その昔、蔓延する飢饉から救いを求めたとある村で、卓越した医療忍術を有する一人の巫女が、神への生贄として選ばれた。
空のきらめきをそのまま閉じ込めたような空色の髪が風に揺れ、雪のように白く透き通る肌は光に触れれば宝石のように輝く。影の中にいても、まるで一枚の絵のように見とれてしまう存在。誰もが振り返り、そして目を離せなくなる――そんな絶世の美女を救い護ったのが、全てのはじまりだった。

「私がそなたの矛となり盾となり、その身を護ろう」


そう告げた男の瞳は、美しくも影のある紅に染まっていたという。

「それがうちはと仙波のはじまりだった」

医療忍術に長けた不戦の一族である仙波を、高い戦闘力を有するうちは一族が護る。この関係性は双方にとって利益があった。類い稀な医療忍術を扱える仙波一族の人間はその昔、人攫いや宗教的な生贄、また、その容姿の美しさから男女問わず辱めを受け見世物にされるなど、非人道的な行いの犠牲となっていた。それに歯止めをかけたのがうちはという最強の矛と盾。
仙波に手を出せば"うちはの報復"を受けると噂は広まり、犠牲者は年々数を減らしていった。そして、うちはにとっても仙波の医療忍術は一族の繁栄に大きな影響をもたらした。

「そして、時は戦乱の世に移り変わり、仙波一族の中で最初の覚醒者が現れた」

人々はその力を"神手"と呼び、覚醒者は血統の象徴と崇められた。人の生死を司る力は他に類を見ない。当然、その力を欲する輩は次から次へと現れた。その渦中で、うちは一族の中から命懸けで神手を護る者ーー"護人"という役目が生まれたのだと、ムスビは語った。

『そんな役目があるなんて、母からは何も…』
「それはまだ君たちが幼かったからだと思う」

現にムスビたちが"護人"の話しを聞いたのも、三番目が亡くなってから数年後のことだった。

「今の話しでだいぶ理解できたと思うけど、神手を継いだリクハちゃんにはこの先"護人"が必要になってくる」

神手が生み出すチャクラは全知全能に近い。その名の通りなんでもできる神の手だ。実に魅力的な力であるが故に、戦時でなくともその力を欲する輩はあとを絶たない。仙波一族の悲史に不快感を抱きながら、リクハは体の前で組んだ両手をぎゅっと握りしめた。

「護人になる人間はどう選ばれる?」

イタチの問いに瞳を伏せ、小さく息を吐いたムスビ。
改まったように背筋を伸ばし、少しだけ間を置き視線をあげる。強い意志を感じさせる意を決したような表情を浮かべて、口を開く。

「護人になる人間は、神手継承者が最も信頼をおく相手」

ムスビの真剣な眼差しが、リクハではなく同胞であるイタチを見つめる。

『…私が一番信頼してる人間ってことですか?』
「そう。とはいっても、ただ信頼してるだけじゃ駄目だ」
『というと?』
「双方の想いの強さが重要なんだよ」
『「……?」』

自身の回答に難色を示した若い二人に、そりゃそうなるよねと苦笑いを浮かべたムスビ。ハスナとアキトもそうだったと懐かしそうに目を閉じる。

「さっきも言ったけど神手の力は全知全能だ」

ゆっくりと瞼を開いていくムスビが、イタチとリクハを交互に見つめる。少し不安を宿した空色の瞳とは対照的に、すでに何かを覚悟しているようなイタチの漆黒の瞳が頼もしくうつり込む。

「その力を所有できるのはこの世でたった一人だけ。だから神手のチャクラは継承者を護る者、護人になった人間にはそれ相応の力を与えるんだ。計り知れない膨大な力は生半可な覚悟を持った者の命を奪うけど、心の底から護りたいと願っている想いの強さには呼応する。つまり護人に選ばれる人間は…」

"神手継承者を命を賭してでも護ると誓える、想いの強さで決まるんだよ。"

「想いの強さ…」

ムスビの言葉を復唱するようにつぶやくと、不思議と目の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。しかしそれは写輪眼を開眼したときたような焔に似た熱ではない。もっとこう、優しい灯りが灯るような感覚だ。自然と隣にいるリクハに視線を向けると、二人同時に互いを見つめる形となり視線が重なる。

『……』

その刹那、なぜか動揺をみせたリクハが唇をきゅっと結んで恥ずかしそうに顔を背けた。

「見ろムスビ!ねね様顔がりんごみたいじゃ!」
「え〜かわいいねリクハちゃん」
『かわからないでください』

恥ずかしさから逃れるようにギロリとムスビを睨むリクハ。さすがうちはの血が混ざってるだけある…と、その眼光の鋭さに気圧されたムスビがイタチの背後に周り身を縮めた。

「そんなわけで、君たちは"約束の地"へ向かってね」

言いながらイタチの背中を押し、無理矢理結界内に押し込もうとする。

「おい…」
「僕らはここで待ってるからね」
「にに様!ねね様をよろしくたのむぞっ」
『え?』

小さな手をお袈裟なほど大きく振って、薬草林の中に入っていく二人を見送るミツハ。先ほどのムスビのように弾かれることなく二人の体は結界の内側へ。誘うように続く薄暗い道をイタチが一歩前を進む形で歩き始めると、二人の姿はすぐに視界から消えていった。

「私もにに様のようにかっこよくて強い護人がほしいぞ」
「イタチ君は1000年に一度の逸材だよミツハちゃん」
「じゃあシスイというにに様はどうじゃ?」
「それも無理かなあ。あの三人は特別だから」

その心の目に映るのは、あまりにも特別なイタチとシスイ、そしてリクハという三人の存在。まるで神のイタズラかと思えるほどに、彼らの繋がりは必然的で運命的。口を尖らせて、なぜ無理なんだと自身を見上げてくるミツハに視線を移し、穏やかに微笑んだムスビがゆっくりと話し始める。

「護人はね、お互いに想い合ってなきゃいけない」
「シスイのにに様もねね様がすきなのか?」
「そうだね。愛情のカタチは違うけれどね」
「羨ましいのぅ。護人候補が二人もいるとは」

さすがはねね様じゃ!とまるで自分のことのように胸を張るミツハ。

「本当に凄いよね。先生には護人がいなかったんだから」
「私にも現われるかの?」
「その前にミツハちゃんは、神手を継ぐくらい優秀で聡明な女性にならないとね」
「ならばねね様に弟子入りせねばな!」

意気揚々と語る幼いミツハに笑顔を向けてから、二人が消えた薬草林に視線を戻す。この場所で神手後継者と護人候補を見送り待つのはこれで二度目。こんなにも早く代変わりしてしまうとは…今は亡き友二人に思いを馳せながら、ムスビはゆっくりと目を閉じた。


Mission.16


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