『暇だなあ…』
「今は任務中だ」
『だけど全然動きがないし…待機って苦手で』
「オレは苦じゃないがな」
『さすが忍耐力あるなあ、イタチは。羨ましい』
「お前といるからそう思うだけだ」
『え?』

持っていたクナイを研ぎ終わり、持ち手をくるりと反転させリクハに手渡す。

「そうか。オレとの任務は暇か」
『!!』
「というより、オレと過ごす時間を退屈に感じてるってことか」
『ちがっ、断じてそれはないっ!イタチごめんねっ。怒った?』
「少しお前との関係を見つめ直す必要がありそうだ」
『ええぇっ!?嘘っ、やだっ、嫌いにならないで!』
「くすっ…。冗談だ」

目を丸くしながらあたふたと取り乱す愛妻が愛おしい。もう随分長いこと一緒にいるが、感情表現豊かな反応は本当に飽きない。そう思うのは自分が心底惚れているからなんだろうなと内心自嘲し、リクハの額を小突き穏やかに微笑んでみせた。

今日は久方ぶりとなるツーマンセル。
五代目火影である綱手からの直々の任務。
内容はいたってシンプルなもので、大戦を経て大きく疲弊している各里の「資源略奪」を企てている、盗賊組織の壊滅だ。

「今は大戦後の復興で人手が足りん。悪いが暗部を率いて…」
『綱手様、イタチと暗部を関わらせないで下さい』
「ならリクハ、お前が行け」
『私は医療班での指揮が…』
「じゃあガイと組ませるがいいのか?」
『よくないです。私が行きます』

というやり取りの後、二人は任務に赴いている。
今は薄暗い森の中、巨木の枝の上で身を潜め敵アジトを見張っている。リクハが退屈だと言い始めたのは、見張りを始めてから三時間が経過した頃のことだった。

『本気で焦った…』
「そうゆうところも変わらないな、お前は」
『イタチの冗談が冗談に聞こえないところもね』
「つい最近、サスケにも同じことを言われたな」

不自然に視線をそらしたイタチに違和感を感じ、首を傾げるリクハ。

『サスケとはいろいろあったけど、仲良くやってる?』
「ああ。普通だよ」
『……』
「…特になにもない。相変わらずだ」

言いながら自分を見ようとしないイタチに対し、疑いの目を向けるリクハ。なにか隠し事をしているのは明白で、何十年一緒に過ごしてきたと思ってるんだと内心呟き、リクハはイタチの肩に手を置いて無理矢理視線を合わせた。

『本当になにもないの?』
「ああ」
『………』
「いや…すまない。実は昨日少し、口論になってな」
『なんで隠すの』

リクハの無言の圧力に負け、気まずそうに口を開いたイタチ。別に隠す必要はない。そう思いながら肩に手を置き理由を問う。

「要はサスケなりに、オレたちを心配しているんだ」
『心配?私たちなら問題ないよ、大丈夫』
「………」
『なにが心配なんだろ…』

う〜んと首を傾げるリクハを前に、サスケの言い分は痛いところをついていたなと思わされる。それと同時に少しばかり複雑な気持ちを感じたことは自身の中に留めておくことにした。

『私がサスケと話そうか?』
「なあ、リクハ」
『ん?』
「お前、オレと婚約したってこと忘れてないよな?」
『………』
「………」
『……忘れてなっ…』
「完全に忘れてたな」

再び焦せるリクハ。
イタチほど優れた理解力が備わっているわけではないが、そこまで言われてどうしてサスケと口論になったのか理解することができた。
要するに、婚約したにも関わらず、なかなか前に進もうとしない自分たちを見兼ねたサスケが気を利かせてくれているのだ。自分やナルト、里のことはもういいから早く幸せになってくれと。
だが二人はどこまでいっても木ノ葉の忍らしく里や任務を優先してばかり。それでもこうしてリクハと過ごせる時間が幸せなのだと言った兄とは意見が食い違い、喧嘩。しかしサスケには、もう一つだけどうしても解せないことがあるのだとイタチが気まずそうに口にした。
それはリクハが、ナルトを心配してばかりいるということだ。

『あの子はサスケと違って生活能力が皆無だから…』
「だからといって今の生活はナルトの為にならない」
『それは解ってるし、やり過ぎないようにはしてる』
「ならそろそろ、あいつとの距離感を考えろ」
『…う、うん…』
「お前がそばに居続けると、ナルトを想う奴が尻込みするぞ」
『…それって日向ちゃんのこと言ってる?』
「さあな。だが、今じゃあいつも里の英雄だ」

"お前がいつまでも手を焼くような相手じゃない。"
そう言ったイタチがゆっくりと瞳を伏せる。
里を思い、里のために全てを失い、奪われ、陰で平和を支えたイタチへの称賛は少ない。あまりにも悲惨な事件だったが故に事実を知らされていない人間のほうが大多数を占めているからだ。太陽の日の下を、多くの称賛と共に歩むことができるようになったナルトと、多くの心無い言葉を受け止めながら生きていくイタチ。ずっとそばにいたせいか、支えられているのだと勘違いをしていた。自分が一番に考えるべきは…ナルトではない。イタチなのだ。

『本当、イタチの言う通りだね』
「……?」
『いろんな恩赦があって里に戻れて、それで解決なわけないのに…私里や任務やナルトのことばっかりだった』
「それはお前だけじゃない。オレも同じだ」
『ごめんね。自分たちのこと、もっとちゃんと考えよう』

恥ずかしがることもなくそう言い切ったリクハの大きな瞳がイタチを見つめる。なんだかこっちが気恥ずかしくなってしまいそうで、イタチは一瞬だけ視線を反らしたがまたすぐにリクハに視線を戻す。

『…私はナルトのことすごく大切に思ってるし、大好きだよ。イタチがサスケを思うのと同じ』
「そうだな」
『でも』
「?」
『でもやっぱり私は、イタチのことが一番好き』
「…リクハ」

頬をほんのりと赤く染め下唇を噛みしめながらそう言ったリクハを、イタチは優しく抱き寄せ笑みを浮かべた。
リクハがナルトを実の息子のように可愛がっているのは知っている。そこに恋愛的な感情がないということも。しかし実際、嫉妬しないわけではない。
嫌だと思う場面はいくらでもあった。
けれど今、こうしてリクハを抱きしめているのが自分であることに幸福を感じる。

「愛してる、リクハ」

額をコツンッ…と重ねると、リクハの澄んだ瞳と視線が絡む。こういった雰囲気の苦手な彼女だ。さぞ困惑しているに違いない。イタチはリクハの後頭部に優しく手を添え、桜色の唇にキスをした。

『大好き…』


任務中でもに夢中


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