ー数十分前。

イタチとリクハが現村長である仙波ミツハに会う直前。私塾の前でムスビが語ったのは、自身とリクハの両親がこの村に足を運ぶきっかけとなった要因、三番目についての事柄だった。

「結果からいうと、僕らは償いの為にこの村に来てた」
『償い?』
「うん。木ノ葉が闇に葬ったある事件・・・・の償いの為に」

悲しげな面持ちで話し始めたムスビの発言に、イタチとリクハは怪訝な表情で顔を見合わせる。"木ノ葉が葬った事件"という闇深い言葉に、リクハは少しばかり自身の体がこわばるのを感じた。

「ミツハ先生は"神手"の三番目の継承者で、ハスナの師匠だった人だ。それは君も知ってるよね?」
『はい。名前だけは母から聞いてます』

仙波ミツハは若干二歳にして第二次忍界大戦を経験し、二人の姉と両親を失った。まだ物心もつかない頃から戦争を通し多くの生死を目の当たりにしたミツハ。敵の攻撃で血肉を引き裂かれ絶命する者、致命傷に苦しみ助けてくれと懇願しながら生き絶えていく者、食糧不足により亡くなる生まれたばかりの赤ん坊、捨て駒同然にされていく子供兵、戦争が終結を迎えてもその余波を受け流行り病や不衛生な環境下に置かれ無駄死にする小さな村の民たち。当時は一つ一つの命に向き合う時間などなく、これらが彼の日常だった。
それから数年して物心がつくようになると、今まで消化しきれずにいた死に対する恐れのようなものから逃れるため取り憑かれたかのように医療にのめり込んだ。自身の持つ知恵と力で人を救えることが分かると才能は瞬く間に開花し、ハスナを弟子に迎えムスビたちと出会い若い世代の育成に力を注ぎ始める。
自国の里が繁栄する裏側で、泥水をすすり、真っ赤な血に身を染めて、闇を背負う者たちが一定数存在する。衣食住に困らず、何も知らずに悠々自適な生活を送っていけるのは、そう少なくない犠牲があるから成り立っているのだと、ミツハはアカデミー入学を間近に控えた三人に語った。

それから半年もしないうちに、例の事件・・・・が起こる。

「それが、木ノ葉の根を主体とし行われた、銀鏡村で行われた人体実験計画"黒葬こくそう事件"だ」

慎重な物言いをしたムスビだったが、そんな計らいは虚しく予想していたとおりの衝撃を二人に与える。

『なに、それっ……』
「………」

幼い頃からありとあらゆる歴史書、文献、論文、その手の書物を読破して、暗部に所属しているイタチですら一度も見聞きしたことがなかった悲惨な事件。木ノ葉の里は人体実験を固く禁じているにも関わらず何故だと、里に対する不信感が二人の中で募っていく。

「時は第二次忍界大戦終結後から数年、各里が長い争いの余波から動乱の世を歩んでいた頃のことだ…」

場所は雨の国。廃村寸前の村で突如として発生した感染病が、瞬く間に火ノ国国境付近にまで流行をみせた。当初は感染経路も不明なうえ、治療薬の開発もままならず、対応していた医師たちも命を落とす悲惨な状況が続いていた。そんな中、病の根絶を目的とし木ノ葉の里から一人の男とその弟子の少女の派遣が決定する。

「リクハちゃん、黒血病こっけつびょうは知ってるよね?」
『はい。全身の血が黒く酸化し凝固してしまうことで血流が止まり、数週間で死に至る病です』

戦時下に用いられたあらゆる毒物兵器が結合して生まれた非常に感染力の強い病原菌は、生き物の死骸を養分とし、大戦終結直後に処理しきれず放置された死体の山は、不幸なことに感染拡大を引き起こすにはうってつけの環境だった。腐った慕いから滲み出た体液や血液が土壌を汚染し、その水や土で作った作物を食べたことが原因なんだと、リクハが詳細を話す。

「その病、誰が根絶させたか知ってる?」
『勿論。当時木ノ葉の暗部に所属していた医療忍者です。ただ、もう一線から退いているみたいでお会いする機会はありませんでしたけど…』

当時論文を読み、感銘を受けたことを思い出す。同じ医療忍者としてはどうしても話を聞いてみたいと関係各所を周ったが、結局居場所を突き止めることはできなかったとリクハが話す。

「それは里が用意した表向きの方便だ」
『え…?』
「そんな人間は初めから存在してない。あの病を根絶させた本当の第一人者は、当時神手持ちだったミツハ先生と弟子だった君のお母さんだ」
『「……!!」』

隠蔽された人体実験。
黒血病という恐ろしい流行り病。
里によって書き換えられた歴史。
とても闇深い、嫌な繋がりが色濃くなっていく。

「"黒血病"とは、流行り病なんかじゃない。対戦中に過激な危険思考を持った科学者が作った人為的な毒物兵器。彼は根に雇われた捨て駒のスパイだった。そしてその男を雨の国に送り込み、あたかも敵国から流行り病が出たと工作したのはあの男…」

"志村ダンゾウ"だ。

「周辺国の国力低下を狙ってか…」
「終戦後とはいえ、過激主義な連中は多かったからね」
『……あの、じゃあつまり…』

終戦後とはいえ、あくまでも戦争の残火は存在していた。どの国も、自分たちの里や民を守ることに必死になるのは必然で…。ダンゾウの非道な行いも自国を守る為ならば、多少の犠牲は仕方がないと正当化されてしまう時代だった。しかしその真実は、あまりにも残酷で人の道から外れ過ぎていた。

『つまりこの村の人たちは、黒血病という毒物兵器を作り出す為の…実験体…?』
「ああ。そのとおりだ」

表情を酷く歪め、俯くムスビ。
リクハは受け入れ難い現実に、心の中心まで揺さぶられたような、裏切られたような感覚を覚える。
凄惨な実験による死者数はおよそ七十人。
対象はランダムに選出された老若男女。
当時現場は、地獄絵図だったとムスビは続ける。

「この真実にいち早く気づいたミツハ先生は、非道の全てを三代目に報告するとダンゾウを脅した。もちろん僕も、アキトもハスナも先生の味方だった。でもっ…」

悔しそうに下唇を噛み締めて、当時を思い出しているであろうムスビの視線が足元に注がれる。

「先生は黒血病という毒物兵器を作り、ばら撒いた大罪人という汚名を着せられて……殺されたんだっ…」


そのについて
〜真実〜



*前 次#


○Top