ー数ヶ月前。
「惜しいことをしたな、白よ」
「…え?」
「その女は間違いなく、仙波一族の生き残りだ」
「仙波、一族?」
そう言った再不斬の、狩の最中のような鋭い目を真っ直ぐ見つめて白が問う。
「仙波一族は木ノ葉の忍で、お前のような特別な力…神手と呼ばれる血継限界を持つ医療のエキスパート集団だ」
「…!」
忍、血継限界という言葉に白が一瞬動揺を見せたのを再不斬は見逃さなかった。この日、薬草摘みから戻った白は珍しく心を躍らせていた。幼くも常に冷静で、あまり感情を表に出さない白が高まる気持ちを抑えながらリクハという女医との出会いを再不斬に語った。空色の髪と瞳が特徴的なとても美しい人で、話をするほど自分たちには共通する点が多かった、と。
「血継限界を持つ、医療忍者…」
また一つ、共通点が増える。
「オレは一度だけ、神手持ちと遭遇したことがある」
「…再不斬さんも?」
「ああ。ガキの頃の話しだがな」
遠い過去の記憶を思い出すように、再不斬がわずかに視線を上げて虚空を見つめる。
時は第三次忍界大戦真っ只中…。月明かりの下、闇夜に浮かんだ二つの蒼眼、そして純白に輝く両手を持つ女が、百を超える死体の中に佇んでいた。
まだ辛うじて生きている人間もいるが、希望はない。
辺り一面血の海と化し、そこはまるで地獄の中枢。
遠くで金属がぶつかり合う音が響いている。
昼夜とわず戦いは続いていた。
殺らなくてはと、衝動が体を打つ。
障害物はなく、女はこちらの隊に気づいていない。
完全に囲んだ。
今なら殺れる。
そう思った瞬間、仲間の一人が囁いた。
"あれは木ノ葉の仙果だ。"と。
意味が分からなかった。そんなことよりも早く女の息の根を止めろ、そう指示を出そうとした次の瞬間ー、
"その言葉は禁句だ。"
若い男の声が聞こえたと同時に、仲間の口と両目にクナイが突き刺さった。瞬きの間にも満たない間に、禁句を口にした仲間が死んだ。
「そこからは、一瞬だった」
死角から飛んでくる無数のクナイに、仲間たちが次々と射抜かれていく。
相手は格上。戦っても負けると、その身が悟った。
それでも霧隠れの忍として、無様な死に様を晒すわけにはいかない。どうにか一矢報いる方法はないか…そう思い持っていた刀を握りしめたその時だった。
「増援が現れオレは急死に一生を得た。去り際に見えた奴の目は、真紅に染まりオレを見据えていた」
虚空から視線を逸らした再不斬の鋭い目が白をとらえる。
「紅い瞳…木ノ葉の"うちは一族"ですね」
「ああ。だがな白。重要なのはそっちじゃない」
その話しを待っていたと言わんばかりに、白が座っていた椅子から立ち上がり興味を示す。そして再不斬は物語りの結末を語るかのように、こう言った。
神手持ちの足元で、死にかけだった人間たちが一瞬で生気を吹き返し、再び戦いに身を投じていく様を目の当たりにした、と。
「瀕死の人間を一瞬で…まさに神の身技のような力ですね」
「だからこそ、お前は惜しいことをしたんだよ」
「え…?」
丸い目を少しばかり見開いて首を傾げた白に対し、至極つまらなさそうな声色で再不斬が続ける。
「少し前に木ノ葉で起きた、うちは一族抹殺事件はお前も知っているな」
「ええ。確か首謀者は、同じうちはの人間でしたよね」
「ああ。だが消されたのはうちはの人間だけじゃない」
「…なるほど。再不斬さんが言いたいこと、解りました」
ゆっくりとした動作で再び椅子に座り直し、リクハと過ごした時間を思い出す。察しがいいな、という再不斬の言葉に笑顔を浮かべて湧き上がる感情を小さな胸に押し込めた。そしてクイズの答え合わせをするかのように、白は淡々とした口調で再不斬の言わんとしたことを口にした。
「医療忍者は各忍び里で重宝される。それが神手持ちともなれば皆躍起になるでしょうし、懸賞金も高額なはずだ。…そこにきて一族唯一の生き残りがリクハさんだとすれば…ボクは是が非でも彼女を捕らえるべきだった。…ってことですよね?」
不気味なほど完璧な作り笑いに、再不斬が鼻先で笑い白から視線を逸らす。それを肯定的に捉えた白が、少しばかり俯き自身のつま先を見つめたまま呟く。
「多分…というより、ボクには絶対無理でしたよ」
「なぜそう思う」
「彼女がボクよりも強い忍だからです」
「…ほう。殺り合ってもいねぇのにか?」
「ふふっ。それくらいは解りますよ。だって彼女には…」
大切な者の為ならば、全てを捧げる覚悟があった。
そうゆう忍は強いと解る。
そう言った白の言葉を"くだらない。"と一掃した再不斬に対して、苦笑いを浮かべてみせた。
「…(もしかして、リクハさんの大切な人って…)」
懐から取り出したビンゴブックを開き、一枚ずつ丁寧にページめくっていく。
『その人のためなら、何でもできる?』
あの時の、リクハの問いを思い出す。
『何を捨てられる?』
ああ、そうか。
そうゆうことだったのかと、ページをめくる白の手がぴたりと止まった。
「(そうか…。リクハさんあなたは…大切な人のために夢も家族も友も故郷も…全てを捨てて、今そこにいるんですね…)」
胸に奇妙な満足と切なさ、そして哀れみの混交した感情を抱えながら、白は静かにビンゴブックを閉じた。
「(ボクら本当に、似た者同士です…リクハさん)」
*Episode0.〜相思〜
*前 次#
○Top