ダンゾウは実験の首謀者が自身であると露見する前に、仙波ミツハに全ての罪を被せて始末した。神手を手にすることはできなかったがシナリオどおり、ダンゾウが責任を追求されることはなかった。それどころか一部の人間からは、大罪人から里を守ったと一定の評価を受けていたとムスビは語った。
リクハの両親と共にムスビがこの村に足繁く通っているのは、贄にされ命を弄ばれた挙句、木ノ葉からの支援の一切を絶たれ放棄されたこの村に住む住人たちへの贖罪の為。木ノ葉の忍びが残した業を、自分たちの手で償う為だった。



「気軽にミツハと呼んでほしい!」

小さな両手を腰に添え、無邪気な笑顔を浮かべて自らを仙波ミツハと名乗った幼い少女。先ほど聞いた話しのせいか、少し戸惑いながらもリクハは穏やかな表情を浮かべてムスビに視線を向けた。

『あの、どうしてミツハちゃんはこの村に?』

なぜ一族が集う里に身を置かず、この村にいるのか。
リクハが率直な疑問を問いかける。

「端的にいうと、ダンゾウから身を守るためだ」
「そうゆうことか…」
『なるほど…』

イタチとリクハの声が綺麗に重なり、その理解力の早さにムスビが拍子抜けしたような表情を浮かべて驚いた。

「君たち、今ので理解したの?」
『ミツハちゃんって、次の神手後継者候補ですよね?』
「先生の姪孫にあたる人物だから、可能性は…」

唖然としながら答えたムスビに、イタチとリクハが納得の表情を浮かべて顔を見合わせる。神手を継ぐ条件は、仙波一族の中でも生まれながらにチャクラ量が他者より秀でていること、基本的な医療忍術に長けていること、そして、神手という優れた力を私利私欲に用いらず、医療における道徳的思想を持ち合わせた良識ある人間かどうかで判断される。
幼いミツハがその条件に当てはまるかどうかはさて置き、黒葬事件で三番目から神手の力を奪おうとしたダンゾウの計画が失敗に終わっていることを考えれば、継承させない為にミツハを始末するという流れは容易に想像がついた。

『ミツハちゃんが次の神手後継者候補だとダンゾウが知れば、私が継承できないよう手を打ってくる可能性がある。だから木ノ葉の里ではなく、この村に身を隠してるってことですよね?』

リクハの問いにムスビが頷く。
ミツハの存在を知らない以上、ダンゾウはリクハから神手を奪おうとするだろう。何が狙いかは定かではないが、強大な力を欲していることは確かで…。リクハだからこそ正しい使い方をしているが、もしもダンゾウや大蛇丸の手に力が渡ってしまったらと考えると、またどれだけの犠牲者が出るか分からない。

「ダンゾウは必ずまた神手を狙ってくると思う」
『はい』
「君はもう"白孔雀ハクセンとの口寄せ契約を終えて、完全な神手を扱える状態だ。どうやら連中はその状態の神手を狙ってる」
『はい…』
「里に戻ってからも警戒はしていたほうがいい」
『解りました』
「できるだけ信頼している人間をそばに置くこと」

真面目な表情を少しだけ緩めて、ムスビがイタチに視線を向ける。

「むずかしい話しは終わったのか?ムスビ」
「ええ、まあ、大体はね。あとは護人もりびとの話しを」
「それなら薬草林の"結界内"にいくまでにせい!」
『「(結界内?)」』
「村長、そんなに急がなくても…」
「ダメじゃ!こっち・・・が先じゃ!」

リクハの前に座っていたミツハが勢いよく立ち上がり、"早よねね様たちを案内するぞ!"とムスビを急かし始める。今にも地団駄を踏み出しそうな幼いミツハの様子に苦笑いを浮かべたムスビもゆっくりと立ち上がり、リクハたちに着いてくるよう促し私塾の外に出た。

「ねね様!こっちじゃ!」
『えっ?』

待ってましたと言わんばかりにリクハの手を引き駆け出すミツハ。一体どこに連れて行く気なのかと疑問符を浮かべながらイタチに振り返ろうとしたその刹那ー、上空に響いたキィーッという甲高い鳴き声。その場にいた全員が声のした方へ視線を向けると、青い空を背に大きく翼を広げた一羽の鷹がイタチのもとへと優雅に舞い降りる。

「(シスイからの伝書か…)」

差し出した右腕にゆっくりと降り立った鷹の足に括り付けられている小さな紙を器用に外し、すぐに腕を振り空へと返すイタチ。再び上空へ飛び立っていった鷹を物珍し気に見つめるミツハのすぐ隣で、伝書の内容に目を通したイタチの表情がほんの一瞬…わずかに歪んだのをリクハは見逃さなかった。

「緊急事態?」

ムスビが問う。

「問題無い」

短くそう言ったイタチはいつもと変わらず感情の掴みにくい表情を浮かべながら、伝書の内容が気になっているであろうリクハのもとへ歩み寄り"あとで話す。"とつぶやいた。あまり良いことではなさそうだと内心思いながらも、リクハは小さく頷いた。

「ねね様!あそこが薬草林の入り口じゃ」
『?』

リクハの手をグイッと引きながら、声を弾ませ目と鼻の先にある薄霧漂う静かな森の入口を指さすミツハ。湿った土と緑の匂いが混ざり合い、細い道が奥の静寂へと誘っているのが見える。

「これもアキトさんの指示なのか?」
「分かる?察しがいいね」
「ここまでくると容易に想像がつく」

一切の動揺を見せずに薬草林の奥を見つめるイタチの隣へと歩み寄ったムスビが、穏やかな笑みを浮かべて隣に並ぶ。

「村長、リクハちゃんにアレを渡して」
「そうじゃった!忘れるところだった」
『アレ?』

繋いでいた手を離したミツハが、襟のすきまから指を突っ込み、少しばかり苦戦しながら取り出したのは、麻布に括り付けられている何の変哲もない鍵だった。

『鍵?』
「アキトからねね様にわたしてくれとあずかった」
『父さんが…』

差し出された鍵を両手でしっかりと受け取ると、ミツハに笑顔で感謝を伝える。特別な刻印もない。本当にどこにでもありそうな鍵だ。父であるアキトが何を伝えようとしているのかを考えても答えが出るはずもなく、今度はリクハがその鍵を首から下げた。

『父さん、ミツハちゃんに何か言ってた?』

その問いに、ミツハが左右に首を振る。

「ムスビはなにか聞いておらぬのか?」
「何があるのかまでは教えてもらってないよ。ただ…」
『ただ?』

薄霧に包まれた薬草林を見つめながら、ムスビが一度瞳を伏せる。そして神妙な面持ちでイタチとリクハを交互に見つめたあと、ゆっくりと、丁寧な口調でこう告げた。

「この薬草林の奥にあるのは…」

うちはと仙波にとっての神域、約束の地・・・・であると。


Mission.15


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