『フフッ、イタチがヘマした』
「……」
『珍しいこともあるもんだね』
「……」
『ふてくされてるの?』
「別に…ただ…」
『ただ?』
穏やかに微笑む顔に見惚れていたなんて口が裂けても言えない。軽い火傷で赤くなったイタチの左手を、リクハは両手で包み込むようにして氷の入った袋を当てている。目の前で首を傾げている幼馴染を見つめ、率直に可愛いと思った。
『イタチ?ただ、なに?』
「…いや、何でもない」
『なにそれ』
「気にしなくていい」
『ふーん…。それよりもイタチ』
「???」
隣の椅子に腰を下ろしているリクハの表情が瞬時に曇る。何事かと思えばいきなり右腕を掴まれ服の袖をめくられた。
『…やっぱり。ここもケガしてる』
「大丈夫……ただのかすり傷だ」
『傷口が化膿してる…。数日放置したでしょ』
「……」
リクハの大きな瞳に見つめられ、視線を反らしたイタチ。自己犠牲の強い彼のことだから、自分のケガの治療よりも部下のや、任務遂行を優先したに違いない。自己管理ができないイタチではないのに、それだけ疲労が蓄積しているということだろうか。リクハは小さく溜息を吐いた。
『すぐ来てくれれば良かったのに』
「お前もここ最近は忙しかったろ。それに、本当に大したことない」
『…イタチ』
「?」
『しみるよ』
「…っ」
躊躇なく、というよりかは少し怒っているような雰囲気がリクハからは伝わってくる。傷口に当てられた消毒液の染み込んだガーゼを見つめながら、イタチはジンジンとする痛みに若干表情を歪めた。リクハがあえて医療忍術を使わない時は、相手に何かを伝えたい時だ。
「怒らせたならすまない」
『私がイタチやシスイのこといつも心配してるって分かってるのに、こうゆう行動取るから…』
「……」
『もっと心配になるよ』
不安そうな空色の瞳が揺れ動く。ああ、自分はなんて愚かなのだろうと、込み上げてくる自責の念。大切な幼馴染には、いつも笑顔でいて欲しい。暗雲を全て払い去ってくれるような、花が咲いたように笑うあの表情が心の底から好きなのだ。そう願っているにも関わらず、今は自分の行いがリクハの表情を曇らせている。
『私じゃ頼りない?』
「リクハ、違う。むしろその逆だ。いつも頼りにしてる」
『本当…?』
「ああ。本当だ」
『イタチは大切な幼馴染だから、いつでも頼って欲しい』
「……」
リクハのあまりにも真剣な眼差しに、不覚にも心臓が大きく跳ね上がる。言われた言葉も、その思いも、この表情も、全部自分に向けられているものだと思うと優越感を感じた。
『最近ね、少し心配してたの』
「心配?」
『うん』
イタチの腕を支えたまま、リクハは新しいガーゼを取り交換する。
『イタチが暗部入りして、力の差がどんどん開いていくような気がしてて』
「……」
『私の助けなんて、必要なくなって来たのかなって』
「そんな風に考えてたのか?」
『う、うん。まあ…』
「ならその心配は不要だな」
丁寧に手当てを施していく流れを見つめながら、イタチは穏やかな笑みを浮かべた。波の人間と比べてしまえばイタチの表情の変化は本当に汲み取りづらいが、リクハの前ではそうではなくなる。支えられていない方の手をリクハの頭にポンと重ねると、手当ての進みが一旦止まり、不思議そうに自分を見つめてくる幼馴染と視線が交わりさらに目を細めた。
「お前の支えがないと、オレは困る」
『……』
「オレは完璧なんかじゃないからな」
『本当?』
「嘘をつく必要があるか?」
『私を落ち込ませないように、とか』
「本気で思ってることだ」
『…そっか。分かった』
イタチの言葉に納得して、花のように可愛らしい笑顔を見せたリクハ。気の利いた事は言えないが、それでも満足気に微笑んでくれる姿に愛しさが募る。髪を撫でて、珍しくイタチも笑顔を浮かべた。
「リクハが居てくれてよかった」
『…!』
「ありがとう」
『う、ううんっ。幼馴染だから、当たり前だよ』
イタチの言葉に内心ドギマギしながらも、リクハは手のひらに微量のチャクラを集中させ他の傷口に当てる。すると通常の倍となるスピードでイタチの腕の傷が完治していくのが見て取れた。
『任務は大変?』
「…それなりだ」
『あんまり無理しないようにね。イタチは頑張り屋さんだから』
傷を完治させ、綺麗になった腕を確認しながらそう言ったリクハ。離れていく温もりに名残惜しさを感じながらも、感謝の言葉を伝えると優しく微笑んでくれた。
「なあ、リクハ」
『ん?』
「…迷惑じゃなければ」
『?』
「明日も会いに来ていいか?」
『…もちろん。イタチならいつでも来ていいよ』
そう言って向けられた笑顔に、
心臓を鷲掴みにされた。
*前 次#
○Top