だが、この緩く呑気な雰囲気が一変することになる一言を、少女は意気揚々と口にした。
「改めてよく来てくれた!私はこの村の長、仙波ミツハだ!よろしく頼む!」
『「……!!」』
それは、今は亡き三番目の名。
Mission.14
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